第5話 初バトル

俺達が町の入口に近づくと上から高台の見張りの声が聞こえてきた。


「もうすぐだ!もうすぐここにやって来るぞ!!」


どうやらモンスターはこの町にどんどんと近づいてきているようである。


だが、俺はここに走ってくるまでの間に、前世でやっていたRPGゲームを思い出していた。よく考えたらこの世界での初めてのバトルである。そうなると最初のモンスターといえば決まっているではないか。あの青いぷるぷるしたゼリーみたいなやつだ。


それを思い出してから、その可愛らしい姿を想像したとたん急に怖くなくなったのだ。

むしろ、ウェルカム1P経験値!ちりも積もれば山となる!

そんな心持ちに変わっていた。


「もう来るぞ!!」


高台の見張りの声。


あいつならステータス0でもさすがに負けるとかはないだろう。


そして、ついにモンスターが目視できる距離にやって来た。


思っていたより大きめで、思っていたよりいかつめで、思ったよりどころか全然青くなかったわ。オオカミのような姿をしている。


うん、多分あれは無理だ。やっぱり帰っていいですか?


どうやってこの場を逃れようかと考えていたが、


「あれは・・・ブラックウルフだ!」


と高台の見張りが言いだした。

もっと早く外見から実況しとけやと思ったがその想いを押し殺して聞いてみる。


「一応聞きますけど、あいつ弱点か何かあるんですか?」


「あぁ、獣系のモンスターは炎属性に弱いんだ。だがこんな時に限って、炎魔法を使える町の専属魔法使いが城に出払ってしまっている・・・」


じわじわとブラックウルフとやらが距離を詰めてくる。

ついにせまってくるモンスターと対峙した。


さぁどうしたものか。

さっきから心とは別に身体は震えてしまっている。


「・・・ここは、あたしがやるしかないわね!」


急にリリス様が自身に満ちあふれた声で言い出した。


「えっ!?そんなすぐに魔法を使えるものなのか?」


「はっ!?できるわけないじゃない!魔法なんてそんなのやり方さえわかんないわよ!!」


正直、こいつ何言ってんだと思った。


しかもなんか逆ギレされてるし。

だが仕方がない。

見張りは高台の上だしここは男の俺が前に出るしかなさそうだ。


さっきから震えていた身体を武者震いだと自分に思い込ませ、格好をつけて声のトーンを低めにして「下がってろ」といって下がらせた。しかし、俺は武器も防具もない素手だ。


前に出てみたはいいが、町の中に入られるわけにはいかないと、とりあえず門の外に出ていく。さらにやつとの距離が近づく。


ざっと走って近くの樹の密集しているところに誘い込む。

落ちていた太めの木の枝を拾い上げ、剣のように構える。


機をうかがっていたやつが飛びかかってきた。

同時に口を開いてかみつこうとしてくる。


大きな鋭い牙だ!


ガシッ!


鈍い音がした。牙の初撃はなんとか受け止めることが出来たが、加重に耐えきれなくなった木の枝はすぐに半分に折れた。


くそっ!半分になった枝を投げ捨て一歩後ろにとびのく。

やつは口元に残ったもう半分の木の枝を噛み砕いている。


まわりには他に武器になりそうなものは落ちていない。


「せめて・・・せめてなにか他にないのか!」


やつが突進を仕掛けてくる。


「くそっダメだ!避けきれない」


せめてガードを。

腕を顔の前でXの字にして・・・


ガブっ!!


ブラックウルフの鋭い牙が俺の腕に食い込んで・・・きていないじゃないか!

痛みも、あのワニの歯を押すゲームに失敗して噛まれた時のかゆさ位である。


あれ?こいつもしかして・・・

見た目よりめっちゃ弱い?


やつの身体がすぐそばにあるので、右手をグーにして牙めがけて殴ってみた。


バキッ!


簡単に折れた。やつは、いったん距離をおこうと離れたのだが、ここまでが少しは時間稼ぎになっていたのか、町の中から応援が駆けつけてきたのを察するとやつは逃げていった。


それを見送った後、俺は、自分の右手を眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る