第22話 バースデー

(1)


 僕達は夜に病院に呼び出された。

 もうすぐ僕達の新しい兄弟が生まれるらしい。

 父さんは出産に立ち会ってる。

 翼と天音は母さんの無事を祈ってる。

 女性にとって出産は文字通り命がけの作業なんだそうだ。

 分娩室に入る前、母さんは笑みを浮かべていたけど。

 お爺さんとお婆さん、母さんの方のお爺さんとお婆さんも来ている。

 ずいぶん長い時間待たされた。


「空、落ち着きなよ」


 翼が言う。

 わかってるんだけど、ソワソワするんだ。

 その時スマホが鳴った。

 水奈の弟が生まれたらしい。

 誠司と名付けられたそうだ。

 おめでとうと返した。

 しかしもうすぐ生まれると聞いてからはや4時間が経とうとしていた。

 日付はクリスマスイブからクリスマスに変わる瞬間だった。

 分娩室から産声が聞こえる。

 その場にいた皆が立ち上がる。

 看護師の学のお母さんが抱きかかえている。


「おめでとう、空君の弟と妹だよ」


 双子だったそうだ。

 皆が一目見ようとそばに寄る。


「皆今日は帰って。空達はパーティに呼ばれてるんだろ?少しでも休んでおいた方がいい」

「父さんはどうするの?」

「母さんについてるよ。労ってあげないと」


 そういって父さんは笑顔だった。


「もう子供の名前は決めてるのかい?」

「一人くらいお前の希望でつけてやりなさい」


 お爺さん達が言う。


「もう愛莉と考えてあったんだ。男の子だったら”冬吾”女の子だったら”冬莉”」


 2人の名前は決まっているみたいだ。

 翼が袖を引っ張る。


「今はパパと愛莉の4人にしてあげよう?」


 翼がそう耳打ちしてきた。


「じゃあ、何かあったら知らせてくれ」

「わかった」


 お爺さんと父さんが言うとお爺さんは僕達を車に乗せて家に帰る。

 今年のクリスマスプレゼントは新しい家族の一員だったようだ。

 家に帰ると僕達は部屋に帰って寝る。


「どっちだった?」


 美希がそんなメッセージを送って来た。


「両方だったよ」

「そうなんだ。空も大変だね」


 美希も喜んでくれた。


「ねえ空」

「どうした?」

「空は子供どっちが欲しい?」

「まだ早いよ……でも」

「でも?」

「無事に生まれてくれるならどっちでもいいかな?」

「そっか」

「じゃあ、そろそろ寝ようか?」

「おやすみなさい」


 スマホを充電器にセットして眠りについた。

 朝になったら美希からモーニングコールが鳴る


「空、朝だよ」

「もう冬休みだよ?」

「今日はホテルでパーティだよ」


 そんな大事なパーティにどうして僕達が招待されたんだろう?

 祈さんの希望らしい。

 僕達は冬休みに入っていた。

 水奈と学、大地と天音、光太と麗華、如月君と繭ちゃん達SHのメンバーはも来るそうだ。

 正確に言うと父さん達のグループ「渡辺班」が一斉に集まるらしい。

 場所は街外れのホテル会場。

 酒井家と石原家が主催してるらしい。

 遠方から来る人の為、ホテルの部屋も準備してあるのだとか。

 さぞかし豪勢なパーティなんだろうな。

 よく朝起きると朝ごはんを食べてから宿題をこなす。

 片桐家ではイベントの日に宿題をしなさいなんてことは言わない。

 母さんが予定表を組んでくれてそれに合わせて皆こなす。

 パーティは夕方から始まる。

 昼ご飯を食べると支度を始める。

 天音はピンク、翼は水色のパーティドレスを着る。

 僕はフォーマルスーツを着る。

 石原家が送迎を手配してくれていて送迎の人が来た。

 僕達は車に乗り込む。

 そしてパーティ会場に向かった。

 受付を済ませて中に入ると既に人でごった返していた。

 ジュースを受け取るとそれを飲みながら水奈たちが来るのを待っていた。


「お、やっと知り合いが見つかった!」


 光太と麗華さん達が来た。

 瑞穂も一緒だ。


「こんなに豪華だとは思ってなかったぜ」


 光太が言う。


「皆さん長らくお待たせしました」


 司会役の人が言う。

 宴の始まりの様だ。


(2)


「いや、酒井家と片桐家の縁組がきまるとは。両家とも安泰ですな」


 婚約をした覚えはないけどね。

 ないけどそうなるんだろうな。

 だけどまだ小学生だよ?

