第32話 従姉妹と、優柔不断な俺
*
一華さんとリビングで話すことになった。
「で、なんで、あんなことになってたん〜?」
「えっと……」
俺は正直に答えることにした。
「陽葵と葵結と咲茉に告白されて……」
「えっ!?」
一華さんの目が点になる。
「蒼生くんが、あの三人に告白されるとはな〜」
「いや、あの……」
「ハーレムだねぇ〜!」
「いや、そういうわけでは……」
「じゃあ、どういう意味〜?」
「えっと……」
一華さんはジト目だ。
「蒼生は、誰を選ぶつもりなの〜?」
「えっと……」
一華さんは真剣な顔になる。
「はっきり言ってくれないと、私は納得できないよ〜?」
「ええと……」
俺は困ってしまう。
「蒼生……」
「蒼生……」
「蒼生お兄ちゃん……」
三人とも俺を見つめてくる。
「ええと……」
「結論が出せないようだね~?」
一華さんはニヤリとする。
「じゃあ、私にもチャンスがあるってことだね~♪」
「ええええええ!?」
思わず叫んでしまった。
「ちょっと待ってくださいよ……」
「待たないよ〜♪」
「いや、そんな……」
「蒼生くんがはっきりしないのが悪いんだぞ〜?」
「うぐ……」
「ふふん♪」
この人、からかって楽しんでるな……。
そんなとき、一糸家の玄関から物音が聞こえてきた。
「ただいま帰りました」
琴葉さんの声が聞こえる。
「えっ? どうしたのですか?」
「いや、実は……」
俺は事情を説明することにした。
「ふむ……」
琴葉さんは考えるような仕草をする。
「つまり、蒼生くんは、陽葵、葵結、咲茉の三人の誰かを恋人にするかどうか悩んでいるということですね?」
「…………」
「なるほど……」
琴葉さんは真剣な顔をする。
「ならば、その悩みは私が解決します」
「へっ?」
「私も蒼生くんの恋人になりますね」
『はい?』
俺だけじゃない。
陽葵たちも驚いている。
「私は蒼生くんに救われました。今回の不良たちの問題について真剣に解決しようとしてくれた蒼生くんに私は心を奪われました。だから、蒼生くん、私と恋人になってください」
「琴葉さん……」
「だから、この一糸家で誰が一番、蒼生くんの恋人にふさわしいのか勝負するのは、どうですか?」
「ちょ、ちょっと、なにを言っているんですか?」
「蒼生くんは、私だけを選んでくれればいいのです」
「いや、だから……」
「蒼生くん、大好きですよ」
「――ッ!?」
琴葉さんのキスが俺の頬に触れる。
「な、なにしてるんですか!?」
俺は慌ててしまうが、琴葉さんは微笑んでいた。
「蒼生くんは、私のことが嫌いですか?」
「そ、それは……」
「好きな部分もありますよね?」
「……はい」
「なら、問題ありません」
「…………」
「蒼生くん、好きです。あのとき、私を支えてくれたときから……」
琴葉の柔らかい唇が俺の頬に触れた。
俺たちは沈黙してしまう。
「お姉ちゃん……ずるい……」
咲茉が震えている。
「わたしも負けません……!」
葵結が気合いを入れていた。
そして、それを見かねた一華さんが……。
「まぁ、ここは大人の私が仕切るけど、蒼生が誰かを選べるようにしたらいいんじゃない〜? そうしたら、お互いの問題は解決するでしょう〜?」
「でも、それだと……」
「蒼生くんは優しすぎるんだよ〜。みんなが幸せになれる方法を考えちゃダメだよ〜。自分の気持ちに素直にならないと〜。それが、いつかは自分に返ってくると思うよ〜? だから、今は素直になろう〜?」
「…………」
「それにさ〜、みんなも蒼生と離れたくないんでしょう〜?」
一華さん以外の全員がうなずいた。
「じゃあさ〜、もう答えは出てるじゃん〜?」
一華さんは優しく笑う。
「みんな、蒼生のことが大好きだもんね〜。蒼生だってそうでしょ〜?」
『うんっ!』
『はいっ!』
みんなが返事をした。
「じゃあ、決まりだね〜! 蒼生、これから大変だと思うけど、がんばれ〜!」
「いや、あの……俺の意思は……?」
「う〜ん、じゃあ、この家で過ごして、いいと思った子を選べばいいんじゃない〜?」
