10.ギルドマスターへの報告
婆さんに案内されて入った部屋には、帝国のボス――ネイビスよりも凶悪そうな大男。
五〇近いのかな?
もしかして、こいつ等はボスとグルか隠れボスで、俺らを消す気じゃ……。
俺はマリアを背中に隠し、万一の時の逃げ道となるドアを見遣る。
ババアが閉めやがった! 塞がれた!
どうしよう……。
「ヒューズ一帯の裏を仕切るクズども――『アンブラ』がどうしたって?」
大男がマリアの渡した紙切れをヒラヒラ揺らしながら訊いてくる。
奴らをクズって言うあたり、グルでは無さそうか?
「ちょっと! いきなりじゃ、坊や達が怖がるだろ? まずアンタから名乗りな!」
俺らの後、ドアの近くいる婆さんから大男を
「おお、そうか。悪りい悪りい、オレは……」
「――立たせたままかい?!」
「……分かったよ、フレーニ! 坊主、嬢ちゃん、そこに座んな」
「ったく! 気が利かない男だね……」
「「…………」」
大男と婆さんのやり取りを聞く限り、婆さんの方が偉そうだな……。
それにしても、婆さんはフレーニっていうのか。ま、婆さんでいいだろ。
俺とマリアは、大男に勧められたソファに並んで座る。
大男も机から離れて、テーブルを挟んだ向かいにドカッと座った。
ソファが潰れるんじゃないかってくらい
「オリャあベルナール。この冒険者ギルドヒューズ支部のギルドマスターだ」
「ギルドマスター……!」
「おう。で、そこのババアがフレーニ。サブマスターだ」
ドアの前の婆さんが「誰がババアだ」って毒づきながら部屋を出て行った。
ここはマスターの部屋なのか……。
「はあっ?! とっ捕まえてるって??」
ベルナールに、昨日帝国が崩壊したことと、ボスや手下どもをふん縛って捕まえてあることを伝えたら、テーブルを割らんばかりに叩いて身を乗り出してきた。
「お、おう」
「どこに?」
「帝国の小屋だよ」
「どこの?」
ギルドは場所を掴んでないみたいだな。
“帝国”の場所については、マリアがベルナールに伝える。
俺は説明が下手みたいだから助かるぜ。
その間に、婆さんがお茶を入れて持って来てくれた。
湯気が立って、いい匂いが部屋の中に満ちる。
「フレーニ、ちょうどいい所に来た。いま、“下”に冒険者はいるか?」
お茶のカップをテーブルに配ってくれている婆さんに、ベルナールが訊いた。
「まあ、それなりにいるよ」
「C以上は?」
「C以上? うーん……Cランクのパーティーが一組いたね」
「よしっ! そいつらを捕まえといてくれ。俺とそいつらで、『アンブラ』のアジトに行く」
俺らとベルナールの話を聞いていない婆さんは、びっくりしてカップを落としそうになった。
「アジトだって?! でも、アンタとCランクだけで大丈夫なのかい?」
「いや! この坊主たちが引っ捕らえてるらしい。それを確認に行くだけだ」
「はぁ? 捕まえてるってのかい?!」
婆さんは、俺とマリアが組織の悪事を密告に来たんだと思っていたらしく、余計に驚いている。
そんな婆さんに、ベルナールが早くCランクの冒険者を引き止めとけって指示して、婆さんは部屋を飛び出して行った。
やっぱり軽快だな、ババアなのに。
「あっ! 屋敷の方には、奴らに攫われて悪事に加担させられたり、奴隷みたいに扱われていたガキが沢山いるから助けてやってくれ」
「肩に焼き印を捺されていて、そこから逃げられないの! 助けてあげて下さい。お願いします!」
マリアも一緒になって頼んでくれた。
「わ、解かった! 任せろ。……俺は留守にするが、坊主たちには後からもう一回詳しく話を聞かせてもらう。ギルドから出ないで待っててくれ」
ベルナールがそう言い残して、コートのような上着と棚に隠してあった大剣を持って、部屋を出て行った。
部屋は一気に静かになり、まだ湯気を立てているお茶のいい匂いが漂った。
「
「ふふっ。屋敷には茶葉なんて無かったから、昨日も飲んでないもんね? 温かいね」
二人でお茶を飲んでいると、婆さんが来てベルナール達が発ったことを教えてくれた。
ついでにベルナールに話したことと同じ内容を伝える。
「へぇえー! そんなことがあったのかい。大変だったねえ……」
感心しながら聞いてくれたけど、やっぱり俺とマリアはベルナール達が帰ってくるまでギルドから出られないらしい。
「なあ、婆さ……」
婆さんに呼びかけようとしたら、隣のマリアから脇腹をつねられ、耳元で「だめ。フレーニさん!」って囁かれる。
内容はともかく……ドキドキする!