 ちょっと早くないかい?

 しかしそんなこと翼には関係ない様だ。

 終始にこやかに挨拶をしている翼。


「善明、緊張してるの?」


 翼が聞いてくる。

 緊張するなって方が無理でしょ。

 周りには各界の有名人が集まっている。

 皆父さん達の知り合いらしい。


「善明。あなたは酒井家の跡取りなのよ。もっと堂々としてなさい!」


 母さんが言う。

 だけど表情は硬いまま僕達は挨拶をしていた。

 まさか小学生に都市銀行の頭取が挨拶に来るなんて誰が想像した?

 高々小学生に県知事が挨拶に来るなんて誰が想像する?

 けれど翼に緊張の2文字はないようだ。


「じゃあ、今度は年越しパーティの時に」

「また連絡するよ」

「はい、おやすみなさい」


 翼が家に入るのを確認すると。僕は家に帰った。

 服を着替えて風呂に入ると、ベッドに入る。

 翼におやすみとメッセージを送って。眠りについた。


(3)


 天はフォーマルスーツに身を包み親と一緒に会場に現れた。

 私は天の両親に挨拶をする。

 天のお母さん・如月伊織は中学校教師をやっているらしい。

 お父さん・如月翔太は父の事業を継いだ。

 如月君の家は観光・ホテルの事業をやってるらしい。

 このホテルの提供も如月家のものなんだそうだ。


「ど、ドレス姿似合ってるよ。綺麗だ」


 天もそんな言葉が言えるのですね。


「ありがとうございます。天も素敵ですよ」

「ありがとう」

「おじさん達先輩に挨拶とかあるからあとは繭ちゃんに任せて良いかな?」

「わかりました」

「天、行儀よくしなさいね」

「わかってるよ」


 天のお母さんが言うと二人は他の人にあいさつ回りを始めた。

 天は料理をとっている。


「繭ちょっといいかしら?」


 母様に呼ばれた。


「どうなさいました?」

「そうね、まずそこのあなたの彼氏を紹介してもらえないかしら?」


 母様が言うので紹介した。


「今交際させてもらっている如月天君です」

「ど、どうも初めまして、如月です」


 あなたでも緊張するのね。

 もっとリラックスしていいのよ。

 母様は品定めするかのように天を見ている。

 そしてフッと笑った。


「まあ、あなたが見初めた子なら間違いないでしょう。欠けてる部分はあなたがどうにかなさい」

「そのつもりです」


 話はそれだけなのだろうか?

 そう言えば思い出した。


「天。これ私からのクリスマスプレゼント」


 そう言って袋を渡す。


「何これ?」

「家に帰ったら開けてください」

「ありがとう……ごめん、俺何も用意してない」

「お気になさらず。私の一方的な好意だから」

「わかった」


 その後二人で話をしていると時間が来たみたいだ。


「じゃあ、今度は年越しパーティで」

「ええ、また」


 大人たちは忘年会、年越しパーティ、新年会と年末年始は忙しいみたいだ。


「繭、帰るぞ」


 お姉様に言われて送迎の車に乗ると私達は家に帰る。

 家に帰って風呂に入るとスマホを見る。

 画像が送られていた。

 私がプレゼントした手編みのニット帽をかぶった天の写真。


「似合うかな?」


 メッセージも来てた。


「ええ、とても」


 そう返した。

 返事は帰ってこなかった。

 もう寝ている時間か。

 私もベッドに入って眠りにつく。

 魅せて君の全て。

 きっとすぐに夜は空けるから。


(4)


