第17話 僕達の約束
(1)
「じゃあ、よろしくお願いします」
「はい、行ってきます」
父さんと大地の父さんが言うと車は発進した。
今日はリゾートホテルに遊びに行く日。
父さん達はお留守番。
何かあるみたいだ。
まあ、大人の事情に口を挟むのはよくないよね。
僕と天音は石原家の車に乗る。
翼は酒井家の車で酒井君と一緒らしい。
大地と天音は中列で仲良く話をしている。
そんな2人を見ながら僕達は共鳴してた。
途中水族館に寄る。
混んでいたけど「出口に何時集合」と決めて各々自由散策してた。
関アジや関さばを見ては「捕まえて食べたい!」と思ったのは翼や天音も同じ様だ。
美希は写真を撮りまくってる。
そんな美希に合わせていたら時間ぎりぎりになってしまった。
「ごめんなさい」
美希がそう伝えて来るけど僕は笑っていた。
「気にしないで」
そう返していた。
その後ファミレスに行って昼食。
そしてホテルに着いてチェックイン。
部屋割りが決められる。
さすが酒井家と石原家。
石原夫妻。
酒井夫妻。
祈と繭。
美希と僕。
酒井君と翼。
天音と大地。
善明君と大地君は取りあえず笑っとけって感じだった。
部屋に荷物を置くとバッグを持ってプールへ向かう。
色々レジャー施設があってたのしいプール。
地元の若い人は海では水着姿にならない。
だいたいこのプールで水着姿を披露する。
子供ながらにその大人のボディを見ているとやはり僕でも気になる。
でもちょっとでも気にしようものなら美希の機嫌を損ねる。
損ねるならまだましな方だ。
落ち込んでしまう。
表情には出さないけど沈んでいる気持ちは痛いほどわかる。
どう声をかけて良いのか分からない。
子供の僕ではまだそんなフォローまでできない。
困っていると美希がヒントをくれる。
「私だけを見ていて」って
女心って本当に難しい。
天音は祈と大地と3人で遊んでいた。
祈が大地にちょっかいを出す。
優柔不断な大地に天音が機嫌を損ねる。
そんな天音と大地を見て笑っている祈。
大地は天音を宥めるのに必死だ。
翼と酒井君も遊んでいる。
花火大会の翌日に市営プールに遊びに行ったらしい。
誰よりも先に酒井君に見て欲しいという翼の願いを叶えたんだそうだ。
それから二人は上手くやれてる。
一通り回って遊び終える頃夕食の時間になった。
プールを出ると部屋に戻って荷物をバッグに入れる。
「水着はちゃんとビニール袋に入れておかないと他のまでびしょびしょになっちゃうよ」
美希に叱られる。
それにしても豪華な部屋だ。
母さんが相談して大地のお母さんが手配してくれたんだけど、この繁忙期に無理矢理ねじ込んで子供たちのためにとスウィートルームを3部屋撮ったらしい。
やる事が一々豪快だ。
海側の部屋だったので景色が綺麗だ。
美希と景色を見ているとスマホが鳴る。
「そろそろ食事に行こう」
翼と部屋を出る。
テーブルには僕と美希、大地と天音、酒井君と翼。
準備が整ったらひたすら食う僕達3人。
酒井君と美希はのんびり食べてる。
大地は天音の食いっぷりに呆然としてる。
90分間ひたすら食べ続けると部屋に戻って温泉に入る。
ゆっくり浸かっていると酒井君と大地がやってきた。
そのあとに酒井君のお父さんと大地君のお父さんが来る。
5人で話をしていた。
酒井君と大地君は父親の話を聞いてる。
2人とも苦労しているらしい。
あの翼でさえ酒井君の前では変わるらしい。
想像がつかないな。
暫く浸かって風呂を出る。
女性陣を待っているとやってくる。
そして部屋に戻っていた。
「母さんには内緒だよ」
そういうと美希は僕のベッドにもぐりこんでくる。
慌てる僕。
「大丈夫、何もしないから」
美希はそう言う。
「ただ、一緒に寝てみたいとずっと思っていたから」
美希の本音に間違いなさそうだ。
電話が鳴る。
母さんからだ。
「部屋割りは聞いてます。夏の想い出くらい作っていらっしゃい」
「想い出?」
「空は男の子でしょ?美希をリードしろとまではいわないけど、せめて美希を受け止めるくらいはしてあげなさい」
用件はそれだけだった。
その事を美希に伝えると美希は笑う。
そして僕に抱き着く。
