第39話 彷徨う龍
「クソ……どうすれば……どうすれば奴を倒せる?」
カーリナは街中を彷徨っていた。
もう彼女には後が無い、自分たちの仲間を殺害する冒険者を消さなければ、戻ることは許されないのだ。
「あいつに……あいつに勝ちたい……」
彼女の頭の中には、アニマの姿しかなかった。
彼女の目的は、自分たちの仲間を増やすこと……そうであったはずなのに、その目的を完全に見失っていた。
「パパ! 待ってよー!」
「あはは、ごめんごめん」
「ねぇねぇ、今日はどこ行く?」
「君と一緒ならどこでもいいよ」
街中は、和気藹々としていた。
家族同士、恋人同士、友人同士で、話をしたり、食事をしたり、笑い合っていた。
そんな中、カーリナは人々を搔い潜っていた。
「あの女……どこだ……必ず……殺す……殺す……」
カーリナの視界は完全に歪んでいた。
端から見た彼女は、酒の飲みすぎで千鳥足になっているようであった。
……そんな中、彼女の服のポケットから、何やら持ち物が落ちた。
人ごみの中、それに気づいた少女が、それを拾い上げ、カーリナに近づいた。
「お姉さん! お姉さん!」
「……」
少女はカーリナの服を引っ張り、落とし物を告げる。
カーリナは少女を……虚ろ気な目で見つめていた。
「お姉さん! これ、落ちたよ!」
「……」
カーリナの目線では……少女が複数人いるように見えていた。
目が泳ぎ、首がメトロノームのように動いていた。
大人であれば、その時点で何かを察し、どこかへ立ち去るだろう……しかし、少女は何のためらいもなく、カーリナに話しかけた。
カーリナは、焦点の合わない中、落とし物を受け取った。
「よかったね! お姉さん!」
「……よかった?」
カーリナは、少女の言葉に違和感を覚えた。
「よかった……本当にそう思うか?」
「うん! だって、お姉さん、嫌な思いをしなくて済んだでしょ?」
「嫌な思い……だと?」
「……うん!」
少女の笑顔は、表裏のないものだった。
しかし、カーリナの目には……そういう風には見えなかった。
「よかった……だと? 何も良くない、何故ならば負けたからだ。嫌な思い……? 私は常に嫌な思いをしている、それはなぜか? 理由を教えてやる、私は不愉快なのだ、あんな奴のせいで私は信用を失った、期待されなくなった、成功するまで私は帰ることができない、お前は帰る場所があるだろう? 私にはないのだよ、あいつを殺すまではね、そうだ、殺さなきゃいけないんだ、あいつを八つ裂きにして、ぐちゃぐちゃにして、原型を留めなくなるまで消してやりたいんだ、そうだ、お前にも協力してもらおうかな? なに、簡単な話さ、まず最初に……」
「……お姉さん?」
カーリナは、奇怪な呪詛を少女に聞かせた。
先程まで躊躇なく話しかけていた少女も、この時ばかりは恐怖を覚え始めた。
「じゃ、じゃあね、お姉さん……」
少女がその場を去ろうとした……その時。
「ぐはぁ!?」
少女の腹に、熱を帯びた爬虫類型の手が貫通した。
少女はそのまま……力が抜け、倒れた。
「きゃああああああああああ!!」
「なんだあいつ!?」
「逃げろ!!」
和気藹々としていた街中は、悲鳴に包まれた。
「……全てを……殺す」
カーリナは、ドラゴンロードに変身し、人々を襲い始めた。
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