「天音」


 私はひたすら食べ続ける天音に声をかけた。


「あ、祈。どうした?」


 天音の隣には大地がいる。


「まあ、暇だからさ」

「そうか?私は忙しいけどな」


 そう言いながら食べ続ける天音。


「他の皆は?」

「彼氏と夢中だよ」

「なるほどな」


 その時天音の手が止まった。


「そういや、祈だけだな。彼氏いないの」

「まあな」

「作らないのか、作れないのかどっちだ?」

「今はめぼしい男いないからな」

「なるほどな。ま、そのうち出来るよ。慌てる事ないって」


 天音は再び食べだした。


「天音は食べてばっかりで大地の相手しなくていいのか?」

「大地は大地で忙しいみたいだしな」


 確かに天音が食べている間、ご子息ご令嬢と言った感じの子達と挨拶してる。

 偶に天音を紹介してるようだが。

 私も人の事言えない。

 親と一緒にいたら同い年くらいのご子息が挨拶に来る。

 どうもそういうタイプの男は苦手だ。

 適当にあしらっているのも面倒になったんで天音を探してた。


「なあ、祈」


 天音が聞いてきた。


「どうした?天音」

「うちのパパって何やったんだ?」

「え?」

「日本バスケで功績残して国民栄誉賞受賞したってのはきいてるけどそれだけだろ?他の親の方がよっぽど立派だぜ?」


 国民栄誉賞受賞したってだけで十分凄いと思うぞ。


「今じゃただの個人経営の税理士事務所社長なのに。やたらお偉方から”今日は片桐君来てないのか?”って聞かれてさ。うちのパパ何やったんだ?って思ってさ」

「なるほどな……あまり自分の子供には話さないか」


 恰幅のいいおじさんがきた。

 うちの父さんも一目置いてる人だ。

 渡辺正志・市役所の課長補佐。渡辺班を作った人。

 天音は知っているらしい。


「一言で言うと渡辺班の礎を作った人だな」


 渡辺さんが言う。


「そうね、”片桐班”って名前がついていてもいいくらい渡辺班に貢献した人よ。皆がこうして集まってるのも片桐君のお蔭と言ってもいいくらい」


 母さんが言った。


「人の心を巧みに操り、人を惹きつけて、様々な人を集めた立役者だ。ここにいる人は少なからず冬夜の力を借りてる」


 渡辺さんが言う。

 いざとなったら自ら陣頭にたって果敢に指揮をとったり。命がけで仲間を守ったんだという。


「今は子供3人の世話に奔走するただの父親みたいだけどな」


 渡辺さんがそう言って笑う。


「私達酒井家もそうだけど、石原家、地元銀行、西松医院、白鳥グループ、如月グループは片桐君の為なら即動くでしょうね。本人が望まなくても。そのくらいのカリスマの持ち主よ」


 母さんが言う。

 天音の父親って凄いんだな。


「今のSHだってそうじゃないのかい?少なくとも天音が中心になって動いてるようだけど」


 父さんが聞く。たしかにそうだ。少なくとも4年生は皆天音に惹かれて動いてる。


「そういう血の持ち主なんだろうな。冬夜は」


 天音はそれをじっと聞いていた。


「おっとそろそろ時間だ。おじさん達は二次会に行くから。また年越しパーティで会おう。冬夜によろしくな」


 そう言って渡辺さんは行ってしまった。


「お前の親凄いみたいだな」

「そうだな……」

「天音!そろそろ帰るよ」


 翼が天音を呼んでる。


「じゃあ、私行くわ。またな」


 そう言って天音は行った。

 3人の能力は天の授かりもの。父親からの贈り物なんだろう。

 母さんたちの学生時代か、ちょっと興味わいたな。帰ったら聞いてみよう。


(5)


「冬夜さんもお疲れでしょ?たまには子供たちの相手もしてあげて」


 愛莉が言うから病院から家に帰る。

 今日は酒井家のパーティに行くって言ってたな。

 もう帰ってる頃だろうか?

 家に帰ると子供たちが待っていた。

 クリスマスケーキを用意していた。

 子供たちとそれを食べてお風呂に入って寝ようと思ったら子供たちがまだ起きていた。


「どうしたんだ?もうそろそろ寝ないと明日起きれないぞ?」


 父親として当たり前のことをいって僕も寝ようとした。


「パパ、話があるんだ」


 天音が言う。

 何かあったのか?

