第5話 従姉妹と、親友キャラ
*
夕食のあと、俺は自分の部屋に戻っていた。
「ふう……」
ベッドに腰かけて、ひと息つく。
(なんだか、今日一日だけで、いろいろなことがあったな)
在校生代表として壇上に上がった陽葵のことを思い出す。
陽葵は、とても堂々としていて、まるで別人みたいだった。
それに、あの陽葵の姿を見たせいなのか、陽葵に好意を抱いている男子生徒たちが、さらに増えた気が、しないでもない。
「はは……」
俺は思わず、顔が引きつってしまうと同時に変な笑い声を出してしまう。
(それだけ人気者だったってことかな? まあ、陽葵は一糸学院に初等部のころからいるからなぁ……)
陽葵のことを思い浮かべると、自然と頬が緩む自分がいることに気づく。
だが、それと同時に、ある疑問が頭をよぎった。
それは、陽葵が今日、俺と一緒に帰ってくれたことだ。
「なんで、陽葵は一緒に帰ろうと言ってくれたんだろ?」
俺は小さく、つぶやいた。
陽葵は人気者で、いつも周りに人がいて、誰からも好かれているようだ。
そんな陽葵がわざわざ、俺と帰るなんて、普通では考えられない。
考えられるとしたら、ただの気紛れだろうか。
「……考えても仕方ないか」
いくら考えたところで答えは出ないと思ったので、考えるのをやめることにした。
そして、しばらくボーッとしていると、部屋のドアがノックされた。
コン、コン、コン。
「はい」
返事をすると、ガチャリという音とともに、誰かが部屋に入ってきた。
「失礼しま〜す」
部屋に入ってきた人物は咲茉だった。
「咲茉、どうかしたのか?」
俺は首を傾げる。
「お兄ちゃんに会いに来ただけだけど、迷惑だった?」
咲茉は不安げに訊いてくる。
「いや、別に構わないよ」
「よかった」
咲茉はホッとする。
「でも、咲茉は明日の準備とかはないのか?」
「うん、大丈夫だよ」
「そうなんだな。でも、なにか、あったら言ってくれよ? 手伝うから」
「うん! わかった!」
俺は優しく微笑みかけながら、咲茉の頭を撫でる。
「えへへ〜♪」
咲茉は嬉しそうに目を細めると、そのまま甘えるように抱きついてきた。
「えっ? ちょっ!?」
突然の行動だったので、戸惑ってしまう。
「ねえ、お兄ちゃん……」
「ん?」
「大好き……」
「っ――!」
耳元で囁かれ、ドキッとしてしまった。
「…………」
「…………」
お互いに無言の時間が続く。
「えっと、急にどうしたんだ?」
俺は戸惑いながらも質問する。
「別に、どうもしてないよ……」
咲茉は拗ねたような口調で言う。
「そっか……」
俺は困り果ててしまう。
(いったい、どうすればいいんだ?)
俺は必死に思考を回転させるが、良い案は出てこない。
そして、再び訪れた沈黙。
それを先に破ったのは、咲茉のほうだった。
「あのね、お兄ちゃん。ひとつ、お願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?」
「ああ、もちろん」
俺は即答する。
「ありがとう。じゃあ、言うね。――あたしを抱きしめてくれない?」
「はい?」
俺は思わず聞き返してしまう。
「だから、あたしのことをギュッてしてほしいの」
咲茉は恥ずかしそうに顔を赤らめながら言った。
「いやいやいや、なんで、また、そんなことを言うんだよ?」
「だって、あたしは妹なんだよ?」
「妹? ……ああ、従兄妹という意味では、そうかもしれないけどさぁ……」
「それなのに、お兄ちゃんは全然、構ってくれないから……」
「それは、ごめんな」
「だから、こうして、お願いしているんだよ?」
「うーん……」
俺は迷う。
確かに、ここへ来てからは咲茉と、あまり会話をしていない気がする。
だが、さすがに、それはマズいだろうと思い、なんとか断ろうとするけど……。
「ダメ、かな?」
上目遣いでそう言われてしまい、断りきれなくなってしまう。
「……わかったよ。ちょっとだけだぞ」
「わーい、やったー!」
俺が承諾すると、咲茉は両手を挙げて喜んだ。
「ほら、早くこっちに来て」
「はいはい」
俺は苦笑しながら、ベッドの上に座る。
そして、ゆっくりと腕を広げた。
「おいで」
「うん……」
咲茉は嬉しそうに笑うと、俺の腕の中に飛び込んできた。
「よし、これで満足か?」
「うん……」
「そうか……」
俺はホッと安堵のため息をつく。
(とりあえず、これで一件落着だな)
咲茉の背中に手を回して、軽く抱きしめる。
すると、咲茉は俺の胸に顔を埋め、スリスリしてきた。
(なんだか、咲茉って、猫みたい)
俺は思わず笑みを浮かべる。
それから、しばらくの間、俺たちはお互いを抱きしめ合う。
そして、どちらからともなく、自然と離れた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
