第6話 桜子の憂鬱

(1)


「空準備出来てるか!?」


 私は勢いよくドアを開ける。

 空は寝ている。

 朝弱いのはパパに似たらしい。

 私は空に飛びついた。

 空は驚いて起きる。


「ちょっと朝からまずいって!」

「いいじゃん!可愛い妹が抱きついてきて嬉しくないのか!?」

「ちょっと天音なにやってるの!?」


 翼起きて来たらしい。

 翼も朝が弱い。パパに似たんだろう。


「妹が少しじゃれてるだけだろ」

「空には美希がいるの!」

「妹と彼女は別だろ!?」

「妹にべったりしてる兄がいいの?」

「とりあえず着替えさせてよ!」


 3人で揉めていると愛莉がやって来た。


「3人とも早く降りてきなさい。それともまた空がぐずってるの?」


 愛莉が部屋にやってくる。

 翼はドアを開けっぱなしだった。

 愛莉に見られる。

 だけど愛莉だから問題ない。


「そういうことをするならドアはちゃんと閉めておきなさい。冬夜さんがみたらショックですよ?」


 これからは部屋に入るときはノックしないとね?と愛莉は笑って言う。

 私と翼は先にダイニングに向かって空を待つ。

 しばらくして空が降りて来た。

 食事の時間は休戦時間。

 食い物の前ではみな平等!

 そして朝食が済んで仕度を済ませる。

 水奈がやって来た。

 私達は玄関に行って靴を履くと家を出る。


「いってきま~す!」


 そう言って学校に向かう。


「そういや、今日の給食ご飯の日だぜ。水奈、準備は出来てるか?」

「箸なら持ってきたけど?」


 そうじゃねーだろ!


「ごはんっていえばTKGだ!!アレやるぞ!」

「本気だったのか!?」


 水奈が驚いてる。

 私はいつだって本気だ。


「いつやる?」

「中休みにやるしかないだろうな」

「OK!」


 水奈はにやりと笑う。


「何するのか知らないけど問題起こすなよ?今日は天音たちの家庭訪問だろ?」


 空が言う。


「家庭訪問だからやるんだろ?学校に呼び出されることはねーよ!」


 私が言うと空と翼はため息をついていた。

 学校の昇降口に着くと空と翼とは離れる。

 粋と遊達も誘う。

 2人とも乗り気だった。

 まってろよ玉子!!


(2)


 今日は家庭訪問。

 教師にとって意外としんどい。

 最近はモンスターと呼ばれる親が多い。

 しかも今日は学校に行く前から疲れた。

 事件は中休みに起こった。

 学校でにわとりやらウサギやらを飼育している。

 今週の当番は隣のクラスの飼育委員だった。

 どうやって飼育委員から鍵を入手したのかは口を割らなかったが大方脅したか誘惑したかだろう。

 犯人は4人のうち2人は普通にしていればただの明るい美少女なのだからそのくらい容易だ。

 犯人は入手した鍵を使って鶏小屋に入って玉子を奪おうとしたが産んでなかった。

 「今すぐ産め!さもないとこの場でバラしてフライドチキンにするぞ!」と脅した。

 しかし鶏は複数いる。

 犯人の目的は牝鳥にあった。

 雄鶏は興味なかった。

 だから小屋から雄鶏が逃走して大騒ぎになった。

 4人のうち2人の男子は慌てて逃走しようとしたところをすぐに取り押さえる。

 2人の女子はそんな事にお構いなく玉子を産むように迫っていた。


「ふざけんな!私は今日の為に醤油まで用意したんだぞ!」

「やっぱり交尾させないと産まないんじゃね?」

「お前らずっと一緒にいるのに交尾しないとかオスは全員腰抜けか!?」

「ちょっと雄鶏捕まえてくる。無理やりにでも交尾させよう」

「鶏ってどうやって交尾するんだ?雄鶏にそんなもんついてたか?」


 コッココッコやかましい鶏小屋でそんなやりとりをしている首謀者2人を取り押さえる教職員。

 首謀者は言うまでもなく片桐天音と多田水奈。

 逃げ出した男子は栗林粋と桐谷遊。

 3限は自習の時間にして4人を生活指導室に呼び出して説教した。


「産みたての玉子でTKGしたら美味そうじゃね?」


 首謀者の動機は至ってシンプルだった。

 無邪気な少女の犯行と言えば可愛らしいがやってることは過激すぎる。

 そしてこの4人は前科があり過ぎる。

 家庭訪問の時期じゃなかったら親を呼び出すところだがちょうどこの4人は今日の家庭訪問で回るところだ。


「あとは水島先生にお任せします」


 面倒事は全ては私に押し付ける。

 この4人は母親を呼び出したところで効果が全くない。

 反省という二文字をどこからに忘れている。

 反省は教訓という文字に化けているのだろうか?

