第55話 セリア姫を鍛えよう②


 セリア姫を鍛える。言うは容易いが行うは極めて難しい。


 ステータスは四つあるが、それら全てを強くするというのはなかなか厳しいだろう。


 ではどうするか。やはりここは戦争での強さを、つまりは攻軍と防軍のステータスを上昇させたい。


 この戦国時代みたいな世界観において、トップに求められるのはやはり強さだ。彼女が戦場で多少なりとも活躍できれば、臣下たちだって見直すだろう。


「女王陛下、やはり上に立つ者に必要なのは武の才です。ここは軍を率いる力を鍛えましょう」

「は、はい……」

「では服を運動できるのに着替えて頂けますか? 私は応接間でお待ちしておりますので、その後は城の練兵場へ向かいましょう」


 俺は早速セリア姫が着替えるまで、応接間でくつろぐ。


 しばらくすると扉が開いて、ミニスカートドレス姿のセリア姫がやってきた。

 

 ……いつもは肌を一切露出させないドレスだが、今は足のふともも辺りまで見えている。ヤバイ、なんか超いい。


「あ、あの……あまり見ないで頂けると……」


 セリア姫は恥ずかしがるようにスカートを手で降ろそうとする。


 なるほど、俺はこの光景を見るためにこの世界に転生してきたのかもしれない。


「失礼しました。それでは参りましょう」


 俺達は改めて練兵場へと向かった。


 練兵場は広いグラウンドとなっている。壁には弓の的があったり、木刀が置いてあったり……ようは兵士の訓練のための場所だ。


「兵士たち、集合!」


 俺が叫ぶと、兵士たちは訓練をやめて即座に俺の前へと集合する。


「これより女王陛下の指揮の下、訓練を行ってもらう!」


 すると兵士たちは僅かに顔色を変えるが、そのまま直立不動でセリア姫に視線を向けた。


 コソコソ雑談を始めないのは、ちゃんと訓練されている証拠だろう。


「女王陛下。ではこれより兵士を使って、訓練を行いましょう」

「は、はい! 具体的にはなにを?」

「では落とし穴を掘ってください。そしてその後に落とし穴にハマってください」

「……えっと、落とし穴? それに掘ってから自分でハマるんですか!?」


 セリア姫は頭に「?」マークでも浮かんでいるように困惑している。


 何故こんな指示を出すのか。それは……アルテミスの野望において、攻軍防軍ステータス経験値を一番伸ばせるのがこの方法だったからだ。


 まず攻軍や防軍のステータスは、基本的には戦闘で上昇する。そりゃ戦いの数値なのだから当然だろう。だがそこに抜け穴が存在する。


 落とし穴というか罠作成は、ゲームでは戦闘コマンドに分類されるのだ。おそらく軍を出陣させて、戦の罠として使うことからそうなったのだろう。


 確かに落とし穴が内政数値参照というのも違和感はある。政務は下手だが罠作りはうまい武官など、史実上でもかなりいただろうし。


 おそらくどの数値参照にするか迷って、攻軍にしたのだと思われる。


「少し信じられないかも知れませんが、騙されたと思ってやっていただけませんか?」


 罠はいくつもあるが、落とし穴を掘るのには一番楽だからだ。


 落とし穴作成は攻軍のステータスが参照され、作ったら経験値が増える。そして落とし穴に自らハマることで、今度は防軍のステータスが上昇する。


 落とし穴は基本的に敵軍の士気低下と混乱効果、軍への被害は出ない。被害を出すようには剣山落とし穴とか別の種類がある。


 ようは一番簡単に造れる落とし穴を作成して、自らハマって落ちる。それを繰り返すことで攻軍と防軍ステータスを参照し、経験値を溜めまくるという方法だ。


 プレイヤーの間では墓穴掘りと言われていた。当然だが強い武将なら戦わせる方がいいが、弱くて戦闘に使いたくない武将を鍛えるための策。


 正直バグ技とか裏技に近いと思うが、ここで使わずしていつ使う!


 あ、ちなみにシャルロッテは罠作れない。『狂々・血雪陣』の隠し効果で。


「わ、わかりました……」

「それと誠に申し訳ないのですが、女王陛下にも落とし穴に自ら落ちて頂きます。そうでないとステータス、いや訓練にならないので」

「は、はい……」


 そうして墓穴掘りレベリングが開始された。


「へ、兵士の皆さん! 落とし穴を造ってください!」

「「「「お、おおおおおおお!!!」」」」


 セリア姫に率いられた兵士たちが、ほんの僅かなバフを受けて落とし穴を掘り始める。


 おそらく綾香の軍なら一時間ほどで終わる作業だが、セリア姫の部隊は三時間以上かかった。


 そうして掘り終えて穴に布をかぶせた後、


「つ、続いてください! えいっ!」


 セリア姫は落とし穴に自ら飛び込み、他の兵士たちもそれに追随してハマっていく。

 

「大丈夫ですか、セリア姫ー?」

「いたた……は、はい」


 落とし穴の上から見上げると、セリア姫は尻もちをついていた。


 彼女のステータスは低いが、軍を率いるバフが入っている。流石に落とし穴で死にはしないが……かなり痛そうにお尻を抑えている。


「ではセリア姫、明日からもこの落とし穴掘りハマりを行いましょう!」

「ほ、本当にこれで強くなれるんですか……!?」

「私を信じてください」

「わ、わかりました……」


 こうしてセリア姫は愚直に、俺を信じて毎日落とし穴を掘ってハマってくれた。


 ……正直な話、これは彼女にとっては恥だ。


 なにせ兵士たちという目がある中での行動だ。

 

 兵士たちを使って落とし穴を掘って、ハマるという行為自体がまず恥ずかしいだろう。


 そして他にもある……セリア姫が落とし穴を兵士に造らせること自体が、セリア姫にとっては己の力の低さを感じさせてしまう。


 他の武将が落とし穴を作成する時に比べて、明らかに時間がかかっているからだ。そしてそれは兵士たちも把握しているわけで、きっとセリア姫はこの訓練自体が辛い。


 それでも文句も言わずに俺を信じてやってくれている。


 ……やはりなんとしても、セリア姫は強くしないとダメだ。そのためにはやはり……呪いをなんとかしないと。

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