「じゃあ、今夜は空に甘えようかな?」
美希は嬉しそうだ。
「ねえ、私ずっと思ってたんだ」
「どうしたの?」
「空のお父さんから聞いたって父さんが言ってたんだけど」
諦めないでちゃんと伝える事。
思ったらためらうな。
同じチャンスは二度とこない。
ラーメンは伸びないうちに食え。
「今の私もそう思う。ちゃんと空に伝えてよかった」
そうしなければ今の幸せな美希はいなかったんだから。
「……それなら僕も美希に感謝だね」
美希の告白で目を覚ました気持ち。
ちっぽけな心だけど暖かな感情。
そして初めてのキス。
これからも美希といろんな事を経験していくんだろう
「……空の初めての相手は私って決めてるんだからね」
美希は恥ずかしそうに言う。
「……そろそろ寝ない?朝風呂っての試してみたくてさ」
「空って偶に爺臭い趣味出すよね?」
「そうかな?」
「まあ、いいよ。やる事やったし寝よっか?」
「うん」
「おやすみ」と美希とキスをして。眠りについた。
(2)
僕は困惑していた。子供二人の為にこんな豪華な部屋用意するの?
まだ僕達小学生だよ!
天音はその広さにはしゃいでいた。
そして服を脱いで浴衣に着替え始める。
もう慣れた。
そんな態度を取っていたら天音から理不尽な怒りを買う。
「もう私に飽きた?」
「そ、そんなわけないだろ?」
「知ってる。プール行こう?」
僕達はプールに行く。
祈とも遊ぶ。
祈が一人で可哀そうだと思ったから。
繭は酒井家の両親が遊んでる。
でも祈の相手をしていると天音の機嫌を損ねてしまう。
「天音より私の方が良くない?」
僕を破滅させないで!
必死に天音を宥めた。
天音は本気で怒ってるようじゃなかったようだ。
すぐに機嫌を直してくれた。
プールで一通り遊ぶと部屋に戻る。
そして疲れを休む間もなくレストランに行く。
片桐家の3姉弟はよく食べる。
父親に似たそうだ。
時間ぎりぎりまでデザートまできっちり食べてた。
夕食を食べ終わるとお風呂に入る。
風呂に入って部屋に戻る。
天音と二人っきりの夜。
テレビを見てると誰かがノックする。
天音はそれが誰かを知っていたらしい。
祈だった。
3人で遊んでいた。
コンビニでジュースとお菓子を大量に買って騒いでた。
そして気が付いたら寝ていた。
寝てる2人はそっとしておいて朝風呂にはいると空達もいる。
父さん達もいた。
日の出を見て風呂を出る。
部屋に戻ると2人はまだ寝ていた。
朝食の時間だよと起こす。
祈は自分の部屋に戻る。
天音は着替えると朝食に行く。
朝食は和食で行くか洋食で行くか悩んでいたらしい。
結局和食を選んだ。
ご飯の方が腹持ちが良いと思ったのだろう。
ご飯を食べると部屋に戻ってチェックアウトまでテレビを見て時間を潰した。
そして家に帰る。
もう夏休みが終わるね
そんな話をしてた。
楽しかったね。
天音はそう言っていた。
片桐家に着くと天音たちとお別れ。
「最後まで遊び倒そうぜ!」
それが次のデートの約束。
そして家に帰ると早速メールが来てた。
アミューズメントパークに行こう。
夏はまだ終わらない。
(3)
プールで酒井君と遊んでた。
今日は酒井君もいつもとテンションが変わってた。
私も気分が高揚してた。
だから大胆な行動に出る。
いろんな設備で遊んだ。
遊び終えると部屋に戻る。
部屋は美希の母さんが用意したスウィートルーム。
酒井君も緊張していた。
すぐに夕食の時間になった。
夕食の時間が緊張をほぐしてくれた。
翼たちは食を前にして緊張という言葉を知らない。
そんな3人を見て笑っていた。
食事が終るとお風呂に行く。
美希たちと話をしていた。
絶景を見ながらお風呂。
そして部屋に戻る。
広い部屋で二人きりの時間。
コンビニで買ったジュースを飲みながらスマホを弄ってた。
日付が変わる頃「そろそろ寝ましょうか」と酒井君が言った。
ベッドは二つあった。
だけど敢えて酒井君のベッドに入った。
ベッドは十分な広さだった。
酒井君は私を包み込んでくれた。
酒井君の腕の中で眠っていた。
朝になると酒井君がいない。
昨夜のことが夢のように消えていた。
どこに行ったんだろう?
