第3話 従姉妹と、学校へ行く


  *


 ――翌日。


 俺は眠たい眼を擦りながらも、なんとか起きることができた。


 時計を見ると……午前六時。


「あれ……? なんか早く目が覚めちゃったな」


 いつも通りの時間に起きたはずなのに……。


 まあ、いっか。


 とりあえず、一階の洗面所で顔でも洗うか。


 俺はベッドから起き上がると、部屋を出て一階の洗面所へ向かう。


 すると、すでに先客がいたようだ。


「あ、蒼生お兄ちゃんだ!」


 咲茉が嬉しそうに俺のもとへ駆け寄ってくる。


「おはよう、咲茉」


「蒼生お兄ちゃん、おはよー!」


 彼女は俺の身体に飛びついてきた。


「うおっ!?」


 俺は思わず声を上げてしまう。


「えへへ、大好きなお兄ちゃんと一緒に朝を迎えられて嬉しいな!」


「そ、そうかい? それは、よかったよ。


 ところで……咲茉って、意外と甘えん坊なのか?」


「うーん、そうかもしれないね。


 でも、嫌だよね? 咲茉みたいな妹がいるなんて……?」


「……えっ? いや、別にそんなことはないぞ。


 俺は一人っ子だからな。


 兄妹に憧れていたんだ。


 もし、俺に妹ができたら……こんな感じかなって」


「そうなの? それなら嬉しいな!」


 咲茉は満面の笑みを浮かべている。


「ああ、咲茉は俺の大事な家族だよ」


「えへへ、咲茉もだよ!」


「じゃあ、一緒に顔を洗いに行くか」


「うん!」


 咲茉は俺の手を握ってきた。


 その手はとても柔らかくて……温かい。


  *


 ――それから数分後。


 俺たちは一緒に歯磨きをして、その後リビングへ向かった。


「あら、蒼生。ずいぶんと早いのね」


 リビングには一華がいた。


「一華さん、おはよ」


「おはよ〜」


「あの、一華さん。昨日の晩ご飯おいしかったよ。ありがとう」


「ふふん、いいんだよ〜。だって、私たちはもう家族なんだからね〜」


 一華は誇らしく胸を張る。


「そうですね。これから、よろしくお願いします」


「こちらこそ〜。ところで、蒼生は料理とかできるのかな?」


「えっ? 料理?」


「うん、料理。蒼生は料理、得意なの?」


「いや……全然できないですよ。料理は嫌いではないけど……自分で作るよりも買ってきた方が安いし美味しいから……」


「そっか〜。まあ、最初は誰でもそうだよね〜。私も初めて料理を作ったときは、失敗したな〜。味は悪くなかったんだけどね〜」


「そうですか。それはよかったです」


「うん! 私はこれから朝食を作るところだけど、蒼生も手伝ってくれる?」


「えっ? 俺がですか?」


「うん、もちろんだよ〜。ほら、こっちに来て」


 一華はキッチンの方へと歩いていく。


 俺は彼女の後について行った。


「今日のメニューはフレンチトーストだよ〜。まず、卵と牛乳と砂糖を混ぜるの〜。そこに食パンを入れて焼くだけだから簡単でしょ〜?」


「はい、わかりました」


 俺は一華の指示に従いながら、テキパキと動く。


「蒼生は器用だねぇ〜。初めてとは思えないくらい上手だ〜。あっ、焦げないように気をつけてね〜」


「はい、任せてください」


「蒼生は将来、いい旦那さんになりそうだよ〜。あっ、でも、私の婿になるのはダメだからね〜。あくまで、私たちは、もう家族なんだから!」


「はは、わかっていますよ」


 俺は苦笑いする。


 ……というか、一華さんの冗談は本当かどうかわからないな。


「よし、できた!」


「お疲れ様〜」


 俺が一息つくと、一華が優しく微笑んでくれた。


「さすが蒼生だね〜。はい、これ。お皿」


「どうも」


「あとは、これをテーブルに持っていけば完成だね」


 俺と一華が料理を持っていくと、そこには琴葉と陽葵と咲茉が座っていた。


「本当に。蒼生くん、料理が上手なんですね」


「おぉ、すごいね! おいしそうじゃん!」


「わぁー! お兄ちゃんが作ったの!? すごーい!」


「三人とも褒めすぎだろ。それに、まだ食べてないじゃないか」


「ごめんなさい。でも、本当においしそうだったので」


「そうそう! 本当に、おいしそうだよ!」


「お兄ちゃんの作ったフレンチトースト、早く食べたいなぁ」


 琴葉と陽葵と咲茉が期待の眼差しを向けてくる。


「はいよ、俺と一華さんのフレンチトーストを食べてくれ」


 俺は三人の前にお皿を置く。


「いっただっきまーす!」


「いただきます」


「いっただきまーす!」


