第3話 出会いと結婚(2)

「うん、でもどう話せばいいか…。」戸惑いながら言う。


「実は不動様のお告げがあってね。さっき明日香に起こったことはすべてわかってたよ。」

住職の父は優秀な霊能力者である。


「そうだったんだ。じゃあ、2年前も分かってたの?!」


「そうだね。あの時は言いたくなかったみたいだったから黙ってたけれど。」


「・・・。私はどうしたらいいの?」


「今は混乱しているよね。」


「うん」


「明日香。実はお前を授かった時も不動様のお告げがあってね。17歳で運命の出会いがあり結婚する。相手は私の分け御魂。この子はその相手の使命を共に背負うとね」


「最初から決められていたってこと?!」何か悔しい。


「いくら不動様がそう告げたとて、意思を持った人間だから決めるのは明日香だよ。常識では考えられない話だしね」

父は優しく微笑んでそう言ったので心が少し軽くなった。


「お母さんに話してごらん」


「うん。その前にちょっとだけ休みたいな」


そう言って自室へと向かった。ベッドに腰かけてしばらくボーっとしていると、ドアをノックして入ってきたのはフルートを持った母だった。


「今日は鑑賞する?!」と言われたので


「うん。お願い」と言った。


「何吹こうか?!」「お任せで。」


「じゃ、これね」と言って”聖母の祈り”を演奏してくれた。

心に染みわたる。


「お父さんから聞いたよ。」「そっか」


「いきなり結婚なんて言われても戸惑うよ。しかもあやかしなんて。」


「その人(?)の事嫌なの?!」


「今日会ったばかりだから好きでも嫌いでもないし、戸惑いのほうが大きい。」「そっか」


「あやかしって人間とは何もかも違うでしょう?私は年を取っていくけど彼は絶対そのまま。寿命で私が死んでも彼は生きてる」

「確かにね。でもね、人と結婚してもある意味同じなのよ。どっちが早く死ぬなんてわからないし、年齢だってどっちが年上だとか何歳差とかの決まりはないし」


「・・・うん。」


「明日香がその人を絶対に受け入れたくないなら運命とか関係なく嫌だとはっきり言えばいい。明日香の気持ちが一番だから。」


「分かった。ありがとう。」


「もう一曲吹く?!」


「うん。じゃ、”鳥かご”お願い」


「はあ・・。何というか…皮肉入ってる?」


「えへへ。ちょっとだけ。景気づけにお願い」


ため息をつきながらもリクエストに応えてくれた。


それから3日間自分の気持ちと向き合ってみた。私はまだ17歳。昨日までは結婚なんて考えもしなかった。


これから笛以外やりたいことが出来るかもしれない。大学にも行きたい。おしゃれもしたい。友達とカフェで将来の事や恋愛の話をしたい。一人暮らしもしてみたい。好きなアーティストのライブに行きたい・・。いろんな考えが浮かぶ。年頃の女の子なら誰でもしたいことだ。でも、それって一時の事だよね。


彼は百合さんが生まれ変わるのをずっと待っていた。そして私と出会って私を愛してると言った。

百合さんの生まれ変わりでも今の私は違う人間。きっと性格も顔も何もかも違う。同じじゃない。

それに、私は年を取って身も心も段々衰えていくけれど、彼はそのまま。どう考えてもおかしい。

結婚したら私の嫌なところだって見えると思う。そうしたらきっと幻滅する。

唯一自身が持てるかもしれないのは精霊の力。

でもこれだって使ったことがないから使えるかどうかも怪しい。


そもそも私が魔物を目の前にして冷静でいられるか?!回れ右して逃げそうだし。伴侶になっても今まで通りで良いって言われたけれど、本当にそれで良いのか?