 これはやったらまずい、だから次はこうしよう。

 ある意味反省しているようだが、犯行はそれを踏まえて徐々に過激化していく。

 まずはその頭痛の元凶の片桐天音の家に行く。

 片桐天音は普通におとなしくしてさえくれれば才色兼備の万能少女なのだがやんちゃという言葉では優しすぎる。

 溜息をついて片桐家の呼び鈴を押す。

 愛莉先輩が出る。


「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ」


 私はリビングに案内される。

 リビングのソファに腰掛けると出されたお茶に口をつけると学校での生活態度を報告する。

 成績は良い、人気もある。だがやることに問題があり過ぎる。

 私が愛莉先輩に伝えるのはこれが4度目だ。

 上の二人は普通に過ごしているのにどうして天音だけここまで問題があるんだ。

 今日あった事件もついでに報告する。

 すると愛莉先輩は自分の隣に座っていた天音を見て言った。


「天音。あなたは間違っています」


 流石お母さん。ここは厳しく叱ってくれる。そう思っていた。


「最近の鶏は品種改良されていて交尾しなくても無精卵を産むの。理屈は女性の生理と同じです」


 話の論点はそこじゃないですよ愛莉先輩。


「じゃあ、どうやって鶏は交尾するの?」


 話がどんどんずれていく。黙って見守っていたのは毎年の事だから。


「問題はそこじゃありませんよ天音。あなた達だけで卵を食べて他の人に悪いと思わないの?」

「まあ、それもそうか……」


 天音はとりあえず納得したようだ。

 問題がすり替わっているけど取りあえず解決した。そう思い込もう。

 天音は上の二人とは違っていて友達も多い。悪友ともいえるが男女関係なく交友関係を持つ。問題に巻き込んでいくともいうが。


「天音さんはご家庭ではどのように過ごされていますか?」

「そうですね。姉弟仲良く暮らしてますよ。仲が良すぎて困っていますが」

「と、言うと?」

「すぐに空に甘えたがるんです」

「と、いうと?」

「どうも空の事が好きみたいで……」

「は、はあ」


 片桐家は皆思考が理解に苦しむ。


「とりあえず愛莉先輩。天音さんの事お願いします。学校でも問題になってるんです」


 教師の仕事をこれ以上増やさないで欲しい。


「ですが天音のやることは好奇心からきている子供らしい行為です。頭ごなしに押さえつけるのも問題だと思うんです」


 好奇心で扉の引手に画鋲を張り付けるのは問題じゃないのか?

 天音たちのやる事はいい加減事件になってもおかしくないですよ。

 何か良い案が無いだろうか?


「天音さんはスポーツとかは興味ないの?」


 別の趣味を見つけてその才能を活かせばいい。

 この子なら何でもこなすだろう。

 私の娘が通っているサッカースクールを勧めてみた。


「何が楽しくて毎日汗だくにならないといけないんだよ。体育の授業すら面倒なのに」


 めんどくさいからやりたくない。そこは父親の血を継いだらしい。


「じゃ、次があるのでそろそろ失礼します。天音さんがこれ以上問題を起こさないようにくれぐれもよろしくお願いします」

「善処はしますが、まだ9歳なので大目に見てやってくださいな」

「桜子またね~」


 全く反省の色が無い天音。

 一番最後にするべきだった、

 一件目で早くも疲れ果てた私は二件目に向かった。


(3)


