第37話 School Life(学校生活)
「何というか流石彦善のご両親だな、お前の一人暮らしといい、相変わらず無茶をする。国際情勢というのは大変なんだな」
「あはは、まーね……」
「それと夕映、休日とはいえお前が登校してくれて嬉しいよ。……いつでも待ってるからな」
「う、うん」
先程パソコン室の前で静と出くわして、ノヴァの姿を見られた直後。
「いとこだと、嘘をつくな! ……ぐすっ、私にはわかるぞ、お前の……妹なんだな……!」
「え?」
何故かノヴァを見て瞳に涙を浮かべた静が、彦善の肩にぽん、と手を置いた。
「お兄ちゃん、この人誰? あ、武器持ってる」
「私は紅ヶ原 静だ。よろしくな。日本語が上手だね。これは竹刀って言って……まぁ武器か」
「へー。私はノヴァです。言葉はお母さんに習ったの」
「お母さん? 一緒に来たのかい?」
「ううん、今はもういないけど……」
「――っ!!」
ノヴァの言葉をどう解釈したのか、ボロボロと泣き出す静を見て、彦善は
(そう言えば、前に僕の小さい頃の話したときもガン泣きされたな……)
と思い出していた。
「この子も、彦善のご両親に助けられたのか?」
「う、うんまあ、ね。でも戸籍とか手続きがまだでさ、だから一応僕のいとこって言うことで……」
「この時代にもまだそんなことがあるんだな……ノヴァちゃん、欲しいものやしたいことは何でも言うんだぞ、ここは安全な場所だからな……」
言いながら、静はノヴァをひしっと抱きしめ、頭をよしよしと撫でる。
「えっ良いの? 静おねーちゃん、優しいね! ありがとう!」
「お、おねーちゃ……ぐすっ、なんて良い子なんだ……」
感極まってノヴァの頭を撫で続ける静だったが、ノヴァの表情は明るかった。
「彦善だいじょ……あっ、
と、そこへ夕映もパソコン室から顔を出す。
「夕映? 夕映じゃないか! お前……登校しようと頑張ってたんだな……!」
そしてさらに誤解が重なって、助けを求める視線に彦善が頷きで返した。
「いや、わたしは……あ、うん、そうだよ。日曜だけど」
「良いんだそんなことは。嬉しいなあ、私はこれから部活だけど……夕映の家にまたお邪魔させてもらうから、また……遊ぼうな」
「うん……料理、ありがとうな。すげー美味しかった……また、食べたい」
「あはは、任せてくれ。じゃあな」
そうして手を振り、機嫌良く去って行く静が見えなくなったころ、3名はパソコン室に引っ込んだ。
「大丈夫だったかい?」
「ええ、友人だったんで助かりました」
「そうか、そりゃ良かった」
「良い人だったよー」
安全を確認したところでせきながパソコンを操作し、画面にはどこかの監視カメラの映像が映る。
「ピンチを乗り越えたところ悪いんだけど、見てくれるかな夕映ちゃん」
「はい」
真剣な表情で返事をして、夕映が昨日のように4台のパソコンを動かす。
4つの画面のうち1つを全画面表示にして、映し出されたのはニュース映像だった。
「本日未明、
病院に搬送されたのはいずれも暴力団組員とされ、現場には覚醒剤と見られる白い粉が大量にちらばっており、奈路町警察署は会見にて、『暴力団が麻薬の取引の際に仲間割れを起こした可能性が高いが、いずれにせよ地域の皆様を強く不安にさせる事件であり、今後もパトロールを強化するとともに、違法薬物の撲滅を訴えていきたい』との発表がありました」
「隣町ですよね、コレ。まさか……」
「そのまさかだろうさ。夕映ちゃん、警察の証拠データ出せるかな?」
「この映像ですね」
言われ、画面に出てきたのは監視カメラの定点映像。既に切り抜いてあるそれは、コンビニの防犯カメラからのものだった。
手前からコンビニのレジ、入口、そして外の駐車場が画面上端にわずかに見え、駐車場に車のライトが光る。
「昨夜の深夜に一人だけ来店……仲間が裏手へ、か。なるほど、ワンオペの時間なら裏に人目がないから囮で釣って……」
呟くせきなが暴力団員の動きを口にして、画面には手前で入店した暴力団員が店員を呼びつけ、何やら要求しているようだった。
するとその間にもう一台の車が駐車場に現れ、降りた人影が先程画面外に消えた暴力団員たちを追うように去って行く。
その後何も知らないであろう店内の暴力団員は店を出てすぐに仲間の後を追うように画面から消え、そのすぐ後に人影が車に戻り、走り去るものの、暴力団員たちが乗ってきた車が去る様子は無かった。
「……他の映像無いかな」
「待ってください、今……あ、これかな」
新しい映像が展開され、どうやらマンションの高層階からの壁面監視カメラらしいが、例のコンビニの裏手も端に映っている。
「時間は……このへんか。あっ」
一目瞭然だった。
男たちが人気のない駐車場裏で車を並べ潜む中へ、人影が一つ近づく。
しばらく何やら揉めたような雰囲気になった後、武器を構えた男たちは人影に襲いかかり、一定の距離に近づいた人間から感電でもしたかのように倒れ、そのまま動かなくなっていた。
「シルエットしか見えないけど、ほぼ間違いなく八咫じゃないかな」
「違うよ」
「え?」
「似てるけど、違う。ちょっと待ってて」
そう言うとノヴァが指先を変化させてパソコンに差し込み、画面にノイズが走って色彩が変わっていく。
黒一色だった小さな人影は鮮明な色彩に変わり、現れたのは狐面をつけた和服で金髪の少女。
それを見て、せきなが血相を変えた。
「これ……何してんだ? このいかにも怪しい狐面で……いや、大体想像はつくんだけどさ」
「……脳を外部からコントロールしてる。お兄ちゃん、一昨日のテスト、覚えてる?」
「ああ、数学の?」
妙に簡単だったあのテストか、と思考したと同時、察する。
「私達の万能ナノマシンは生体との拒否反応を起こしにくいの。だから計算能力のサポートも可能ではあるけど、もっと出力を上げれば……」
「こうして操れる、ってか。酷いな……」
「……そう」
説明するノヴァの顔は暗く、しかしそこにせきなが尋ねた。
「元には戻るのかい?」
「この映像だけじゃ分からないけど、自分の契約者を殺したら当然失格だから……命は無事なはず」
「はず、か。ひでーことしやがる……」
「……そうかい」
ぎりっ、と歯ぎしりをする音がして、場の雰囲気が沈んでいく。
「じゃあそろそろ、片付けて出発しませんか? 地下から行くって話でしたよね」
そこに彦善が口を開いて、穏やかに言った。
「おっと悪い。その通りだね。道案内は任せてくれ……いよいよ負けるわけにはいかなくなってきたようだからね」
窓の外は、曇天。
雨の近づく湿った空気が、雰囲気に陰を落としていた。
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