第9話 タラのシチュー
「はーいお待たせ! タラのシチューだよ!」
食堂の女将さんが持ってきたもの……それは白いとろみのある暖かそうなスープの中に、色とりどりの野菜と、スープと同じ配色の魚の切り身が入っていた。
タラか……あまり食べたことはないな。
付け合わせでパンが数個ほど運ばれ、見てるだけでもお腹いっぱいになりそうだった。
「さぁ、食べましょう!」
「うん!」
なんだかわからないけど美味しそうではあった。
早速スプーンを手に取り、スープを掬う。
見た目から味は想像できないが……不味いものではないだろう、実際ロープが行きつけの食堂だし。
早速私は口の中に運んだ。
……これは。
「……暖かい、そして……塩が良い感じ! すごく美味しいよ! ロープ!」
「ほんとですか!? 気に入っていただいて嬉しいです!」
これは……止まらない! 私はスプーンで具材を救っては口の中に運び、また掬い、口の中に運び……。
「アニマさん、そこまで美味しいですか?」
「うん! とても美味しいよ!」
なんだろう……こんなに美味しいものを食べたのは初めてだ!
前のパーティの時に食べていたものがどれだけ美味しくないかが分かる。
タラの切り身を口の中に入れると、その瞬間から身が綻び、中の脂が口の中で浸透していく。
野菜もスープの味が染みていて、風味がスープに浸透している……もう最高だ!
「アニマさん、このパンをスープに染み込ませると、なお美味しいですよ!」
「ほんと!? やってみる!」
私はロープの言う通り、パンを千切り、スープに染み込ませ……口の中に放り込んだ。
……これは。
「……確かに、すごく美味しい!」
「そうでしょう? 美味しいでしょう?」
「うん! とっても美味しい!」
タラと野菜とスープの塩味……それら全てがパンに集まり、絶妙な風味を醸し出している……。
もう、これを超える食事はないかもしれない……。
「あ、アニマさん! 口に何かついてますよ!」
「……え?」
ロープが私を指さして、指摘をする。
何かが……って多分スープかな? 無心に食べていたので、無意識についてしまったようだ。
「私が取ってあげます!」
「いや、いいよ! 自分で取れるから……って」
有無を言わさず、ロープは自分の指で私の頬を擦り……付着していたものを舌で舐めとった。
「……やっぱり美味しいですね!」
ロープはテイスティングした後……笑顔で感想を述べた。
なんだろう……すごく恥ずかしい。
ロープは何とも思っていないようだけど……。
私は恥ずかしさをごまかしつつ、食べ進めた。
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