22.ギルドが大騒ぎになるし、ギルマスには尋問されるし……


「こりゃハイゴブリンじゃないかいっ!」

「――ちょっ!?」


 夕方に差し掛かって、戻ってくる冒険者でにぎわいが出始めていたギルド内に、婆さんの叫び声が響く。

 その内容に、依頼完了報告の列に並んでいた冒険者たちが更にざわついた。


「ハイゴブリンだと?!」

「マジで?」「まさかぁ」

「この辺にいるわけねえだろっ」

「遠征帰りのパーティーか?」

「いや、ガキだぞ?」

「はあ?」「どれ?」


 ギルドに戻って、大人しく列に並んで順番を待って、受付の婆さんに依頼の『薬草採取』二件の完了報告をして――。

 わ、忘れてたわけじゃないぞ! ちゃんとマリアが採ってたんだからなっ!


 そんで、ついでに・・・・ハイゴブリンの耳を出したらこれだよ……。

 婆さんが細眼鏡をずり下ろしながら叫びやがった!


「ちょっ、婆さん! シィーッ!」


 口元に人差し指をあてながら、婆さんを鎮める。

 思わず『婆さん』って呼んじゃったけど、婆さんもビックリしててそれには気付かなかったみたいだ。


「――ハッ!!」


 我に返った婆さんは、俺らが初めてギルドに来た時みたいに閉まってる窓口まで俺らを引っ張ってって、自分は物凄い早さで階段に向かった。


「そこで待ってるんだよ!」



 ……で、ギルマス。ベルナールまで登場しやがった。


「レオッ! こりゃなんだ!?」

「ホ、ホブゴブリン?」

「ホブなわけねえだろ! こりゃハイゴブリンだ!」


 ベルナールまで……声がデケエってんだよ!!

 俺は心の中で毒づきながら、表面的にはシラをきる。


「へ、へえ~、そうなんだ?」

「“そうなんだ?”じゃねえっ! ……何処にいたんだ、これ?」


 ベルナールの剣幕に、いよいよギルド中の冒険者が俺らに注目してくる。


「草の自生地?」

「はあっ?! こんなのが町の近くにいたってのか!?」


 一気にどよめきが広がってしまう。


「ちょっ、おっさん! シィーッ!」

「――ハッ!!」


 ベルナールも我に返って、今度は俺の首根っこを掴んでそのまま階段を駆け上がって行く。マリアも慌てて俺とおっさんの後を追ってきた。

 ぶらぶら吊るされながら連行される俺は、喉に服が食い込むわ息は出来ないわで危うく死ぬところだったぜ。


 ……で、ギルマスの部屋。

 恒例のソファに座らされての尋問タイム。


 けわしい表情のままのベルナールに、ハイゴブリンに遭遇した時のことを語る。主にマリアが。


『薬草を採取していて、レオが“お花を摘みに”林へ行ったら出会ったそうなんです。なんか大きいゴブリンがフラフラ歩いていたそうで、そのまま戦闘になっちゃって……御ふたりに教わったようにわたしとレオで協力して倒しました』


 説明の後半は、帰ってくる途中で俺とマリアで考えた出鱈目でたらめだ。

 マリアにも言ってねえのに、ギルドに言えるわけねえって……。俺が糞レアくそスキル【性欲常態化】を譲渡したからだ、なんて……。


 おっさんは「単体で出たのか?! しかもフラフラだったと?」って驚いていたな。

 そして、魔石を出せと凄んできた。

 その迫力には逆らえねえって……。


「お、おう……。これだ」


 俺はマリアに目配せして頷き合ってから、腰袋に手を突っ込んで【体内収納】から魔石を出す。

 空中にいきなり出すわけにはいかないからな。


 ベルナールの握りこぶし大。ゴツゴツしてるんだけど、そのゴツゴツは角が滑らかになっている。

 色はほとんど透明に近い、ちょっと墨を垂らした感じで、言われれば薄っすら黒いって程度。


「ふむ。これか……」


 俺から魔石を受け取ったおっさんは、それを窓の方に掲げたり白壁にかざしたりしてじっくりと見る。


「ほぼほぼ“から”に近いな?」


 ボソッと零したおっさんは、尚も魔石を観察した。


 魔石は、取り出した時は基本的に黒い。どの魔物の魔石でも黒い。

 その魔石に“込められている”とか”残っている”魔力の量で、黒色の濃さが変わってくるそうだ。

 

 おっさんが言ったように、空になると無色透明に近くなる。


「マリアの言う通り、このハイゴブリンは、相当疲弊していた上に二人との戦闘で死んだか……もしくは……」

「……(ごくっ)……」


 石ひとつで、色々分かるもんなんだなぁ……。

 ぽつぽつと零れてくるおっさんの呟きに、俺は冷や冷やして唾を飲み込む。膝の上で握る手にも汗がにじんでくる。


 全ての魔物には【自然回復】か、その上――【急速回復】とか――のスキルがあって、どんなに傷付いても自然に治っていく。欠損しても生えてくる。

 その時に魔石に貯めた魔力を使うので、たとえば激戦の末に倒された魔物は、回復とかに魔力を使い過ぎて魔石の色は薄くて、一瞬で倒された魔物の魔石の色は濃いままだという。


「レオとマリアに分かるように言うとだな……。あのヤセノとギススの双子は知ってるな?」

「あの“デブ”だよな?」

「……そうだ」


 その時、婆さんがお茶を持って来てくれた。

 おっさんは婆さんにもこの場に残るように言葉を掛けつつ、話を続ける。


「そのヤセノとギススの得物えものは棍棒だ。魔物を棍棒で殴って殺すタイプだ。だから、奴らの持ってくる魔石は程度が若干低かったりする」


 魔石の中に残ってる魔力が少ないから、だそうだ。

 あ、そう言えば……。


「殴るっていえば、ばぁ――フレーニさんもだよな?」

「アタシかい?」


 急に話を振られた婆さんが、自分を指差して返した後、胸を張って答える。


「アタシは一撃で命を刈るタイプの撲殺だからねっ! 魔石は綺麗なもんサ」

「「…………」へ、へぇえ~……」


 怖えー……。こぶし怖えー。

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