蝶のたまご
僕が疑問をぶつけると、魔法使いは肩を竦めた。分からないなら適当なこと言わないで欲しい。
「長い間失われたままだったって聞いていたが……お前の元に現れたってことは何か意味があるんだろ」
確かにあの精霊は「見る者の望む姿になる」とは言ったけど、それが僕となんの関係が?
水は生き物にとって不可欠なものであるのと同時に、それ自体が命を持つ生命体のようなものだ。泉や沼地にもそれぞれの精霊の特色がある。
あの精霊は……かなりせっかちだったし、あれが月の女神の化身だなんて言われてもピンとこない。
「月は気まぐれに満ち欠けするからな。女神の意図なんて俺たちにゃ分からない。ま、持ってりゃ悪いようにはならないさ」
魔法使いは何かを確信している口調で言い、僕の頭をポンポンと叩いた。子ども扱いするな。
「2人でなんの話をしてるの?」
「別に~。今日の昼飯の話さ」
お師匠さまの不思議そうな声に、魔法使いはへらへら笑って離れて行った。今まで何度やつの法螺話で揶揄われたことか。まったくもって信用ならない。
もしかしたらローズなら詳細を知ってるかな?お城の図書室になら史記が置いてあるかもしれない。魔法使いの不確かな情報に踊らされるより、本家に聞いた方がいいだろう。
僕は考えた末に手の中で魔法の青い蝶を作り出し、伝言を託して空に放った。これは連絡用に昔も使った手段だ。
答えが分かるのは数日後になるだろうだけど、そんなに急ぐことでもないからこれでいい。急ぎならアデーレに頼めば済む。
少しひんやりした朝の空気の中を、ふわりふわりと蝶が飛んで行くのを見守る。
城の魔法除けに引っかかるのは邪悪なものだけだから、あの蝶を見ればローズも僕からの便りだと気付いてくれるはず。
状況によってはヌンドガウに引き取ってもらうもよし、お師匠さまが調べたがってるなら一緒に調べるのもよし。
さて、どうなることやら。とりあえずはお祭りの続きと、ゲームの勝敗の行方を見届けなくては。
昨日ディルはかなり落ち込んでたし、あれから姿を見てないけど大丈夫かなあ。
僕はちょっとだけ笑ってしまった自分を戒めつつ、手に持った丸い銀の珠をポケットの奥に忍ばせた。
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