私は連絡する。
「すいません、朝風呂入ってました。翼は気持ちよさそうに眠っていたので起こすのは悪いと思って」
なるほどね。
酒井君が風呂から戻ると朝食に行く。
朝食が終ると私達は部屋に戻る。
チェックアウトまでテレビを見て時間を潰す。
「楽しい夏休みだったね」
「また、学校生活だね」
「運動会や社会見学があるね」
「……クリスマスは空いてますか?」
まだそんな先の事考えてなかった。
「何かあるなら空けておくけど?」
「多分パーティを開くので招待したくて」
「分かりましたでも……イブはどうする?」
「ショッピングモールでよかったら夕食でもご一緒しませんか?」
「はい!」
初めて過ごす恋人とのクリスマス。
2学期も楽しみが沢山あるみたいだ。
ホテルを出ると家に向かう。
家に着くと、車を降りる。
「それではまた。今日はありがとう」
「また連絡しますね」
そういって酒井君達は帰っていった。
空の部屋にお邪魔する。
「どうだった?」
空と昨夜あったことを話す。
気が付いたら空は寝てた。
疲れたんだな。
そっと部屋を出る。
残り僅かな夏休み。
最後まで私達は遊んでいた。
(4)
「おはようございます」
「水奈ちゃんいらっしゃい」
学のお母さんが出迎えてくれた。
恋が抱きついてきた。
「ようこそ。さ、上がって」
学が部屋に案内してくれた。
学の母さんは今日は深夜勤だそうだ。
学の部屋はきちんと整理されていた。
漫画よりも小説や参考書が多いみたいだ。
でも読書って趣味があることを知った。
推理小説が好きなんだそうだ。
学の母さんがジュースを持ってきてくれた。
「母さんたち昼間は出かけてるからゆっくりしていって」
そう言って恋と遊と学の父さんを連れて出かけて行った。
テレビを見ていた。
学も初めての訪問者に戸惑っていたらしい。
昼ごはんは学が作ってくれた。
片付けは私も手伝った。
また二人でテレビを見る。
夕方ごろ遊たちが帰ってきた。
「夕食は母さん作るから」
学の母さんが夕食を作ってくれた。
その後恋と風呂に入る。
そしてまた学の部屋で過ごす。
本当に学の部屋に布団を敷いてくれた。
でもそんな必要すらなかった。
学と話をしながらテレビを見ていた。
深夜に学の母さんは出かける。
学の父さんは寝ていた。
遊も恋も寝ていた。
2人の夜。
「夏休みももうすぐ終わりか」
学が言った。
「終わらねーよ」
私が言った。
「え?」
「夏休みはこれからもまた来る。2人で過ごしていれば必ず来る。また新しい夏を待てばいい。私はまた学と夏を過ごしたい」
「……そうだな」
学は笑っていた。
「そろそろ寝ようか?」
学が言う。
学がベッドに入ると私も同じベッドにもぐりこんだ。
驚く学。
「私じゃ不満か?」
私はそう言って笑う。
学の腕の中で眠る。
朝になると学がいない。
キッチンに出ると学が朝食の準備をしていた。
「すまん、昨日遅かったから」
「気にするな。もう起きて大丈夫なのか?」
「ああ、昨夜は私失礼がなかったか?」
寝相悪くなかったか?