 子供たちの様子がおかしいのでリビングのソファに座る。


「どうしたの?」

「今日祈のパーティで色々な人に会った」


 天音が言う。


「皆口々に言うの”今日は冬夜はきてないのか?出産おめでとう。愛莉さんに伝えてくれ”って」

「ありがとう、後でメッセージ送っておくよ」

「パパは昔オリンピックで金メダルをとって国民栄誉賞受賞したって話は聞いた」

「ああ、そうだね」

「サッカーでもファンタジスタと呼ばれるくらいの天才だったって水奈の父さんから聞いた……」

「天音の言う通りだよ。サッカーはあまり楽しくなかったけどね」


 それがどうかしたのかい?


「おかしくない?みんな大きな会社の社長だったり銀行の役員だったり建築会社の管理職だったり凄い人なのにみんなパパを褒めてるの」

「そうだったのか」

「渡辺さんから聞いた。”渡辺班”の立役者だって」

「パパはいつも渡辺君の手助けをしてただけだよ。人を引き寄せたのは渡辺君の人柄だろう」

「それが知りたい。パパは何をしてたの?どうしたらパパみたいな誰からも信頼を受ける存在になれるの?」


 天音は本心からそれを知りたいらしい。

 他の2人も少なからずそれを望んでいる。


「……天音はSHの一員なんだってね?」

「うん」

「天音はSHの為に何かしようと思ったことはあるのかい?」

「……考えてなかった」


 僕はくすっと笑った。


「僕も同じだよ。面倒事は渡辺君に押し付けて自分勝手にやっていた。ただ一つだけ決めていた」

「それは何?」

「自分に嘘をつかない。自分の信念に従って動く。……行きついた先は”誰かを助けるのに理由がいるかい?”だったよ」


 泣いてる女の子の涙を止められるなら、誰かを助けを求める声を聞いたのなら手を差し伸べよう。

 三人とも真剣なまなざしで聞いていた。


「でも天音たちにそれをしろとは言わない。天音たちはまだ道の途中だ。手探りで答えを探していかなければならない」


 天音や翼、空達にも譲れない物、譲れない事が出来るから。それを必死に守ればいい。

 誰かの賞賛を受けたくて動くんじゃない。自分の心に従って動きなさい。決して嘘偽りをしてはいけない。


「譲れない物ならある」


 翼が言った。

 多分善明の事だろう。


「これから3人には様々な試練が訪れるだろう。絶対に揺らぐんじゃないよ。その為なら自分のパートナーに甘えても構わない」


 お互いを思いやる魂があるのなら。


「父さんの譲れないものってなんだったの?」


 空が聞いてきた。

 僕は躊躇わず答えた。


「愛莉だよ」

「……じゃあ、僕は美希を守ればいいんだね」

「誓えるか?一生を賭して美希の為に生きれると誓えるか?」


 空に躊躇はなかった。


「たった今から誓うよ」

「……わかった。頑張りなさい」


 僕はそう言った。


「パパは小学生時代は何してたの?聞きたい」


 天音が言う。


「父さんの小学生時代は普通の小学生だったよ。また天音たちが中学生になった時のお楽しみにしておこう」

「……わかった!じゃあ、そろそろ寝るね。パパ有難う」

「ああ。おやすみ」


 3人は部屋に戻っていった。

 そう、まだこれは序曲に過ぎない。

 幼い未熟な彼等にどれだけのものを授けることが出来るだろう?

 本当の始まりはそれらを手にしてから。

 あの子達が大人になるまでの果てしない物語。

 失ってしまうこともあるだろう。

 守り切れないことがあるだろう。

 大事なものを失って……身も心も疲れ果て……けれどそれでも決して捨てることが出来ない想いがあるならばそれだけが誰が何と言おうとそれこそが唯一の真実。

 僕達に出来ることは。この先何度も立ちはだかる壁を前に立ちすくむ子供たちの背を押してやるだけ。

 答えは子供たちが見つけていななければいけない。

 その術を今は子供たちに授けよう。

 それが未来を託すという事なのだろうから。

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