第9話 展望

 大量の魔鉱を手に入れてホクホク顔で洞窟から出たミーヤたち、そこにはナウィンが出迎えに来てくれていた。


「ナウィンただいま、留守番ありがとうね。

 なにも変わったことはなかった?」


「はい、えっと、あの……

 なにもありませんでした。

 火は起こしてあるので早く温まってください」


「助かるわあ、もう頭が重くて仕方ないのよね。

 さ、早く馬車へ戻りましょ」


 風邪をひくとか着替えたいとかよりも、まず髪の重さを気にするところがヴィッキーらしい。ミーヤも大分乾いてはきたが、まだ全身濡れたままなので早く焚火にあたりたい。


 しかし盗賊残党を警備兵へ引き渡す必要もあるので、すぐにと言うわけにはいかなかった。結局解放されたのは全身がすっかり乾いたころだ。だが懸賞金を含め数十万を手にしたのでまあ悪くはない。


「ミーヤ、随分かかったわね。

 そんなのお姫様に任せとけばよかったのに」


 レナージュはすでに軽く酔っていてご機嫌の様子だ。傍らではナウィンが何かを作っていたが、ミーヤとヴィッキーが戻ってきたのを見て立ち上がる。


「これ、えっと、あの……

 着替えしますよね?」


 そう言うと、馬車と焚火の周囲を取り囲むようにテント、というか更衣室が現れた。真上は開いているものの、周囲は馬車と布で囲われていて周りから見られることもない。


「素晴らしいわね!

 これナウィンが作ったの?」


「はい、えっと、あの……

 暇だったものですから枝とか集めてきて作りました。

 布が足りなかったので屋根はありませんが……」


「ううん、十分よ、これなら快適ね。

 ヴィッキー、風邪ひかないうちに着替えちゃいましょう」


 二人で中へ入りそれぞれの手持ちに着替えた。上下の金属鎧を脱いで黒いワンピースに着替えたヴィッキーは、プロポーションが際立ってかわいらしい。赤い髪とのコントラストがまた魅力的である。


 こうして何の気兼ねもなく着替えが出来て表へ出ると、ナウィンはまたするするとテントを畳んでポケットへ仕舞い込んだ。細工と言うのは小物だけじゃなく色々なものが作れるのだと感心するばかりだ。


 着替えは終わったがビッキーの髪の毛はまだ濡れているようなので、乾かしてあげると言って座ってもらう。その後ろへミーヤが座りドライヤーを当て始めた。


「ちょっと! これ何してるの!

 なんだか暖かい風があたってるけどなに!? なんなの!?」


「大丈夫、心配ないからじっとしていてよ。

 すぐに乾くから待っててちょうだいな」


「何されてるかわからなくて恐いけど気持ちいいわね。

 この暖かい風で髪の毛を乾かしているの?」


「そうよ、すぐ乾くし艶も出るんだから。

 細工で作ってもらったものだからナウィンでも作れるんじゃないかしら」


 ジスコの細工屋はどう見ても凄腕には思えないので、ナウィンであればたやすく作れるのではないかと考えたのだ。問題は使うために召喚術が必要になることくらいだろう。


「はい、えっと、あの……

 これならすぐ作れそうです。

 でも炉と金床が無いので今すぐは無理です」


「鍛冶やるところならあるよ。

 ボク知ってるから教えてあげる」


 チカマがそう言ってナウィンを連れて行こうとした。ミーヤは二人を呼びとめてレナージュへ見本を渡すよう頼み、ついでにシャワーも預けてもらった。それにしても、ちびっこ二人が走っていく後姿は微笑ましいものがある。