でも、彼を助けるなんて到底無理なんじゃ。などと、頭の中でぐるぐる自問自答するが結局答えは出なかった。


3日後、彼は再び姿を現した。本当に綺麗な姿形をしている。


「答えを聞きたい。どうか私の妻となってほしい。」


「まだ迷ってます・・。」



そして3日間考え悩んでいた事全部を正直に話した。


「生まれ変わりでも百合と君は違う。そんなこと当たり前だ。私は君に求婚しているんだよ。精霊の力はこれから少しづつ覚えていけばいい。だが無理をして使う必要もない。魔物と戦う必要もない。側にいてくれるだけで私は強くなるから。それに、私は700年生きてるよ?君の何百倍も年取ってる。年を取って外見が変わっても君は君だし、嫌だと思う事も無い。それに、私は君以外愛せないし、君以外いらない。そして、君が幽世へ行くときが来たら、私も一緒に行く。」


あまりにも熱い言葉に私の胸は高鳴った。もう、これは逃げられない。


「それほどまでに私を思ってくれるのですか・・・。わかりました。どうぞよろしくお願いします。」


「ありがとう。決して後悔させない。幸せにする。」


「はい。私も精一杯幸せにします!」


そう言ったら微笑を浮かべ、


「夫婦となるからにはお互い名前で呼ぼうか。明日香」


「はい。では颯さんと呼びます。」


こうして夫婦になる約束をした。


颯さんを自宅へ連れて行くと、両親はこうなることが分かっていたようで驚いた様子はなかった。

父は「そうか。君が。」と言っただけ。母は「まあ、素敵な方ね!」と見惚れた。


唯一驚いたのは兄だった。大学生の兄は西の古都にいる。父と同じ道を歩もうと頑張って勉強中だ。

電話で兄に結婚することを伝えると「ええ!それは一体どういうことだ‼」とかなり驚いていた。


「お前まだ高校生だぞ!一体どうしてそんなことになるんだよ!」と、普通に考えれば当然の反応が返ってくる。

自分だってびっくりなんだから。


「何か間違いを起こしたのか!」


失礼な!と突っ込もうと思ったが、面倒臭いので父に代わりに説明してもらう。

何も知らなかった兄は「まさか、そんなことがあるのか・・・。」と絶句した。


そして颯さんに学校はきちんと卒業したい事と出来れば大学に行きたいと話したら、すんなり承諾してくれた。そして結婚後は我が家に住むことになった。


結婚式は1か月後。事情が事情だけに秘密の式を挙げることになった。

まあ、親友の瑠衣には話そう。信じるかどうかは別として。



いよいよ結婚式は明日。本堂で夜に行う事となった。参拝者もいないし人目につかないから。

当初、式はしないつもりだった。だが両親が娘の花嫁姿をどうしても見たいと強く願い、小さいながらも結婚式を挙げることになったのだ。


明日香は座敷で衣桁に掛けられた黒引き振袖を見つめている。

牡丹、桜などの花柄をメインに亀甲、鶴、扇紋など、縁起の良い柄に金糸銀糸の刺繡が施されている華やかで可愛らしいデザインの衣装だ。

この衣装は母が嫁ぐときに作ったらしい。母が着たものを私が着るのは感慨深い。着るのが楽しみである。

颯さんは黒の紋付羽織袴。容姿が美しいから何を着ても似合うだろう。


そして。

私は花嫁衣裳に身を包んでいた。ヘアメイクは母の友人にお願いした。

文金高島田に角隠し、黒引き振袖を着た明日香は輝くばかりに美しかった。

彼は私を見つめ「とてもきれいだ。」と褒めてくれた。頬が赤く染まる。


彼は黒紋付羽織袴を着ている。私の想像の遥か上をいく美しい姿に見惚れる。

「颯さんこそ素敵です。」


「ありがとう。」とほほ笑んだ。


本堂には司婚者である父、そして母、兄、親友の瑠衣が先に入堂しており私たちの入堂を待っていた。

瑠衣に結婚すると話したら、ものすごい勢いで質問攻めにあった。そりゃ、そうだよね。

でも最後には祝福してくれた。秘密の結婚式なので今日はうちへ泊まる。


颯さんに手を引かれて入堂する。


ご本尊である不動明王の前で父は敬白文朗読をする。そして念珠を授与し、指輪の交換をする。その後新郎新婦が誓いの言葉を述べて終了した。

時間にしてわずか20分くらい。身内だけの結婚式なので人前式に近いかもしれない。

こうして二人は夫婦となった。

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