 二件目は今日の事件のもう一人の首謀者・多田水奈。

 天音と水奈がつるむとろくな事がない。

 二年の時は別のクラスに替えたが他の児童に影響が出るし意味が無いからと三年になって戻って来た。

 年々エスカレートする二人の犯行。

 私は多田家の呼び鈴を鳴らす。


「お、来たか桜子。まあ上がれよ」


 水奈の母親・多田神奈先輩がそう言った。

 リビングに通されると私は神奈先輩に今日の出来事、遠足での犯行等も含めて学校の生活態度の改善を求めた。


「すまん、桜子には迷惑をかけてるな」


 神奈先輩は頭を下げる。


「水奈!お前も謝れ!」


 そう言って水奈の頭を無理やり下げさせる。


「分かってもらえればいいんです。子供のやんちゃにしてはやりすぎです」

「そうだな……、誰に似たんだろうな」


 神奈先輩は見た目に寄らず割と真面目な人だった。

 酒癖が悪い所はあるけど。


「学業の成績もちょっと問題ありますね。ご家庭では宿題されてますか?」


 水奈は大体学校で天音のノートを丸写ししてる。何の工夫もしない。バレバレだった。

 天音は適当に授業を聞きながら水奈とひそひそ話をしているのに宿題は模範解答の様な解答を返してくる。

 カンニングではないことはすぐにわかる。模範解答よりも正確に的確に解答しているのだから。

 そんなのを丸写しすればすぐにばれる。


「私もそこまで頭が良いわけじゃないから宿題をみてやれなくて……生活態度も私がしっかり見てらやないといけないんだけど……」


 けど?


「誠が毎日の様に問題起こすからそっちの処理で手一杯なんだ。水奈が出来てからずっとだ」


 水奈の父親・多田誠。

 地元Jリーグの選手。スタープレイヤー。

 未だに現役をしている。

 フォワードは世代的に海外で活躍している名選手が多いんで日本代表には選考されないもののJリーグの日本人選手としてはトップレベルだ。

 そんな選手の年棒を支えているチームも凄いが。

 シーズン中はアウェーに行ってたりで忙しい。

 そして偶に帰ってくる誠先輩に皆の問題を相談すると……。


「分かった神奈。俺が風呂場でじっくり水奈に教育してやる!」

「ふざけるなこの馬鹿!!」

「誰がお前と風呂なんかに入るか、気持ち悪いんだよ!」


 大体このパターンになるらしい。

 昨日はちょっとした家族会議になった。


「なあ、神奈。俺なりに考えたんだが……」

「どうした誠?」

「冬夜の所とうちの違いって何だと思う?」

「わからない、お前は何か気付いたのか?」

「やっぱり妹か弟必要なんじゃね?ここはひとつ……」

「ただのお前の欲望丸出しじゃねーか!水奈一人育てるのにどれだけ苦労してると思ってるんだ!?しかも水奈の素行もだがお前の育児の姿勢で苦労してるんだぞ!余計な手間作りやがって」


 それで昨日大喧嘩だったらしい。

 誠先輩は育児には協力的だという。異常なまでに水奈の面倒を見て来たらしい。

 神奈さんとの第2子を設ける時間も惜しんで水奈に異常なまでの愛情を示しているらしい。

 それにブレーキをかけるのが大変なんだという。


「水奈の性格は誠への反抗心かもしれねーな」


 神奈先輩は考え込んでいる。

 そろそろ時間だ。


「じゃあ、そういうことで、私次の子の所に行かないといけないので」

「ああ、悪いな。水奈の事はこっちでも考えるよ」

「いえ、ではまた」


 そして次の子の家に向かった。

 翌日黒板消しを頭上に食らった。

 小遣いを減らされた腹いせにやったらしい。

 もういやだ……。


(3)

 

 3人目は栗林粋。

 栗林美里さんの長男だ。

 とにかく落ち着きのない子で授業中でも突然暴れ出す。

 トイレ行くと言って教室をでていき、1時間帰ってこないこともある。

 桐谷遊と大体一緒に行動している。

 呼び鈴を押す。


「あ、いらっしゃいませ。どうぞ……」


 居間に案内されると私は学校での粋の生活態度を説明する。今日の事件も含めて


「それはすいませんでした」


 普通に謝っているように見えるが態度は「またか……」とうんざりしている様子。

 それは私が言いたいほどだ。

 育児放棄まではいかないまでも、子供のやる事にあまり興味を示さない。

 家庭での教育は父親の栗林純一がやってるみたいだ。


「そういえば粋はどこに?」

「遊びに出かけました”俺いなくても親がいればいいだろ?”って……」


 あいつは……。


「粋くんの成績は可もなく不可もなくですね。とりあえず授業中ちゃんと席にいてくれさえすればもう少し伸びると思うんですが、ご家庭ではどうですか?」

「気が付いたらいないことが多いですね。夜にはちゃんと帰ってきてるので問題はないと思いますけど」


 いや、あるだろ!


「ところで粋君はお母さんに何か相談事とかされましたか?」

「いえ、何かあったんですか?」


 私は話すべきかどうか迷った。

 個人的情報に触れて良いものか?

