第57話 セリア姫を鍛えよう 内政編


 セリア姫の呪いについて少し掴めた気がする。


 彼女に定期的に近づく者が、呪いをかけている可能性が高い。


 それなら今のセリア姫を指導できる状況は、かなり都合がよいことになる。


 なにせ半日近くはセリア姫の側にいれるのだから、おのずと犯人を絞れるだろう。


「女王陛下。今回は政務の訓練を行いましょう。やはり女王たるもの、政務は大事です」

「は、はいっ!」


 俺は王城の書庫で、席に座っているセリア姫にそう告げる。


「では今日はこの本を読んでいただきます」

「……『政治の極意』? 随分と古めかしい本ですね」


 セリア姫は俺から本を受け取ると、小さく首をかしげた。可愛い。


 ――『政治の極意』。ゲームのアイテムで、使うとキャラが特定のスキルを覚える書物だ。


 今回の書物ならばスキル『節約』を覚える。君主限定で効果を発揮して、国の支出を一パーセント減らす。


 一見すると強そうに見えるが、ぶっちゃけクソ弱スキルである。


 というのも君主限定スキルは大抵が強スキルで、国家全体に影響を与える効果を持つ。


 例えば『王の威光』というスキルなら、国の治安がよくなって国家収入が十パーセント増える。


 他には『武王』ならば、己が最高司令官の時に全配下武将のステータス+5など。


 ……節約自体は無駄にならないスキルだが、他に比べるとものすごく弱いのだ。


 だが弱いということは逆に覚えやすいということでもある。スキルには取得条件というのが存在し、大抵の場合は一定以上のステータスを要求される。


 だが節約はステータス制限がないので、セリア姫でも覚えることが可能だ。


 そしてここからが大きいのだが、学べるスキルの本を読むことで内政ステータスに経験値が増える。


「古いですが内容はしっかりしています。読み終えた暁には、女王陛下の力になることでしょう」

「そ、そうですか……? 私はこういった本を読んでも、全然覚えられなくて……」

「ご安心を。この本は特別ですので、きっと大丈夫です」


 不安そうなセリア姫を勇気づける。


 この本は特殊なアイテムだからな。ゲーム的な補正があるだろうから。


「……わかりました。やってみます」


 そうしてセリア姫は『政治の極意』を読み始めた。


 こうなると俺は邪魔なので、書庫から出ようとする。


 おっと、その前にいまのセリア姫のステータスを確認しておこう。



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セリア姫


攻軍:LV5(+4)

防軍:LV4(+3)

内政:LV8

魔軍:LV5


スキル

『三魔・無能の呪詛』

(攻↓↓↓、防↓↓↓)

『三魔・不運の呪詛』

(内政↓↓↓、魔軍↓↓↓)

『三魔・思乱の呪詛』

(全能力↓↓↓)

『建国帝の血』

(全能力↑↑↑)

『三魔・滅びの呪詛』

(敵運↑↑↑)


兵科陣形

『真・聖王陣』


==========================

 


 攻軍が+4、防軍が+3としっかり上がっている。


 ……セリア姫のステータスが低すぎるから、短期間の訓練でも上がったのだ。


 ゲームでもステータスがLV20未満だと、僅かな経験値でレベルが上昇する仕様だ。シャルロッテもそうだった。


 このまま訓練を続ければ、きっと全能力LV20までは上げることができるはずだ。


 ……いやLV20でも相当低いというか、最低クラスの武将ステータスだけど。


 それでもいまよりははるかに強い! 重要なのは現状よりどれだけステータスを上げられるかだ!


 必死に本を読むセリア姫を見ながら、俺は書庫をあとにするのだった。




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 王城の練兵場では、兵士たちが騒いでいた。


「やっとあの謎訓練が終わったな……」

「女王の道楽に従わされて、落とし穴掘って落ちてとバカなことしたよなぁ……」


 兵士たちはセリア姫の訓練に辟易していた。


 落とし穴を掘って自らハマる。当然ながらあまり楽しいことではない。


 まだ落とし穴を掘るだけならともかく、ハマるというのは完全に理解できなかった。


「やっぱりあの女王ダメだろ。俺達のことをなにも考えてない」

「でもフーヤ様が指示してたぞ? ならあの人も公認ってことに」

「馬鹿言うな。どうせ女王がワガママを言って、フーヤ様は仕方なく付き合ったんだろ」

「救国の英雄がそんなこと指示するわけないだろ」


 兵士たちは盲目的にフーヤのことを信じ、セリア姫のことを悪く考える。


 それはフーヤが英雄であり女王が無能と思われているのと、『人徳の極』でフーヤへの忠義が上昇しているため。


 だがこれら二つが噛み合わさった結果、フーヤのことが極めて好意的に捉えられてしまう。


 フーヤはセリア姫への悪口を避けるためにも、自分が彼女の訓練を指示していた。


 セリア姫が勝手にやっているのではなくて、フーヤ指導の下にやっているのだと。しかし兵士たちはその発想には絶対に至らない。


「やっぱりフーヤ様がこの国を統治して欲しいよなぁ……」

「それな。あんな女王よりも……」


 フーヤの強力なスキルであるはずの『人徳の極』が、知らぬ間に足を引っ張っていた。

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