 咲茉は勢いよく、琴葉は丁寧に、そして、陽葵は元気に挨拶した。


「うん、おいしい!」


「うん、これは市販のものより数倍は美味しいですね」


「お兄ちゃんの作ったフレンチトースト、最高!」


 陽葵と琴葉と咲茉が満足そうな表情を浮かべている。


「それはよかったよ」


「うんうん、蒼生も立派になったもんだね〜」


 一華も嬉しそうに笑っている。


「ありがとうございます。そういえば、今日は一糸学院の入学式ですね」


「うん、そうだよ〜。蒼生は一糸学院の高等部に所属するわけだね」


「はい。どんな学校なのか楽しみです」


「きっと、楽しいことがたくさんあると思うよ〜」


「だと嬉しいですね」


「あはは、大丈夫だよ。蒼生なら」


「そうですか。ありがとうございます」


 俺は少し照れてしまう。


 それから、俺たちは会話をしながら朝食を食べるのだった。


  *


 朝食を終えた俺たちは、すぐに身支度を整えた。


 といっても、俺は制服を着て鞄を持つだけなのだが……。


「いってきます」


「いってきまーす!」


「いってくるね!」


「いってらっしゃい」


 玄関で靴を履いていると、一華が見送りに来てくれた。


「あはは、四人とも学生って感じがしていいね〜」


「そ、そうですか?」


「うん、青春しているなって思うよ〜」


「じゃあ、いってきます」


「うん、いってらっしゃい」


 一華は笑顔で手を振ってくれたので、俺も手を振り返す。


「さあ、蒼生、いこう!」


「うん、陽葵、いこう!」


「蒼生くん、いきましょう」


「蒼生お兄ちゃん、一緒にいこっ!」


 こうして、俺たちは新しい生活の第一歩を踏み出すのであった。


  *


 ――私立、一糸学院いっしがくいん


 この学校は一糸家いとけが代々、運営・管理している私立の小中高大一貫校だ。


 ひときわ際立つ天才や美貌を持つ者がいれば、特に、なんの特徴もない一般的な才能や容姿を持つ者もいる。


 この学校は天才から(言い方は悪いが)バカまで幅広い生徒・学生が在籍している。


 ――入学式は理事長の話から始まった。


 そのあと、各クラスの担任の紹介があり、その次は在校生代表による歓迎の言葉と新入生代表の挨拶があるようだ。


 まず、生徒会長である琴葉からの歓迎の辞が述べられる。


「新入学生たち、ご入学おめでとうございます。私たち生徒会一同は、あなた方のような優秀な人材を迎え入れることができて大変喜ばしく思います。これからの学園生活を楽しんでくださいね。そして、みなさんにとって充実した毎日となるよう祈っております。それでは、ご清聴ありがとうございました」


 パチパチ、と拍手が起こる。当然、俺も拍手をしている。


 次に、在校生代表として壇上に上がったのは陽葵だ。


 彼女は緊張することなく堂々と話し始めた。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。在校生代表の挨拶をさせていただきます、一糸陽葵と申します。本日はこのような素晴らしい日に、在校生を代表して挨拶できることを誇りに思っております。さて、わたしが一糸学院に入学したのは今から九年前のことです。当時は小学生だったため、右も左もわからない状態でしたが、先輩方が優しく接してくれたおかげで不安を感じることなく過ごすことができました。わたしは、一糸学院の先輩方にたくさんのことを学ばせてもらいました。その中でも、一番心に響いた言葉があります。『人は一人では生きていけない』という言葉です。この言葉を聞いたとき、とても感動しました。わたしには家族がいますが、両親とも仕事の関係でなかなか会うことができないのです。だから、いつも寂しい思いをしています。しかし、『人は一人では生きられない』ということを知った瞬間、心が温かくなりました。今は離れて暮らしているけど、いつか必ず会えると信じています。そのときのために、わたしは強くありたいと思います。皆さんも、自分の夢に向かって頑張ってください! 応援しております! ご清聴ありがとうございました!」


 陽葵が深々と頭を下げると、盛大な拍手に包まれた。


 パチパチ、と俺も拍手を送る。


 陽葵が俺に目を合わせる。


 陽葵が俺に満面の笑みを浮かべると、また拍手が沸き起こった。


 陽葵の歓迎の辞が終わると、新入生代表の生徒が壇上に上がるのだった。

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