咲茉は照れたように頬を赤く染めながら、俺に微笑んでくる。
「いえ、こちらこそ」
俺もつられて頬が熱くなるのを感じてしまう。
――これで、いいのだろうか。
そんな疑問が頭に浮かんだが、すぐに振り払う。
(まあ、いっか……)
俺は小さく微笑むと、咲茉と照れたような表情をする。
そして、お互いに見つめ合い、笑い合った。
「じゃあ、またね。お兄ちゃん」
咲茉は部屋を出ていった。
「ふぅ……」
ため息が漏れた。
なんだか、どっと疲れてしまった。
「まあ、たまになら、いいと思うけど、あんまりありすぎると、ちょっと心が持たないかも……」
俺は独り言をつぶやく。
そして、大きく伸びをして、そのまま仰向けになって倒れ込む。
「今日は、もう寝よう」
そして、俺は眠りにつこうとするが――。
「こんなことばっかだと、眠れねえよ……」
結局、なかなか眠ることができなかったのだった。
*
入学式と始業式が終わった次の日の朝、あまり眠れなかった俺は、いつもより少し早めに登校していた。
(やっぱり、まだ誰も来てないか……)
教室の中を見回すが、人の姿はなかった。
(当たり前だよな。だって、今は、まだ七時だし……)
俺は自分の席に座って、ぼんやりとする。
昨日は、いろいろあったせいで、ほとんど眠れていないのだ。
「はあ〜……」
俺は大きな、あくびをした。
「まだ一日しか経ってないのか……」
俺は窓の外を見ながら、ぼそりとつぶやく。
陽葵のこと、それに咲茉とのことなど、いろいろなことがありすぎて、時間が経つのを忘れていた。
「あれ?」
教室に、ひとり誰かが入る。
「おは、よう?」
「……おはよう」
「えっと、誰だったっけ?」
「……
「ああ、旗山くんね」
その男子生徒は俺の名前を確認すると、「隣、いい?」と訊いてきた。
「ああ」
「俺は
「うん、よろしく」
お互いに自己紹介を済ませる。
「ねえ、進野って呼んでもいい?」
「別に構わないよ。俺は旗山でいいか?」
「ああ、いいけど」
「ありがとう」
「ひとつ質問していいかな?」
「いいけど、なに?」
「進野ってさ、一糸学院に、どれくらい、いるの?」
「小学校のころから、かな」
「へぇ〜」
「そういう旗山は?」
「俺は今年。高等部からだよ」
「そうなんだ」
「うん」
「…………」
「……あのさ」
「うん」
「進野って、一糸学院に最初からいるんだろ? 一糸学院について知っている情報があったら教えてほしいんだけど」
「……どうして?」
「いや、これから通うところだから、どんな場所なのか知っておきたいと思って」
「なるほど。でも、そんな大したこと知らないぞ?」
「それでも、全然、問題ないから」
「わかった。じゃあ、説明するな」
「ああ」
「まず、この学校は小中高大一貫の学校だ」
「それは知ってる」
「まあ、そうだろうな」
「それで?」
「まあ、それだけだな」
「そっか……」
「ほかに聞きたいことはあるか?」
「うーん……じゃあ、一糸家の姉妹たちについて、なにかわかることがあれば教えてくれないかな?」
「ああ、それなら、いくつか言えることがあるぞ」
「本当か!?」
「一糸家の姉妹たちの父は、この学校の理事長だ」
「それも知ってるから、一糸家の姉妹たちについて教えて?」
「まずは陽葵さんだな」
「うん」
「陽葵さんは、とても優秀で中等部では学年トップの学力を誇っていたんだ。それに容姿端麗で、すごく美人だ。性格も優しく、生徒たちからも人気が高かった」
「ふーん……」
「ちなみに、高等部からは生徒会に入る予定だそうだ」
「そうなんだ」
「ああ。それと、彼女の妹である咲茉ちゃんは、運動神経抜群でスポーツ万能だ。そして、勉強のほうは、あまり得意ではないらしい」
「へぇ〜……」
「最後に琴葉生徒会長だ。彼女は、とてもお淑やかな女性だ。そして、なんといっても、スタイルがいい! 出るところが出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいて……」
「もういいから!」
俺は慌てて止める。
「あはは、ごめん。つい興奮しちゃった」
「まったく……」
「そう怒るなって」
「怒ってないし……」
「まあ、とにかく、一糸家の姉妹たちについて、俺が知っていることは以上だ」
「なるほどね……」
俺は腕組みをして考える。
「ほかには、なにかないか? 例えば、この学校の決まりとかさ」
「あっ、そういえば……」
「なんだ?」
「この学校って、いろんな生徒を受け入れているから、素行の悪い生徒もいるんだよ」
「素行の悪い生徒?」
進野は、少しだけ暗い顔をした。
「不良の生徒って、ことだよ」
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