第31話「Throw out《ボツ》」
土曜日、体験パン屋初日の
実際昨日はタカオくんも野々花さんも居なかった訳だが、どうやら居ると期待しての再来店が増えているようだ。
やはり思った通りに、忙しい夏になりそうだ。
二日に伸ばしたオーバーナイト法のお陰で仕込みの方はなんとかなるが、新作パンの試作は営業日には難しいな。
という事で月曜、定休日の今日も厨房に篭りっきりだ。
この間の、喜多に酷評されたものはクロワッサンで試してみたものだが、他のパンはどうだろう?
フランスパン系……ダメだ。私の好み的にもベーコンエピ以上のものはこの先未来永劫生まれない筈だ。
トルコのサバサンドなんて変わり種もあるが、焼いたパンにあとから挟んだり塗ったりはウチでは行わない。
そう言ったものは別の手間が生まれるし、なによりウチのパンを使って千地球が作って売るからだ。
ならばふわふわ系の生地で菓子パン……一考の余地ありだが、即座にいま何か思いつくというのはないな……。
食パン系……何かを練り込む……抹茶小豆食パン……ベタだ。そこらじゅうで売ってる。
発想の転換が必要だな。
私はサンドイッチやカスクート、ブルスケッタなんかが好きだ。
しかしそれはウチでは売らないのを前提として……。
ならば、サンドイッチの具をハナから生地に閉じ込めたパンでどうだろうか?
例えばペーンエピのような、クリームパンのような、カレーパンのような。
ちなみにウチではカレーパンは作ってない。理由は簡単、揚げパンの為の設備を用意していないからだ。
なら何を閉じ込めるかという話だが、それこそブルスケッタに乗せるトマトなんかを閉じ込めて焼き上げてみるのも面白そうだ。
……よし、たまにはスーパーにでも行ってみるか。
明けて火曜の朝。
フレッシュトマトのパンはイマイチだった。
決して不味くはない、というか思った通りに美味かったんだが、覗いたスーパーにやや似たようなものがあった。しかもそれどころか、良く考えればチーズを入れればピザパンを畳んで閉じたものだった。
なのでボツ。どうせやるなら目新しさも欲しいしな。
「おはようございまーす店長!」「おはようございます!」
「おはようございます、カオルさんに野々花さん」
……しょんぼりだ。『ゲンゾウさん』から店長に戻っちまった。
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