禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(くそスキル付き?)解放成り上がり譚~
柳生潤兵衛
第1章.物乞いから冒険者へ
1.捨てられ、放置され、追い出され、連れ出される
『いいかい? アンタには【スキル】が無いから、五歳で出ていってもらうよ』
俺は、親に捨てられたそうだ。
生まれたばかりの姿で、薄い布に巻かれて教会の前に置かれていたらしい。
『アンタはこの辺じゃ見ない黒髪に黒い瞳。気味悪いったらありゃしない』
教会には小さな孤児院があって、俺はそこに入れられた。
貧しい国の、男爵が領主の小さい町のこぢんまりした孤児院。
そこにはひとりの婆さんシスターがいて、子どもが数人、死なない程度の世話を受けていた。
生まれたばかりの俺は、当然最年少だったけど、年上でもそんなに大きい奴はいない。
みんな五歳を基準にいなくなっていったから。
いい【スキル】を持っているからと、五歳になるよりも早く寄付金と引き換えに“売られる”奴は、最初から貰える飯が多かったり身綺麗に世話をされる。
俺は、最初に言われたように【スキル】がないみたいで、死なない程度の世話しかされなかった。
死なない程度って飯だけってことで、他はほとんど放置で、服も売れていった奴のをもらえりゃいい方だ。
『来月から、アンタをここに置いていても領主から金が出なくなる。生きたければ一人でなんとかしな』
五歳になるときに、ヨボヨボなシスターから孤児院を追い出された。
『食べ物を恵んで下さい』
この言葉を覚えさせられ、この言葉が書かれた板きれだけ持たされて追い出されたっけ……。
「食べ物を恵んで下さい」
初めて孤児院を出た俺は行く当てがあるはずも無く、人がいっぱいいる場所に座って覚えた言葉をただ繰り返して食べ物がもらえるのを待つ。そして、暗くなったら細い路地で隠れるように寝る。
恵んで下さいって言ったところで、ほとんどの奴は知らんぷりだ。
何日かに一回、食べ物をくれる婆さんがいたりするけど、何日も同じところにいると大人達に「目障りだ」「よそに行け」って怒鳴られたり殴られるから、何日かごとに違う所にいくしかなかった。
そんな俺の世界に、『色』なんて無かった。
見るもの全てがくすんで見え、全てが俺から遠退いて行く感覚の中、俺はただただ『死んでいない』だけ……。
そんな生活が何年経ったか、わからないけど――。
ある日、道端で食べ物を待っていた俺の前に怖そうな大人が立った。
何日も食っていなくてフラフラだった俺が吹き飛びそうなくらいの迫力の男が、伸び放題でボサボサの俺の髪を片手で身体ごと吊り上げて聞いてくる。
『おい、小僧! 俺の言うことを聞くって誓やぁ、今の今から寝床と食いモンだけは面倒見てやる! 来るか?』
頬に切り傷のある色黒スキンヘッドの大男の鋭い眼光に、俺は「はい」と言うのがやっとだった。
そして、馬車の荷台に放り投げられ、俺と同じようなガキ数人と一緒にその町を連れ出され、もっと大きい町に運ばれた。飯は硬いパン一個だけだった……。
町はずれ、魔物のうろつく深い森に囲まれている上に、周りを木の柵で覆われているだけの拓けた土地、ひとつのデカイ家と幾つかの小せえボロ小屋が建つ場所で馬車が止まる。
荒れているけど、農場だった? みたいで、森と柵に囲まれた広い土地だった。
『いいか? テメエらは飯が食えるから自分の意志で俺に着いてきた。そうだな?』
荷台から下ろされる時、男が俺達を見ながら凄んできた。
俺も他の子も頷くのを確認した男は、ただでさえ大きな体を両腕をひろげて更に大きく見せて続けてくる。
『俺の言うことを聞くって誓ったからには、俺に逆らったら殺す。ここは俺の“帝国”で、俺が“皇帝”だ。それを忘れんな』
それだけ言い残して男はデカイ家に消え、出迎えの男どもが俺達の肩にヘビの焼き印を入れる。
そして、ひとりひとり値踏みするように調べ上げ、その結果によってそれぞれ違う小屋に放り込んでいく。
『コイツは男だし、スキルなしだ。“クズ小屋”に突っ込んどけ』
『お前は今日この瞬間から、ボスのための道具だ。余計なことを考えずに黙って言うことを聞いとけ!』
暗い小屋の中、地面に藁が敷かれただけの床に転がされ、入り口を鎖で封じる音が聞こえた。
“クズ小屋”って言われたボロ小屋には、俺みたいなガキが十人くらい押し込まれていて、他の小屋もそんなものらしい。
そうか……あの男はボスっていう名前か……。
俺には名前なんて無い。
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