第21話 sideシスター・リニ
「あらあら、残念。もっとお話ししたかったのに」
レキ=バクシーが去った礼拝堂に、シスター・リニの小さな呟きがただよう。
どうやら本心からそう思っているようだ。
「お姉さまは、あの者にずいぶんとご執心なのですね」
そこに現れたのはシスター・リニよりも少し若いシスター。その声には、重めな情念がこもっている。
どうやら通常のシスターではなさそうだ。そのシスター服は短く切り詰められ、まるで戦闘を想定したかのように急所急所を守るように補強がなされている。短めの髪と合わさってなかなか活発な様子。
「今日の当番はシスター・アズルマイカですか。夜遅くまで、ご苦労様です」
「もったいないお言葉! 高潔なる聖女であられるお姉さまのお側に侍る栄誉に、苦労などございません」
ころっと機嫌が治った様子で鼻息荒く告げるシスター・アズルマイカ。
「私はまだ、聖女としては見習いですけれどね。それでシスター・アズルマイカはあの方をどうみます?」
「危険ですね」
短く断定するように告げるシスター・アズルマイカ。
「危険。理由をうかがえますか?」
「もちろんです。あの者は、つい先ほども神へと触れていました。間違いありません。その身に伝う加護の息吹が、一瞬で倍増しています」
「つまり、かの方へと加護を与えているのは、名もなき32の神々の一柱だと?」
「間違いなく」
「──それは、凄いわね」
思わず言葉を失ったようになるシスター・リニ。
「お姉さまとて、大変素晴らしいです!」
そんなシスター・リニの様子に慌てたように告げるシスター・アズルマイカ。
「ふふ。ありがとう。私も、加護をお与え頂いた亜神ターヘルナ様には、いつも感謝を捧げておりますよ。しかしそうですか。名もなき32の神々の加護ですか。これはいよいよ手放すわけにはいきませんね」
「──お姉さまが直々に接触されなくてもよかったのでは?」
「あら、シスター・アズルマイカが志願したかったのですか? まあ、確かになかなか渋くて素敵ですよね。苦労を知り、それでもたゆまぬ努力を続けて人物特有の、大人の魅力がありますね」
朗らかに告げるシスター・リニ。
それに対してシスター・アズルマイカはおもいっきり顔をしかめている。
「志願などしません!」
「あら、まあ。……ふふ。ごめんなさいね」
謝りながら両手を伸ばして、シスター・アズルマイカのぷくっとふくれた両頬に添えるように手を置くシスター・リニ。
そのままゆっくりとその頬をさする。
「お、お姉さま……」
「さあ、機嫌をなおしてくださいまし」
「──なおりました」
「いい子ね。さて、では教区事務所に戻りましょう。名もなき32の神の加護を持つ者なのであれば、明日のために用意した書類も変更が出てきます」
「はい。お供します」
スッとシスター・アズルマイカの姿が消える。まるで影に潜むかのように。
しかしシスター・リニはそれを慣れたものとばかりに、気にするそぶりはなかった。
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