第4話 忍者月光ただいま参上

その男の走りは早すぎて実体が見えなかった。ただ、残像が残るのみ。そして素早い手の動きはかまいたちのようだった。彼が通った後の住宅のポストには全てチラシが収まっていた。彼の名は藤堂 研。しかし、その神業を見て皆は彼をこう呼んだ。


ポスティングマスター研 ‼


第四話 忍者月光ただいま参上

(1)

 ポスティングの為、疾走する研の後ろに、いつの間にかピタリとついてひた走る男がいた。忍者だ。研がチラシを入れようとポストに触れようとした瞬間に後ろからサッと同じチラシを入れた。

「何奴⁈」

研が後ろを振り返ると忍者は笑いながら言った。

「フフフ。我の名は月光。同じチラシを複数一つのポストに入れてはいけない。だから俺が先に入れてしまえば、研、お前はチラシを配るわけにはいかないのだ。せいぜい持って帰って会社に詫びを入れるんだな。」

「うぬ。となると僕の収入は激減。何故そのような真似をする?」

「研。お前と勝負がしたい。これは実収入を賭けた真剣勝負だ!」

「面白い。今から勝負だ!」

そう言うと研は脱兎のごとく走り出す。一方、月光はブロック塀の上に飛び乗ると塀伝いに疾走する。研が一軒家の玄関に飛び込むと手裏剣が飛んできて研の顔をかすめ、木製の柱にカッカッカッと三枚刺さった。

「飛び道具とは卑怯なり!」

「甘いぞ!研。真剣勝負といったはずだ。」

「ならば。」

研は懐からライターを取り出すと火をつけ思い切りフーッと息を吹きかけた。猛烈な火炎が月光を襲う。

「火遁の術⁈口にガソリンを含んだな。いつの間に!」

火は家に燃え移りメラメラと燃え出した。

「やはり貴様、忍者の末裔だな?」

「知らないけど、爺ちゃんに教わった。」

研がその隙に走る。追う月光。研が振り向き再び火炎放射をするも月光がいない。別の家が燃え、その火はどんどん民家に広がっていく。

「どこへ行った!」研が叫ぶ。

研のいる一軒家の庭に植えてある銀杏の木のうっそうとした枝葉の中に月光は身を隠していた。忍法“木の葉隠れ”だ。そして月光は吹き矢を吹いた。

「ハッ!」研はその動物的勘で間一髪避けた。

「そこか!」研が月光のいる木に、みたび火炎を吹いたが、月光は素早い動きで隣の家の屋根に飛び乗った。だが、月光の手にしていた風呂敷に火が移っていた。

「うわぁ。」

慌てて風呂敷を投げ捨てると結び目がほどけ火のついた大量のチラシが四方八方に舞い降りていった。そして引火。気が付けば辺り一帯火の海と化していた。

「やべぇ。」

「あ~あ。知らないよ。」と研。

「大体、お前が火遁の術なんぞ使うから。」

「あ。パトカーのサイレンが近づいてくる。」

「・・・研!この勝負、いったんお預けだ!

さらば‼」

月光はそう言うと空中にむかってジャンプした。そこにはいつの間にか巨大な凧が上がっていた。月光はそれに飛び乗った。

そこへ旧知の警察署長がやって来た。

「やぁ。研くん。いつもポスティングご苦労様。これは一体どうしたんだ?何か見なかったかい?」

「署長さん。あの巨大な凧に乗っている忍者。あいつが大量にチラシに火をつけてばらまいたんです。」

そう言うといつの間にか撮影していたスマホ画像を署長に見せた。

「あ、てめぇ。俺一人に罪、かぶせやがって!」上空から様子を見ていた月光が叫んだ。

「署長さん。あんな悪いヤツ射殺しちゃいましょう!」

「う~む。さすがにそれは。」

署長が躊躇しているのを見かねた研は

「じゃあ、こうしてやる!」

と言いつつ、巨大なハサミで凧糸を切ってしまった。

「あ~~~~~。」

ピューという突風でどこか遠くへ飛ばされて行く巨大な凧、そして月光。

「こりゃ助からんな。」苦笑する署長。

「大体、誰があの凧、上げてるんでしょうね?」

「上げている奴、探せば凧に乗っている忍者も簡単に捕まえられるんだよな。」

現場の混乱をよそに、二人は往年の忍者ドラマの聞いてはいけない謎について何時までも語り続けた。

その後、次々と消防車、救急車が尋常じゃないぐらいの台数、到着し火は七時間後に鎮火した。月光も、乗っていた凧も行方不明のままだが、研の動画が証拠とされ容疑者認定され研はホッとした。だが、いずれにしてもポスティングする町を焼けてしまったのでチラシは会社に返納するしかない。研は来月の家計を心配していた。


(エンディングテーマ)

ひとり、今日もひとり。

夏の炎天下では塩飴が絶対必要。

あとスポーツドリンク。

ああ、ひとり、今日もひとり

どうしてもの時は

一旦、コンビニで涼もう。

ラララ、ルルル。

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