国盗りゲームに転生したので、無双して確定処刑される姫を救います! ~ただし姫は恐ろしいほど不運かつ無能で、無双し続けないとすぐ詰みます~

純クロン@弱ゼロ吸血鬼2巻4月30日発売

一章

第1話 発売中止


 昼下がり。中世の趣のある街の広場で、喉元に刃をつきつけられた少女がいた。


 彼女の服装はボロボロの布切れ服で、体も汚れ切っていた。宝石のように綺麗だったエメラルドの髪も、白い絹のようだった肌も見る影がない。


 彼女の側には二人の兵士がいて剣を抜いている。周囲には民衆が集まってそんな様子を観察していた。


 ようは公開処刑が繰り広げられている。


女王セリア・エルス・アルテミス様。貴方のせいで被害を受けた国民への謝罪は?」


 処刑を仕切る貴族風の服装をした男が、見下すように少女をにらみつけた。


 セリアと呼ばれた少女は少し俯いた後に。


「……申し訳ありませんでした。私が生きていたせいで、神からの怒りを買いました」

「そうですな。貴女のせいでこのエルス国は四つの災いに襲われ、国はズタボロになった。鬼が暴れ、亡霊が蘇り、地が割れ、巨人が街を潰した……これは全て貴様のせいだ!」

「……は、い」


 セリア姫が女王になって国を統治してから、彼女は民のために必死に頑張った。


 だがこの国にあり得ざる災害が四つ発生した。それらは死災と呼ばれて国は飢饉に襲われる。


 それらは当然ながら彼女の仕業ではない……だが全てセリア姫の責任とされてしまっている。


 そのために今からセリア姫は処刑されるのだ。


「お前のせいでパンも食えないんだ!」

「死ねっ! さっさと死ねっ!」


 それでもなお少女は祈っていた。どうか自分の命が消えることで、国民が安らかに暮らせますようにと。


 彼女はずっと自分を殺して国のために尽くしてきた。その末路が自分の臣下に裏切られ、国民たちに罵詈雑言を投げつけられての処刑だ。


「いまここに魔性の女の命を捧げましょうぞ! どうか神よ、お鎮まりください!」


 セリア姫の側にいた兵士のひとりが剣を振り上げた。その剣の落ちる先には彼女の首がある。


 恐怖のあまり黙り込んでいた姫は、とうとう涙を流して叫び始めた。


「……いやっ! 死にたくない! 許してっ!? お願い……!」


 死の本当の間際になって、とうとうセリア姫は自分のための言葉を吐露した。


 だが無情にも剣は振り下ろされ……。





^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^




 アパートの一室で、俺はキーボードを叩いてパソコンでゲームをしていた。


「何度見てもこのシーン、胸糞悪いよな……」


 今しがた見た処刑シーンが終わり、スクリーンにゲームタイトルが写る。


 ――『アルテミスの野望』。ファンタジー系の国盗り戦略シミュレーションゲームだ。


 好きな武将を使って国に仕官、もしくは数多ある国の王になって世界を統一するのを目的に遊ぶゲーム。


 このゲームの売りは自由度が高いこと。正史と呼べる歴史こそあるものの、プレイヤーの腕次第で未来を捻じ曲げたりも可能だ。


 例えるなら織田信長に該当するキャラが桶狭間で負ける。徳川家康に値するキャラが関ケ原で討ち取られるみたいな。


「早くセリア姫の救出シナリオが配信されないかな……配信日前倒しして欲しいなぁ」


 アニメやゲームで『本当は死ぬんだけど助けたいキャラ』というのが、大抵の人にはひとりくらいいるのではないだろうか。俺にとってはそれがセリア姫だ。


 実はアルテミスの野望は自由度が高く、プレイヤーが介入することで本来死ぬはずの武将を救うことができる。


 それこそ桶狭間の勝敗を変えれば、信長が死んで今川義元が助かるみたいに。


 だが……今のセリア姫のシーンはこのゲームのプロローグ映像。セリア姫の死亡とほぼ同時に、プレイヤーのゲームプレイが始まる。


 つまり彼女だけは絶対に死ぬので救う手段がない。


「他の武将や王は助けられても、セリア姫はプレイ開始時で死亡してるからどうしようもない……」


 このセリア姫だがプレイヤー人気がすごい。


 すごくかわいいデザインなのももちろんだが、彼女があまりに不遇な立場なのになお心優しいことが受けている。


 実はアルテミスの野望のゲーム内で、死んで亡霊となったセリア姫が出るのだ。彼女は自分が国民に処刑されたのにも関わらず、自分の民を救って欲しいとお願いして来る。


 彼女はプレイヤーに重要な情報やアイテムを渡してくれて、それがゲーム世界を救う切り札となるのだ。もし彼女が何もしなければ、世界が滅ぶ可能性が高くなる。


 そんなセリア姫の名言にこんなのがある。


『私は確かに民に殺されました。恨みもします……ですが、だから民に不幸になって欲しいとも思えないのです』


 セリア姫が軽く笑いながら心情を吐露するシーンだ。恨むが死んでほしくない、処刑までされてなおこんな言葉を吐けるのだ。

 

 俺もセリア姫はすごく好みのキャラである。


 そんな彼女の人気を鑑みてか、とうとうゲーム会社が彼女を救出できるダウンロードコンテンツを発売することを発表したのだ!


