第20話 鎧武者の悪魔(3)
諸事情により、投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした>︿<
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この三年で魔物は慣れていたつもりである。恐怖も毎回味わっているし。それなのに特別な恐怖感が襲う。
でも必ず颯さんと一緒に結芽を必ず助ける。と強く願った。
颯さんはオオカミから人に姿を戻し、倶利伽羅剣を握っていた。彼は私を背に庇い「目を見るな」と念押しした。
彼自身も視線を合わせないようにわずかに首を下に向け半眼にする。
鎧武者は金色に光る眼を容赦なくこちらに向けて近づいてくるのが分かった。
額にも背中にも脂汗が流れる。彼は半眼のまま上段の構えをし、戦闘態勢に入った。
カシャ‥。カシャ。鎧武者は距離を詰めてきた。
武者が腰の刀に手を掛け抜いた刀にも怪しい妖気が漂っている。そして一気に襲い掛かってきた。
キイン!!刃と刃が激しく音を立ててぶつかった。
私は彼の動きの邪魔にならないよう、彼の右手後ろに1m程移動し距離を取った。
だが鎧武者はそれを見逃さなかった。
颯さんの刃を押し返し、向かい合うように視線を私に向けようとしているのが分かった。
私は必死に彼の動きに合わせ更に右手方向へ逃げながら視線を合わせまいと彼と同じく半眼にする。
「私にしがみつけ!!」彼がそう叫ぶ。
私は手を伸ばし後ろから両肩に手をまわした。両足は胴に絡めてしがみつく。
要するにおんぶだ。
「目を瞑っていろ!」
たくましい彼は、私を軽々おんぶしながら再び妖怪と戦う。
だが半眼では動きがどうしても鈍くなる。しかも私をおんぶしているから余計に動きづらい。
何とかこの状況を乗り越えなければ・・・。
そうだ!
「颯さん!鎧武者と距離とってください。そして思いっきり空中に放り上げて!なるべく高く!」
「お前が怪我をするから駄目だ!」「大丈夫です!怪我なんかしません!」と叫ぶ。
きっと大丈夫。と笛を握りしめる。
私の気迫に何かを感じ、素早く後ずさりして背中から私を下ろし、力を込めて思いきり投げ上げた。
空気を切る音がするが構ってなどいられない。
私を投げた直後、鎧武者は剣を構えて颯さんに向かって走ってきた。彼も剣を構えている。
私は空中で笛を口元に持っていった。音が出せないかもしれない。いや、出さなければ。どんなにひどい音でも構わない。
どうかお願い。助けてください。と必死に願い練習曲”スケール”を超高速で吹いた。
するとゴウっ!と下から風が吹き上げフーセンのような幕が出来て、私は空中に浮かんだ状態になったのだった。
鎧武者の刀と彼の剣が再びぶつかり合い激しさを増していた。視線を合わせられない分、彼の方が押されているように見える。
私は深呼吸して空中に浮いた状態で”青狼の笛”を奏でる。神秘的な調べがその場を包み込む。
すると、鎧武者の様子が明らかに可笑しくなってきた。刀を上げては下げ、を何回も繰り返しきょろきょろとあちこちを見渡していた。ひょっとして颯さんの姿が見えなくなったのかもしれない。
更には金色に光っていた目の色が段々と白っぽい色になっていくのが分かった。
彼はその変化にすぐ気づき、視線を上げ妖怪を見る。浄化は今しかない。
いつの間にか左手に現れた羂索で鎧武者を素早く縛り上げた。そして、剣を上段に構え振り下ろした。
だが鎧武者は縛られながらもそれをさっと避けてしまったのだ!しかも縄を解こうと剣を縄に当てがっている。
颯さんは倶利伽羅剣に迦楼羅の炎を纏わせ、剣を振って炎を放った。炎はゴォッ!という音を立てて鎧武者に向かうが鎧武者はそれをギリギリで躱し、眼も金色に戻りつつあった。こうなってしまうと厄介だ。
眼を合わさないように颯さんが一瞬下を向いた。その隙に鎧武者は羂索を解いてしまった。
そして浮いている私に照準を合わせたのが分かった。私は背中に脂汗をかきながらも目を瞑りひたすら笛を吹き続けた。
鎧武者が剣を構えて立ち上がった時、ゴロゴロ!という雷鳴が突然聞こえてきた。その直後、
ピカッ!と光り、ドオオン!と物凄い爆音がして、凄まじい光と音の衝撃に私は何が起きたのか理解できなかった。
暫く呆然と下を見つめていたが、ハッと我に返った私は風船の膜に包まれて慌てて下に向かった。
足が地面を掴むと自然に幕は消え去り、辺りは静寂が戻っていた。
鎧武者が何処に居るか分からないので警戒しながら辺りを窺う。
と、すぐ近くから焦げ臭い匂いがした。
恐る恐る匂いの元を探し、眼を凝らすと何か黒い塊のような物が見えた。
それは、黒焦げの甲冑だった。
禍々しい感じは何もなく、ただ黒焦げの甲冑のみがあっただけだった。
つまり、鎧武者は雷の直撃を受けて消えたのだった。
ハッ!颯さん!
颯さんは無事なのかと必死に眼を凝らして窺うと、片膝を付き両手を倶利伽羅剣に乗せて身体を支え頭は下に向けて蹲っていた。
その姿に私は体中から血の気が抜けた気がした。「颯さん!!」と叫んで慌てて走り寄った。
だが、次の瞬間颯さんは私の方へ顔を向けて大丈夫だよとほほ笑んだ。
「ああ!良かった!無事だったんですね。心配しました!」
「明日香の笛に又守られたね。有難う。だが、雷は流石に衝撃が大きかったよ。」
「私も何が起きたのか分かりませんでした。でも精霊の笛が導いたことだったんですね。」
「そうだね。」
そして一呼吸置いて
「ふう、帰ろうか。」と穏やかに言った。
「はい。帰りましょう。」時間は夜11時過ぎになっていた。
結芽に憑いたものは無事祓えたか。と心配しつつ自宅へ急いだ。
本堂は静かだった。護摩焚き祈願が終わったらしい。
「ただいま」と言って家に入ると颯さんは姿を見えないようにしている。
「おかえり」と父が迎えてくれた。
「結芽は?」
「大丈夫。ちょっと時間かかったけれど綺麗に取ったよ。疲れたみたいで今は寝てる。」と言った。
「良かった。お父さんありがとう。」
「お前たちも大変だったね。お疲れ様」と労ってくれた。
「夜食、食べる?」と母が顔を出して言った。
「そういえばお腹すいたね。」
そして、夜食というには重い焼き肉を二人で堪能した。颯さんの大好物。母の労いだった。
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