「普通だったよ。ただ……」
「ただ?」
「恋人の寝顔って可愛く見えるんだな」
学はそう言って笑う。
朝食を食べ終わる頃、学の母さんが帰ってくる。
「瑛大は?」
「ああ、まだ寝てるよ」
「全くあの馬鹿は……」
「母さんもゆっくり休みなよ」
「ごめんね。今日も準夜勤でさ」
「気にすることないって」
学の母さんは寝室に入っていった。
「慌ただしい朝ですまんな」
「ああ、大丈夫だ」
うちの親も似たようなもんだしな。
その後遊は朝食を食べ終わると外に飛び出していった。
学と恋と3人で遊んでいた。
夕食を食べ風呂に入ると恋を寝かしつける。
それを見て私はそろそろ帰ろうとする。
「送っていくよ」
「いいのか?」
「父さんもいるし大丈夫だ。水奈一人で帰らせたら俺がどやされる」
学と二人で話しながら帰った。
「じゃあ、また」
「ああ、ありがとうな。気を付けて帰ってくれ」
「ああ、帰ったら連絡する」
後姿が見えなくなるまで見送っていた。
帰ってしばらくすると学からメッセージが届いた。
「今帰ったよ」
「おかえり」
「ただいま」
あと何度こんなやりとりを繰り返すのだろう。
何度でも繰り返してみせる。
星を眺めながら話していた帰り道。
学と夏の終わり、将来の夢、大きな希望。
10年後の8月もまた一緒だと信じて。
今という宝物を忘れない。
最高の想い出を作った。
(5)
愛莉と二人で那奈瀬川の公園に来ていた。
多田夫妻も一緒だった。
誠に呼び出されてきた。
愛莉もカンナも身重だしあまり無理はさせたくなかったのだけど今日だけはと誠が言うので連れてきた。
「懐かしいな」
もう盆も過ぎ人気もいない公園に何の用があるのだろう。
愛莉は気づいてるらしい。
「冬夜さんはお忘れですか?」
愛莉が聞く。
「まあ、トーヤらしいな」
カンナがそう言って笑う。
「10年前、約束した事覚えてないのか?」
誠に言われて思い出した。
「また10年後の8月に集まろう」
愛莉が言い出したことだ。
「俺達は変わったな」
誠が言う。
「けど一番結婚の遅かったトーヤ達が一番最初に子供作るとは想像つかなかったぞ」
僕も驚いたけどな。まさか結婚式の日に告げられるとは思ってもみなかった。
「この10年忙しかったね。お互いに」
愛莉が言う。
子育てに事業独立に慌ただしかった。
事業独立は他の人ほど難しいことは無かった。酒井君や石原君それに誠や楠木君が客を紹介してくれたから。
融資も檜山先輩の一声で比較的簡単に受ける事が出来た。
それでも忙しい事に変わりはなかったけど愛莉の教育で空達は良い子に育ってくれた。
カンナも同じらしい。
もっとも、誠は想像通りの行動をとったらしいが。
「また10年後もこうして会えると良いね」
愛莉が言う。
風の始まる場所。
語った夢の欠片。
こうしてまた同じ空を見てる。
サヨナラは言わないと笑ってみせた君が今も……。
夏の星に言葉に出来なかった想いを願いかけた。
今もまだ僕のそばに君がいる。
夜空を舞う白い花をそっと手に乗せて嬉しそうな君の横顔。
巡る風、季節は過ぎ僕達の約束は色あせない。
一緒にいるから一人で泣くことは無い、僕に出来ることは何でもするから。
今もこの胸には君がくれたものが10年経っても変わらずにある。
遠い夏は駆け抜けていった。
僕たちはきっとまたこの約束の場所でまた会えるだろう。
10年後は空達も二十歳か……。
あの子たちもこうして約束を交わすのだろうか?
描いてたその未来を子供たちに託そう。
今もなお、あの子たちは思い出を作っている。
今年の夏が終わる。
しかし僕達の夏は終わらない。
夢の中でずっと永遠に。
僕達の胸に残されたものは10年経っても変わらずに。
遠い夏を駆け抜けていった言葉は忘れない。
巡る風、季節は過ぎても僕達の約束は色あせない。
描いてたその未来を10年後にまたみるだろう。
あの子たちはどんな未来を描いているのだろう?
その答えはあの子たちにもまだ見えていない。
今を無我夢中に生きているだけ。
あの子たちの物語はまだ始まったばかりなのだから。
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