第2話・出会いは取調室


 二〇三〇年、四月。警視庁本庁十二階の第一取調室にて、俺は今とある被疑者と対峙している。

「白鳥泉水、二十歳。被害届の内容は結婚詐欺……」

 俺はバインダーの中身を確認すると、正面に座った女へ視線を流した。長い黒髪はきちんと手入れされているのか、艶がある。机の上で組まれた手の爪は綺麗にネイルが施され、表情にも余裕がある。

 さすが詐欺罪が突き付けられてるだけあって図太い。


「どうだ。こんな狭い取調室に連れてこられた感想は?」

「警視庁初めてきたけど、大っきいんだね」

 甘ったるい声。

 たしかにそこら辺の女より顔は整っているかもしれないが、こんな胡散臭い女に騙される男も男だ。

「お兄さんいくつ? かっこいいね」

 白鳥は両肘をテーブルにつき、目を細めて俺を見る。まるで値踏みするかのような視線。

「はぁ……」

「あっ。ため息つくと幸せが逃げちゃうんだゾ」

 つくづく思う。男って馬鹿だな。


 俺はバインダーの中の調書に視線を落とすふりをして、机の下を覗く。

 白鳥は足を組んでいる。緊張の気配はない。

 俺は白鳥に向き直った。

「お前は山田やまだアオイを名乗り、被害者男性に近付き、金を騙し取った。被害総額は二千万。なにか間違っているところはあるか」


 すると白鳥は腕を組み、好戦的な視線を向けてきた。

「ねぇ」

 嫌な予感がする。

「お兄さん、人と話すときはまず名乗ろうよ?」

 カチン。

「チッ」

 

 礼儀を考えれば、たしかにこいつの言う通りだがしかしムカつく。偽名を名乗っている奴に言われたくねぇし。

「……失礼。今回、お前の取り調べを担当する黒咲晴だ」

 俺はポーカーフェイスで答えた。

「晴くん、彼女いるの?」

 いきなり名前かよ。

「泉水、晴くんのこと好きになっちゃったかも」

 脳の神経が何本か切れた気がする。

「頭が痛い」

「えー大丈夫?」

「お前、今の自分の状況わかってんのか?」

 すると白鳥は頬杖をつき、どこか斜め上辺りへ視線をやって、言った。

「恋って、理屈じゃないのよね」

「二十歳のくせになに言ってんだ」

 シバいたろか、こいつ。

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