第34話
と、車内の連結部分のドアが開閉の音を発した。
モートが音のした方へ首を向ける。
ドアから乗客である男が一人だけ現れた。こちらに普通に歩いてくるのだ。ドアの向こう側にも乗客がたくさんいるのだが、皆うずくまって微動だにしていなかった。
不審に思ったモートは注意深くその男を観察する。
連結部分(つなぎ目)からは遥か後方にオーゼムの何色にも見えない魂が垣間見える。そこには、大切なアリスがいるのだ。
車窓から外は、種々雑多な建造物を真っ赤に彩る取り分けて激しい血の雨が降り続けていた。
車窓から見える景色はどこも真っ赤だ。
男はごく普通のサラリーマンだった。メガネを掛けてこちらにネクタイを緩めながら丁寧なお辞儀をしてきた。だが、微かにその男からは腐敗臭がした。
魂の色はこの上なく黒。
モートは即座に右手を真横にヒュッと振った。
一瞬で男の首が真上に吹っ飛んだ。血飛沫が電車の天井に向かって彩りを与えた。男が崩れ落ちると、男の首は足元へと落ち音もなく転がっていった。
しかし、倒れたはずの男は首なしの状態でも、ゆっくりと起き上がりだした。そして、即座に片手を挙げる。
途端に走行中の電車の屋根が無数の小さな跳ねる音でうるさくなった。
鳥の足音だろうと、モートは直観的に思った。
モートは天井へと飛び込んだ。
電車の天井を通り抜けて、血の雨で真っ赤になった電車の屋根に着地すると、焦ってアリスたちの元へと全速力で走った。
鳥の正体は所々、肉体が欠損したカラスの群れだった。
血の雨は激しさを増し天変地異を思わすかのような豪雨となった。
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