 でもまだ9歳だし母親は把握しておいた方がいいかもしれない。


「実は粋君、いつも片桐さんと一緒なんですよね」


 その目はまるで恋に落ちているような。


「なるほど……」


 美里さんにはあまり興味が無いようだった。


「あの、もう少し粋君の事……自分のお子さんのこと関心持ってあげた方が……」

「そういうのは純一さんに一任してるから。私は家事やるから育児は純一さんにって」


 それでいいのか!?


「それにそういう感情他人にとやかく言われたくないと思いませんか?」


 美里さんから聞いてきた。


「……そうですよね」


 授業参観にも来ない美里さんにこれ以上言っても無駄か。


「それでは私今日はもう一件いかないといけないので」

「はい、ご苦労様です」


 どうでもよさげな目線で背に私は最後の難関に挑んだ。


(4)


 最後は桐谷遊の家だ。

 桐谷瑛大先輩と桐谷亜依先輩の次男。

 長男は模範的な優等生なのに全く正反対のベクトルの持ち主。

 私のクラスの最後の問題児だ。

 桐谷家の呼び鈴を押す。


「あ、桜子いらっしゃい」

「どうもお久しぶりです。亜依先輩」

「まあ、上がっていってよ」


 居間に案内されると座る。

 先輩は少々やつれていた。


「先輩顔色悪いですよ?ちゃんと寝てますか?」

「ああ、昨日今日と夜勤続いてて昼夜逆転してるだけ。気にしないで。で、遊はどうなの?」


 遊はまずいと感じたのかそうっとその場を離れようとした。

 そういう場面は主人とのやり取りで慣れているのかすぐに遊の腕を掴む亜依先輩。


「桜子!こいつまた何かやらかしたの!?」


 亜依先輩に言われると今日の事件と日頃の生活態度を説明した。


「この馬鹿は……」

「粋がやろうぜっていうから!」

「言い訳するな!先生に謝れ!」

「ちゃんと謝ったよ!!」

「まあ、首謀者は片桐さんですから……」


 私は仲裁に入る。


「だけど、女子に言われてついて行って挙句の果てに女子に責任擦り付けるって男としてどうなの?」


 まあ、その通りなんだけど。


「ごめん、桜子。私はこいつらをずっと見てやれないし主人はあれだから」


 仕事から帰るとご飯を食べて風呂に入るとゲームをしながら酒を飲んでるらしい。

 挙句の果てに休日くらい遊びに連れていくと思えば地下アイドル発掘とやらで中島君と遊び惚けてるんだとか。


「あいつも子供が3人も出来れば変わると思ったんだけど失敗だったわ。あ、子供を産んだのが失敗だったとかそういうわけじゃないんだよ」

「大変なんですね」


 他にかける言葉が無かった。


「ところでご家庭ではどう過ごされてるんですか?」

「家の事は全部学に押し付けて勉強するのかと思えば遊びに行ったりゲームしてたり、恋の相手すらしない」


 桐谷恋。桐谷家の長女。小学校2年生。

 ちょっと寂しがり屋なところがある。

 想像通りの回答だった。


「成績は少々問題ありますね。今後の事を考えると今のうちに勉強する癖をつけとかないと……」


 少なくとも宿題を写してくるくらいの抵抗くらい見せてほしい。


「あとは、忘れ物が多いですね」

「だから学校に置いていけば問題ないって言ったじゃん!」

「お前は家で勉強するつもりがないのか!」


 亜依先輩と遊の口論に割って入る。

 最後にもう一つ言う事があった。


「まだ小学校4年生だから母親も把握しておいた方がいいと思っていわせてもらいますけど」

「こいつまだ問題抱えてるの!?」


 まあ、問題と言えば問題かな?


