第23話 妖精の奇跡
「ミーヤさまごめんなさい。
ボクこんなことになるなんて思わなかったの」
チカマは必死に飛び上がろうと羽ばたいているが、人を持ち上げて飛ぶほどの力は無いらしくどんどん降下していく。その速度は決してふわふわとゆっくりなものではなくそれなりに早い。このまま落下したら無傷では済まないだろう。
「ちょっとミーヤ何やってんの!
チカマ頑張りなさい!」
一瞬でヴィッキーたちを追い越して下へと向かって落ちていくミーヤは、このままだとチカマを道連れにしてしまうに焦っていた。ミーヤだけなら生き返ることが出来るがチカマが死んだらそれっきりだ。それだけは避けなければ。
そう考えた瞬間、ミーヤはためらいなく腰に巻いていた命綱を解いた。見る見るうちにチカマが遠くなっていく。必死で追いかけてくるが落ちる速度のほうが随分と早い。
せめて何かできないかと考えた末、両手から風の精霊晶を呼び出して速度をお年、落下時のショックをやわらげられないか試してみるがほとんど変わっていないような気がする。
確かバタバ村の神柱に触れてきたはずだから死んだあとはすぐそばで生き返れるだろう。だから何の心配もいらないのだ。それでも怖いものは怖い。落ちた瞬間は痛そうだし、できれば死にたくない。
我に返ったミーヤはとにかく何度も風の精霊晶を出してみるが、何の効果も得られないどころか加速しているような気さえしてくる。これはもう完全に積みだ。
真っ暗な中落ちていくだけなので地表までどのくらいなのかもわからない。あと何秒かの命だと腹をくくったその時、突然体が軽くなった感覚と共に上下がさかさまになった。
今の今まで頭から落下していたはずなのに、今度は上に向かって進んでいるように感じる。いったい何が起きているのだろうか。頭上にはうっすらと光が見えているので間違いなく上に向かっている。
ふと足の辺りを見るとわずかにキラキラと光る何かが見える。まるで線香花火が放つ光のようにチリチリと舞う光、これはなんだ!?
余力が出来たので光の精霊晶を呼び出し周囲を照らしてみると、ミーヤの背中に透明な羽が生えていた。その形には見覚えがある。
「あなたが助けてくれたのね。
ありがとう、上まで行ったら果物をあげるわね」
ミーヤの身体を包んでいる光が返事をするようにまたたく。どうやら風の妖精シルフはずっと一緒にいてくれたようだ。
「あー、ミーヤさま飛んでる!
なんで羽が生えてるの!?」
落下していくミーヤを追いかけてきたチカマと合流し、ヴィッキーたちをも追い越して無事に崖の上へと戻ることが出来た。
もう完全にダメだと思った恐怖と、よく無事に帰ってこられたという安堵の気持ちが重なり、ミーヤはへたり込んだまま立ち上がれなかった。
「良かった! なんだかわかりませんが戻ってこられたんですね!
二人で落ちて行ったときはもうどうしようかと思いましたよ」
「ルカごめん、ボクのせいで……」
「大丈夫だよチカマちゃん。
二人とも無事だったのですから気にしないでください」
「うん、ルカの見せ場取っちゃてゴメンネ」
「ええ!? そっち!?
全然問題ないですよ、さっきの滑空切り凄かったですね!」
「えへへ、ボクほめられるの好き。
だからルカも好き」
意外な二人がいい雰囲気の空気を醸し出す中、崖下へ向かっていた四人が戻ってきた。結局行ったり来たりしただけのくたびれもうけだ。
だが一人だけそんな疲れを見せることなくすごい勢いで走ってきた。湿気で膨らんだ赤い髪を翻しながらヴィッキーがやってくる。そのまますごい勢いで飛び込んできて押し倒されてしまった。
「ちょっとミーヤったら、いったい何がどうなったのよ!
落ちて行ったと思ったら今度は空飛んで行っちゃって、もう何が何だかわからないわ」
「私もよくわかってないんだけどシルフが助けてくれたのよ。
詳しくは夕飯の時に説明するわ。
でもその前に崖下の探索へ行かないとでしょ?」
「そうだったわね、途中まではダルボが足場を作ってくれたわ。
途中から崖沿いに歩いて進めるくらいの段差があるからそこから進めそうね。
でもトラックは垂直に縄梯子垂らした方が早いって言ってたわね」
「なるほど、そう言う手もあるわね。
チカマに下を見てもらいながら安全な場所へ梯子を下していきましょ」
「わかった、それで行こう。
上に待機している必要もないし全員で降りるとするか」
こうしてトラックの先導で全員で崖を下っていき、途中少し広くなっているところから縄梯子を下すことにする。先端をチカマが持って飛んでいき、合図を待ってから順番に降りていく。
「ね、ここ広くて丁度良かったでしょ?
ボクが見つけたんだよ」
「偉いわねチカマ、良く見つけたじゃないの。
さあ次もまたお願いね」
ミーヤはチカマの肩へ光の精霊晶を付け直して送り出した。こうやって縄梯子を掛けに行くことにためらいは無く頼りになる。それにさっきはたった一人、しかも一撃でオオウナギを倒してしまった。
だがそれが必ずしもいいこととは限らない。あまりにも恐れを知らないと言うか、命を軽視している節が見られるからだ。ローメンデル山でドラゴンに叩き落されて死にかけたあとも空を飛ぶことに抵抗はなさそうだし、泳げないのに水辺であんな大きな相手に思い切った攻撃を仕掛けてしまう。
年齢や身体に見合わない強さは当然頼りになるが、それ以上に危うさに対する心配が勝る。ミーヤにとって大切な家族であるチカマを失うなんてことがあってはならない。
「ちょっとミーヤ、思いつめたような顔してどうかしたの?
まさか高いところが苦手ってこともないだろうし」
「何でもないわ、少し考え事をしていただけ。
下まで降りたら何があるのかな、とかね」
「なにかお宝でもあるといいんだけどね。
今のところは無限に魔鉱が湧く泉とてれすこ取り放題くらいじゃない?
鉄みたいな高級資源はそう簡単に見つからないだろうけどさ」
「そうよねえ、ここまで頑張ったんだもの、何かしら欲しいわ。
でも何が見つかったら嬉しいかしら」
「やっぱり鉄よ! 鉄鉱山があればきっと王都にも鍛冶師が集まってくるわ。
もしくは塩でもいいわね。
塩さえあればジョイポンだけにいい思いさせなくて済むんだもの」
ヴィッキーは国王に負け座ず劣らず他の街への対抗心が強いようだ。確かに鉱山が近く鍛冶製品の製造最大手として潤っているヨカンド、国で唯一塩製造の出来るジョイポンを羨む気持ちはわからなくもない。
ここで何かいいものが見つかればヴィッキーは大喜びだろうし、もちろんミーヤたちの稼ぎにもつながるだろう。そのためにもきちんと隅々まで探索しなければならない。
「そのためにもしっかり調べないといけないわね。
ヴィッキー、頑張りましょう!」
「ボクもがんばる!
なにか見つけてミーヤさまに褒めてもらうの」
「俺たちも負けてらんねえな。
お宝見つけて一攫千金だぜ!」
全員の士気が上がり勢いよく縄梯子を下りて行ってようやく滝壺の前までやってくると、そこから先に道は無かった。
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