悪魔は私の鏡合わせ

夏 雪花

とある悪夢

それは、赤い海だった。

燃え盛る炎が一面に広がる空間だった。

黒い煙は濃い。目の前は涙で潤み、ひどくぼやけていた。

朦朧とする意識の片隅で、誰かが怒鳴る声が聞こえた。悲鳴も聞いた。

私はそれでも走っていた。

止まってはいけない。

振り返ってはいけない。

逃げなくては、いけない。

迫ってくるのは焔だろうか。それとも、別のだろうか。

考えている暇は無い。走るうち、もつれた足が瓦礫か何かにつまづいた。

「っ……!」

叩きつけられるように転んだ。頬が擦れる。肺に取り込まれる空気が痛い。

苦しい、

痛い、

怖い、

誰か、誰でもいいから……

そこでふと、背の高い何者かが目の前に現れた。

顔はわからない。なぜ背が高いなどと思ったのか、自分でもわからない。

かすむ視界の中それは目の前で膝をつくと、私の頬に手を添えて。

高く笑った。



バサリとタオルケットが落ちた。

グシャリと波を打つ布が、青にも関わらず炎に見えて動揺した。荒い息を吐きながら伸びっぱなしで中途半端な長さの髪をかき上げる。

時計を見やると{4:23}

まだ早朝の頃だった。

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