「もう思春期なんでしょうね。気になる女子がいるみたいです」


 教室でずっと見ていたらすぐわかる。

 この年の恋心はとても純粋で真っ直ぐだから。


「ああ!その話は別にしなくてもいいだろ!?」

「お前は黙ってろ!桜子。誰それ?」


 亜依先輩は興味津々だ。


「同じクラスの多田水奈さんです」

「それって神奈の娘さん?」


 私はうなずいた。


「お前も見た目に弱いみたいだな」


 亜依先輩は息子の恋愛観をそう評した。


「まあ、小学生の恋愛なので温かく見守ってあげたいんですけど2人とも日頃の素行が問題あるから……」


 行き過ぎないように見張っててほしい。


「確かに私達が若い時も小学生で最後までいっちゃうやついたもんね」


 オブラートに包んだ意味が全くなかった。


「で、遊は水奈に告ったのか?」

「ま、まだそんな仲じゃねーし!」

「急いだ方がいいぞ。この前神奈とお茶してたんだけど」


 何かあったのか。


「水奈には好きな人いたらしいぞ」


 それは知らなかった。


「だ、誰だよそれ?」


 遊は気になるらしい。


「片桐空。もう振られたらしいけど」


 ああ、天音の兄か。


「あいつ年上好きだったのか?」

「女は精神年齢が男より高いんだよ。二つ上くらいがちょうどいいんだ」


 亜依先輩はそう言って息子を揶揄う。


「じゃ、遅くなっても迷惑だしそろそろ失礼します」

「はい、桜子ごめんね。こいつの事頼むわ」


 そう言って見送られた。

 今から学校に帰って残務をするか……。

 私は主人に電話をしていた。


「あ、佐?私今家庭訪問終わったところなの。みなみの送迎お願いできないかな?ありがとう。じゃあまた」


 今日は帰って食事して子供を寝かせたら佐と飲みたい。

 そんな気分だった。


(5)


 風呂に入ってリビングで父さんとビールを飲んでいた。

 この年になるとビールの喉越しの良さが染みる。

 今日は父さんと愛莉の両親とお笑いの番組を見ていた。

 お笑いの番組を見ながら空の今後を考えていた。

 事務所を継いでくれるのはありがたい。

 だけど翼は誰かの嫁に行くらしい。

 小学生でそんな気分になるとは思わなかったので愛莉パパに相談していた。


「あれ?パパさん達来てたの?」

 

 愛莉がお風呂から上がって来た。


「ああ、冬夜が娘の育て方で悩んでるようだったのでアドバイスをと思っておじさんが呼んだんだよ」


 父さんが言う。

 娘の育て方という言葉に反応したらしい。

 愛莉が僕の隣に座って俯いていた。


「どうしたの?」


 愛莉に聞いてみる。


「冬夜さん、私母親失格なのでしょうか?」


 多分今日の天音の家庭訪問の事だろう。

 天音のやんちゃっぷりは愛莉から聞いてる。


「愛莉にまかせっきりだったけど、問題ないと思うよ」


 そう言って愛莉の頭を撫でてやる。


「本当にそうなのでしょうか?自由にさせ過ぎたんじゃないかと心配になって」

「……それなら心配ないよ」


 愛莉に言った。


「きっと近いうちに何かが起こる。それで状況は変わってくるはずだよ」

「どうしてそう言い切れるのですか?」


 愛莉は不思議そうに言う。


「勘かな?翼も天音も周りにはたくさんの感情がまとわりついてる。愛莉の育て方のお蔭かな。色んな人と繋がっているんだ」

「……翼達を好きな人が現れるかもしれないとおっしゃりたいのですか?」

「そうかもしれないね」

「冬夜さんがそういうのでしたらきっとそうなのでしょうね」


 愛莉はそう言って笑う。

 そんな僕を4人の親が見ていた。


「……それでいいんだよ冬夜君」


 愛莉パパが言う。


「細かい事は嫁に任せて嫁が揺らいだ時に夫が支えてやればいい。子供たちの育成方針に悩んでいたら嫁の背中を押してやればいい。私達もそうしてきた」

「翼ちゃんも、天音ちゃんもいい子だよ~。愛莉ちゃんが思ってるような娘じゃない。ちゃんと真っ直ぐに育ってるから~」

「りえちゃん……」

「この子たちも立派な親になったみたいだ。めでたい。皆で飲もう!」

「……ビールまだあったかしら」


 母さんが言う。

 6人で細やかな宴会を開いた。

 親の苦労話を聞きながら、相談に乗ってもらった。

 22時過ぎになると愛莉の両親は帰っていった。

 そして僕達も寝室に入る。

 ベッドに入ると照明を消す。

 寝ようとすると愛莉が抱きついてきた。


「賭けをしませんか?」

「賭け?」


 僕が愛莉に聞き返すと愛莉がうなずいた。


「次の子が男の子か女の子か?」

「……じゃあ、男の子で」

「分かりました。じゃあ始めましょう」

 

 愛莉はにこりと笑っている。

 しかしその賭けは成立しなかった。

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