「ねえ、フレーニさん。どうせギルドから出られないんだったら、俺たち……冒険者になりたいんだけど」
「え? 冒険者になりたいって、登録したいのかい?」
「ああ。いいだろ? まだまだ帰ってこないだろ、マスターは?」
帝国までの距離を考えても、まだ着いてもいないくらいだろう。
「登録かぁ……まあ、いいかね。じゃあ、下に行こうか」
婆さんに続いて一階に戻る。
閉めてある窓口を、俺らの為に空けて登録してくれるらしい。
もともと婆さんが担当していた窓口には、おっさん職員が入って冒険者の列を捌いていた。
おっさんには左手の肘から先が無くて、右手一本で冒険者の列を捌いていた。
「アンタら……本当に冒険者になりたいのかい?」
左手の無いおっさんに目を奪われていた俺の耳に、ため息交じりの婆さんの声が届いた。
俺は慌てて婆さんに向き直って、「当然だ」と答える。
婆さんは一旦言葉を区切って、俺とマリアを交互に見比べて……。
「――坊や達は、何歳だい?」
「ん? 俺は十二だ」
「わ、私は十一歳、です」
「そうかい。……アンタらの生まれや育ち、境遇なんて問わないけどさ。冒険者ってのは、他人とまともに付き合えなかったり同じことを繰り返す普通の生活ができない連中ばかりの、社会の底辺の仕事だよ? そりゃあ己の実力次第では、“上”に行けば天井知らずの稼ぎになるけど、そうなれるのは国に一人か二人だよ?」
婆さんは、窓口が開いたと思って俺らの後ろに並ぼうとする冒険者をシッシッと追い払いながら話し、そして、俺とマリアの視線を婆さんの後ろで受付以外の仕事をしている職員たちに誘導する。
男も女も、色々な年代の職員がいる。
でもよく見れば、さっきのおっさんじゃないけど、片足が無くて木の脚を付けてる人や指が無い人もいる。
「アタシらも元は冒険者だ。年を取って辞める以外に、手足を落として辞めざるを得なかった者や、心に傷を負って魔物と対峙出来なくなった者もいる。……でも、そんな連中よりも、うんと大勢の冒険者は死んで終わるんだ。解かってるのかい?」
婆さんは、最後は諭すような、言い包めるような口調で言ってきた。
……んなことは、なんとなく解かっている。
それに、冒険者が“社会の底辺の仕事”ってんなら、俺は……俺とマリアは、昨日まで社会の底、いや“社会の外”にいたんだ。
ランクアップじゃねえか!
金が稼げる、銅貨一枚でも金になるなら、全然問題じゃねえって。
「ああ。解かってる。解かっててなりに来たんだ、冒険者に」
婆さんは、しばらく黙ったまま俺とマリアを見て、またデッカイ溜め息を吐く。
溜め息の多い婆さんだな……。
「そうかい。……仕方ないねぇ、じゃあ坊や、登録しようかね」
俺からか。
「おう! たのm……」
「――でもお嬢ちゃん、アンタは駄目だ」
「はぁっ?!」
「え……?」
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