 セリア姫が死ぬ少し前からプレイ開始できる! 


(あの時は掲示板も盛り上がったなぁ。あれから半年、そろそろ続報が発表されてもいいものなんだが。はぁ……早くセリア姫救出シナリオ遊びたい)


 助ける方法もかなりシミュレートした。


 厄介なのは国を襲う四つの死災。このせいでセリア姫は処刑されるので、まず何とかしないとダメだ。


 千鬼夜行せんきやぎょうはゴリ押して、満潮亡霊には血に染まる残雪の異名を持つ武将で対応。


 天地崩楽には堕ちた聖神、偽魂操者ぎこんそうしゃの二人の武将を使う。そして巨神にはとある使い捨てアイテムで対応……発売が待ち遠しい……!


 俺は休日の大半は『アルテミスの野望』をプレイしている。


 完全にドはまりしていて最近は生きがいだった。外でも会社での昼休みや帰りの電車など時間があれば、スマホでこのゲームの掲示板サイトを見てと……。


 強力な武将で軍を率いて敵を蹂躙したり、もしくは弱い武将でも計略を練って強敵を倒したりが面白い。


 本来一瞬で潰される小国で天下統一を狙うのはおススメの遊び方だ。難易度高いけど。


「さて今日もオリジナルキャラで、弱小国で無双プレイだな」


 最近ハマっている遊び方。このゲームはオリジナル武将キャラを作成できるので、それを使って本来滅ぶ小国で無双するのだ。


 赤毛の少年キャラ――フーヤ・レイク。俺の造ったチートキャラで、プロのイラストレーターに依頼したイラストをゲーム内に取り込んで使っている。


 そんなフーヤのステータスがゲーム内に表示された。


-----------------------------------

フーヤ・レイク


攻軍:LV94

防軍:LV91

内政:LV92

魔軍:LV99


スキル

『千変万化』

(布陣後兵科変更可能)

『八百万兵科』

(全兵科使用可能)

『人徳の極』

(臣下忠義↑↑)

『天眼』

(自軍や敵軍のデータ可視)

『メルキニアの戦神』

(攻↑↑↑↑、防↑↑↑↑)


兵科陣形

『全陣形使用可能』

(八百万兵科により)


-------------------------------------


 このゲームのステータス最大値は100なので、フーヤはほぼカンストしている。さらにスキルもぶっ壊れレベルのものを揃えていた。


 そんなわけでゲームを操作し始める。


「よし。兵科陣形は『剣陣』でいいか」

『総員! 我に続け! 『剣陣』!』


 ゲーム内でフーヤが叫んだ瞬間、彼の率いていた男たちの服装が変わっていく。平民服だった兵士たちに、即座に剣や鎧が装備された。


 これはゲーム的な演出ではなく、本当に瞬時に剣や鎧が出現している設定だ。率いた武将個人の力によって、出陣時に武器や防具が現れる。


 このゲームが武将ゲーと言われる理由のひとつであった。ただでさえ武将の能力で兵士の質が変わるのに、更に武器まで差がつくので酷いことになる。


「おっといかんいかん。今日の更新がないかチェックしないと」


 ゲームを一旦止めて、パソコンでアルテミスの野望の公式サイトを開く。


 おっ! 公式サイトのお知らせ欄に新着表示があった!! 新情報だ! 新映像かそれとも発売日発表か!?


 ――『アルテミスの野望 セリア姫の祈り』、開発中止のお知らせ。


「…………は?」


 俺は急いでお知らせをマウスでクリックして、詳しい表明文に目を通す。


 ――――誠に勝手ながら開発を中止させて頂きます。


 そこにはテンプレ的な謝罪文が公開されている……俺は大きく息を吸うと。


「ち、畜生!? なんでだよ!? なんで開発中止!? セリア姫は!? はぁ!?」


 思いのたけを吠えまくった。だがここはアパートだ、防音設備もない。


「うるせぇ! 近所迷惑考えろ!」

「すみません!? 本当すみません!? ちょっと人生設計が崩れまして!」

「崩れたのは俺の安眠だぼけ!」


 すぐに隣の部屋の人がインターホン鳴らしてきたので、外に出て平謝りした。


 外は土砂降りで雷がゴロゴロなっていたが今の俺にはどうでもよい。


 部屋に戻ってやってられないとばかりにベッドに寝ころぶ。すごく楽しみにしてたのに……! こんなのあんまりだろ!?


「……寝よう。明日起きたらきっとこれは夢で、アルテミスの野望の開発は続いてるんだ」


 ふて寝することにした。だが頭によぎるのは、今まで考えてきたセリア姫救出方法だ。


 やっぱり寝れなくて、ベッドから降りて再びパソコンを起動……SNSにでも思いのたけをぶちまけようとすると。


 強烈な雷音と同時に部屋の中が真っ白になった。


「あ、あれ? 俺が突っ伏して寝てる?」


 俺は自分が机に突っ伏しているのを、まるで鏡で映したかのように見ていた。だが突っ伏していて顔は完全に隠れている。


 周囲は真っ白な空間だ。なんか羽虫が飛んでいると思って、チラリと見ると白い小さな矢印マークが宙に浮いていた。


「え、なにこれ。マウスカーソルが浮いて……」


 あ、ダメだこれ寝落…………。


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