「あなた達って不思議な事ばかりしてるのね。

 俄然興味が湧いてしまったわ。

 これからもついていこうかしら」


「ちょっとお姫様なんだからそんな勝手なことしちゃダメでしょ。

 私たちが国王に怒られてしまうわ」


「あら、別に問題ないわ。

 お父様はお父様、私は私だもの。

 跡継ぎはお兄様がいて私の居場所があるわけじゃないしね」


「そんな寂しいこと言わないでよ。

 たとえばどこかに領地を貰って街を治めるとかそう言う制度は無いの?」


「ないない、だって人が住むのは神柱のそばって決まってるようなものじゃない。

 王都の近くにそんな場所なんてもうないわよ」


 そうか、別に限定されているわけでなくとも、人々はみな神柱のそばに住みたがるのだった。トコストから離れた場所にはまだ人の住んでいない神柱はあるようだが、リグマたちが移住を諦めたように住まないだけの理由がある場所ばかりなのだろう。


「じゃあこのバタバ村を貰えばいいじゃないの。

 ほぼビス湖との中間地点だし、安全なら住みたい人も出てくるんじゃないかしら」


「レナージュいいこと言うじゃない。

 そうすればヴィッキーだって一国の主みたいなものよ?」


「ちょっとあなた達さ、私のこと追い払おうとしてない?

 ついて行かれるのがそんなに迷惑なわけ?」


「違うって、そういうことじゃないよ。

 私はある程度強くなったらカナイ村へ戻るし、レナージュだってジュクシンへ帰るんでしょ?

 ずっと冒険者やってるつもりじゃないのよ」


「レナージュはジュクシンの人だったのね。

 でもあそこはエルフには住みにくいでしょ」


「まあ神柱の加護は受けれらないけど、冒険者として生きていくには都合がいいからね。

 でももう戻らないかもしれないわ。

 ナードにこもるよりジスコへ住んでローメンデル山へ通うほうが良さそうだしね」


「あら、酒場のおばちゃんにこき使われるのに慣れちゃったの?

 宿代はかからず住めるから悪くはないかもしれないけどね」


「そうなのよね、それに身入りも意外に良くってさ。

 タダ酒プラス一日数千は稼げるし、冒険へ出ないで生活できるのもポイントよ」


 レナージュはいつの間にか酒場で働くことに抵抗がなくなっていたようだ。最初はあれほど文句を言っていたのが信じられない。やはり原動力はお金なのか。


「ホントあなた達は楽しそうで羨ましいわ。

 私なんて城に居たってつまらない毎日なんだから」


 やはり農耕国の王女なのに、農業の役に立てないと言うことを気にしているのだろう。兄姉のことは良く知らないけど、比較してしまったりされたりして肩身が狭いということもあるかもしれない。


「じゃあ私と一緒にカナイ村へ住んでみる?

 田舎暮らしは嫌だって言ってたような気もするけどね」


「嫌だなんて言ってないわよ。

 都会を知ったミーヤが耐えられないんじゃないのかって心配しただけ。

 だってカナイ村ってジスコからも相当遠いでしょ?

 食べ物や着るものだってあまりないんじゃないかしら」


「そうなのよねえ、だから色々と持って帰ったり新たに作ったり出来るようにしたいのよ。

 外から人が遊びに来たくなるようになればいいじゃない?

 南の森へ狩りへ行くときに利用してもらえるようになれば、きっと村は潤うわ」


「すごいこと考えてるのね。

 それこそ国を築くような大層な計画じゃないの。

 そんな簡単にいくものなのかしら」


「簡単ってことは無いでしょうね。

 今のカナイ村には無いものばかりだから、少しずつ揃えていくしかないもの。

 だから今はそのための経験と勉強をたくさんしたいってわけよ」


「じゃあしばらくは修行の旅ってわけだ。

 それなら私がついていっても問題ないわね。

 王都の発展よりもミーヤのやろうとしていることのがよほど興味深いわ。

 そのうち私も自分の可能性を見つけられるかもしれないしね」


 自分の可能性を見つける、その言葉はミーヤ自身も同じことだ。神人と言う特別な境遇に居ながら何の役にも立てないのでは情けない。世界のためになにか出来るなんて思わないが、マールやカナイ村のためになれるくらいにはなりたい。この気持ちは今でもぶれずに持ち続けている。


 それだけにヴィッキーの想いは理解できるような気がして、今は彼女のやりたいようにしてもらおうと思うのだった。

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