第43話 仁と天(1)

仁と天


白龍に出会い、私の笛に新たに龍笛が授けられてから、子供たちは笛に興味を持った。

最初は私の持っている笛自体に興味を持ち、次に音色に興味を持ち始めた。それから音楽そのものに興味を抱いた。そして5歳になったとき、フルートを習いたいと言ってきた。それは奇しくも私が母からフルートを習い始めた年齢だった。


そこで母と私の二人で教えることにした。私が教えるのは本当に基礎的な事で、母が教えるのは表現の仕方。後は己と向き合い、どのように音楽を表現するかは其々に任せた。

アドバイスは当然したが、それ以外は基本放置だった。習いたいと言ったのは本人たちなので、練習をするもしないも自分達次第である。


そんな二人は切磋琢磨しながらめきめきと腕を上げ、気が付けば子供たちは15歳になっていた。

仁と天は毎日裏山の池の畔で練習を重ねている。


私も昔は裏山で練習した。精霊から笛を授かったのも私が15歳の時だった。ほんとに懐かしい。


今私は、演奏活動で全国を飛び回っている。ソロでリサイタルを開く時もあれば、お義姉さんでもあり親友である結芽と一緒に公演するときもある。


私の公演チケットは大人気の様で、発売と同時に完売になる。本当にありがたい事だ。

巷では私の事を巨匠と呼ぶ人もいるらしいが、照れ臭くて仕方がない。


まあ、そんな私の事はさておいて、仁と天の話しに戻そう


仁と天は日頃の努力の甲斐あってフルートの天才と呼ばれていた。


仁は聞く人の感情に訴えるような煽情的な音を奏でた。思いやりの心をもって生きて欲しいと名付けた”仁”という名前にぴったりの表現の仕方だった。


対する天は自分の心情をストレートに表現する抒情的な音。これは、天の魂に由来するかもしれない。天は以前浄化した妖鬼の生まれ変わりだと、産んでから数日後に颯さんが言った。


聞いたときは吃驚したが、「お前達に幸せにしてもらう」と、妖鬼の言っていた意味がやっと分かり、納得したのと同時に、何て鈍感だったのだろうと思った事を覚えている。


音の表現の仕方は正反対だったが、二人が一緒に演奏すると、その音は何処までも透明で繊細で美しく、人を魅了して止まなかった。


子供たちは最近、SNSや動画投稿サイトにアカウントを作成して、クラシックの名曲から、アニメの主題歌、ポップス、オリジナルの曲など、ジャンルを問わず自分たちの演奏をアップし始めた。

すると、ひと月も経たないうちに再生回数5000万回以上という驚異の再生回数を叩き出した。


ネットに投稿する時は、アニメの”美少女戦士”の仮面を被って演奏している。二人共同じ主人公の仮面だ。素性も場所も分からないようにしているが、フルートの演奏があまりにも素晴らしいので、ネットでは”美少女戦士の天才フルート奏者”として有名となった。


子供たちは颯さんと瓜二つならぬ三つなので、もし子供たちが顔出ししたら世間でもっと騒がれることは間違いない。仁と天は髪の毛が栗毛色で瞳の色は黒。それ以外の顔立ちは颯さんとほぼ一緒。つまり、色白の肌にきりっとした眉、吸い込まれそうなほど深い透き通るような瞳。鼻筋はすっと通り、薄くも厚くもない形の良い唇。もう、非の打ち所がない。


ただし、学校では目立たないように変装している。仁は黒い鬘を被って黒縁の眼鏡をかけ、天は長く伸ばした髪を二つに分けて三つ編みにして、顔にそばかすを書いて茶色いフレームの眼鏡をかけている。フルートを吹くことも内緒にしてあるのでネットで大人気のフルート奏者だとはバレていない。


学校の成績は二人共常に上位である。スポーツは仁は得意だが天は苦手。部活はサッカー部と料理部に入っている。二人はそれぞれ仲の良い友人にも恵まれ学校生活を楽しんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る