「えっと……」
「それでいいよね〜」
一華さんはニコニコしている。
「……わかりました」
俺は覚悟を決めた。
「俺は、みんなのことが好きです。彼女たちと一緒にいられる時間が楽しくて、嬉しくて……だから……俺は……」
俺は陽葵たちを見る。
「俺は、悩んで、悩んで、悩みまくって、そして、決めます。優柔不断な俺だけど、よろしくお願いします」
俺は頭を下げた。
「そうだね〜♪」
一華さんは笑っている。
「じゃあ、この家で誰が蒼生の恋人になるのか……みんなで勝負だ〜♪」
俺は本当に優柔不断だ。
だから、俺は決めた。
彼女たちとの時間を大事にしたいと。
「蒼生お兄ちゃん……」
咲茉が抱きついてくる。
「あたしも蒼生お兄ちゃんのこと、好き……」
「ありがとう……」
「だから、蒼生お兄ちゃんにずっとくっつくね……」
「ええ……」
咲茉の温もりを感じながら思う。
こんな俺を受け入れてくれる人がいて、一緒にいたいと思える人たちがいる。
なんて幸せなんだろう。
だからこそ、答えないといけない。
誰を選ぶのか。
俺は、どんな結末を迎えるのか。
わからないけれど、俺は進むしかない。
「蒼生……」
陽葵が手を握ってくれる。
「わたし、蒼生のことが大好きですよ」
葵結が寄り添ってくれる。
「私も蒼生くんが大好き……」
琴葉さんが腕を絡めてくる。
「蒼生お兄ちゃん……」
咲茉がハグしてくる。
「蒼生、受難の日々が始まるねぇ〜♪」
一華さんが楽しげだった。
「これが、数年ぶりに再会した従姉妹と、ひとつ屋根の下で甘い生活をすることの始まりなんだね〜! きゃ〜♪」
一華さんは、ひとりで盛り上がっている。
「一華さん、そんなんじゃないですって……」
……たぶん、だけど。
「あっはっはっは~! ごめんね〜♪」
「はぁ……」
「まぁ、がんばってね〜♪」
「はい……」
こうして、俺たちの甘い生活が、これから始まる……はずだった。
「でも、その前に……私たちのお父さんに報告しないとね〜?」
『…………』
俺たちは黙ってしまう。
「いやいや、なんでそんな反応なの〜?」
「いや、でも……桜芽お父さんは……」
陽葵が不安げに言う。
「でも、こんなに頭の中が、お花畑になっている現状を報告しないわけにはいかないでしょ〜? でも、まぁ、大丈夫じゃないかな〜? きっと……」
『…………』
俺たちは沈黙してしまう。
「蒼生お兄ちゃん……」
咲茉が心配そうに見つめる。
「ああ……わかっているよ……」
俺は覚悟を決めることにした。
「俺が、なんとかするよ……」
そうだ。
なんとかしなきゃいけない。
それが、俺が選んだ道だ。
「でも、さすがに誰かを選ぶべきだったよなぁ……」
俺は自分の優柔不断さに後悔してしまう。
だけど、まだ、俺たちの物語は始まったばかりだ。
これからどうなるかは、俺にもわからない。
でも、俺の大切な人たちは、俺が守る。
――それが、俺の選択だ。
俺の名前は
どこにでもいそうな普通の高校生だ。
でも、ひとつだけ違うことがある。
それは……美人の従姉妹がいること。
そして、一糸学院という同じ学校に通っていること。
さらに、彼女たちは学校で有名人であること。
そんな彼女たちが、今、目の前にいる。
俺は、この生活を手放したくない。
だから、俺は彼女たちの父親である一糸桜芽に彼女たちの中の誰かを選ぶことを告白しなきゃいけないのだ。
彼女たちのお父さんは、それを聞いて、どんな反応をするのだろうか?
彼のことだから、大事な愛娘たちに俺が手を出そうものなら、急いで海外から戻ってくるだろうに。
でも、彼は、この俺をこの家で暮らさせてもいいと判断した。
なぜだ?
たとえ親戚であっても、男と女が、ひとつ屋根の下で生活すれば、なにか間違いが起こる、なんて思うのが普通だろう。
一糸桜芽……一糸学院の理事長は、なにを考えて、俺をこの家に……?
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