第22話「血濡れの南西のアジト」

バレットのストーリー上での南西のアジトでの行動は三つ。


まず、潜入している仲間との合流。そして、二つ目にアジトの破壊。三つ目は……


「おい、聞いてるのか?」


「え?あ、うん?」


バレルの声でゆきが気付くと車はいつの間にか目的地に到着し、停車していた。


「降りろ。」


デリンジャーの指示に従い、ゆきは車から降りる。


「「「「「ボス!お待ちしておりました!!」」」」」


降りると部下達が出迎えてくれた。そして支部長のレイヤーがデリンジャーを笑顔で出迎えた。


「デリンジャー様、よくお越しくださいました。わざわざお越しいただけるとは…」


ガチャ


「へ?」


バンッ


「「「?!?!」」」


辺りは騒然とした。デリンジャーは迎えた支部長のレイヤーの頭に銃を突き付けたかと思うと撃ち殺したのだ。


「おい、コレを片付けておけ。副支部長はどこだ。」


「し、しかし…」

「そ、そんな…」


デリンジャーは何事もなかったように指示を出すが周囲の部下達は突然の事に呆然とする者、恐怖にうち震える者、デリンジャーへの恨みを覚える者、皆がそれぞれの反応をしていた。


「………なんで?」


ゆきは震えながら両手で顔を覆った。バレルはそんなゆきを気遣うように上着をかけて視界を覆った。


「?!」


「見るな。」


「ありがとう……。」


すぐに副支部長が現れてデリンジャーを迎える。


「デリンジャー様、よくお越しくださいました。副支部長のベルです。この度は私の手紙をお読みいただき、ありがとうございます。とにかく、奥へとどうぞ。」


副支部長の案内で南西のアジトへと踏みいった。応接間にてソファーにデリンジャーとゆきは座った。バレルはデリンジャーに気を使い立ったままだった。


「あの、手紙って?」


ゆきはデリンジャーに聞いてみた。


「“裏切り者がいる。”」


「……。」


三つ目のバレットの行動、それは支部長を仲間に引き入れる事だった。死んだ支部長のレイヤーは、潜入していたバレットの仲間のウェルロットと親しくなった。そして、ウェルロットは自らがバレットの仲間である事を打ち明ける。レイヤーは南西のアジトから影ながらバレットに協力していたのだ。バレットが西のアジトへとうまく潜入できたのもレイヤーの協力あっての事だった。そして、南西のアジトをバレットは次に抑えようと考えた。南西のアジト破壊後はレイヤーを仲間に入れて旅を進める、と言うストーリーだったのだが……。


「知ってたか?」


コクコクとゆきは頷いて答えた。デリンジャーは煙草に火を付け、ふかせた。


「何故言わなかった?」


「それは……」


ガチャッ


黒く冷たい銃口がゆきの頭に押し付けられた。一瞬、それを見ていたバレルの体が強ばった。しかし、自らの死に瀕してもゆきは落ち着いていた。


「証拠も無しに言っても信じて貰えないかと……」


「なるほど…」


ガチャ


銃口はゆきから離れる。これは元のストーリーにはなかったシナリオである。本来の話しとは違う事にゆきは戸惑った。西のアジトを死守した時点で大きく体制が変わったらしい。


「あの、」


支部長のベルが話しに入ってくる。


「その少女は?」


「俺の連れだ。」

デリンジャーは銃をなおして、煙草をふかせた。


「手紙の件はどうやって調べた?」


バレルも話しに入ってきた。


「貴方には関係ないでしょう?」


ベルはバレルに厳しい視線を送る。


「話せ。俺も聞きたい。」


デリンジャーが静かに煙草をふかせる。

「……はい、粗方は手紙にて報告させていただいた事通りなのですが……。」


ベルは以前からレイヤーの不審な行動を不思議に思っていたそうなのだが、レイヤーの行動が更におかしくなったのは西のアジトがバレットによって襲われてからである。恐らく、本来なら破壊する予定だった西のアジトが死守された事でバレット側の予定が狂ったのだろう。そして、西のアジトへバレットを誘導した証拠が残らないように証拠を隠蔽している所をベルに見られていたらしい。


「と、言う事です。納得いただけましたか?」



「ああ、わかった。」


デリンジャーはそう言うと煙草を灰皿へとねじ込んだ。


「今日はもう遅いので皆さんお部屋へ案内いたします。おい!誰か!」

ベルが呼ぶと使用人らしき者が出てきた。

「はい。」


「皆さんをゲストルームへお連れしろ。」


「はい。」


★★★★★★


デリンジャーとゆきはそれぞれ別の部屋へと案内された。白を基調とした壁紙と家具、整ったベッド、綺麗なシャワールーム、何も入っていないクローゼット、どこを取ってもまるでホテルの一室である。そしてデリンジャーは部屋へと入っていった。廊下にはベル、バレル、ゆきが残る。ベルはバレルを見ながらニタニタと笑みを浮かべていた。


「バレルは野宿でもどうぞ。」


「……言われなくてもそうさせてもらう。」


「デリンジャー様のお気に入りだからとあまり調子に乗るなよ。」


ベルはデリンジャーの付き人のような立ち位置にいるバレルが気に入らないようだった。ベルは言いたい事を言い終えるとそのまま去っていった。バレルがアジトの外へと出ていこうとする。


「バレル君!」


「なんだ?」


「部屋、一緒に使おう!今までだって一緒だったし!」


今までバレルの部屋でバレルのベッドを独占していたのはゆきである。バレルはソファーで寝ていた。船旅の時だって同室で寝ていたし、今更どうって事はない。ゆきにとってバレルは信頼できる人だった。


「……おう。」


その日もバレルはゆきにベッドを譲り、ソファーで眠った。

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