俺は死んでも魔王を止められない

イルスバアン

本編

第1話 魔王は死んで理解する



「魔王、お前を倒す!!」



「!?」



 へ?

 いやいや何の話ですか?


 目の前には青年。

 模様の入った鎧。はためくバンダナ。

 手に持つ白銀の剣を構えて、彼は俺を睨む。


「貴様によって奪われた多くの魂、今ここで弔わせてもらうッ!」


 言うが早いか、刃を突き出し飛びかかって来た。


 ーー当然、俺は刺される。


「グホッ」


 え?


 ナンダコレ?


 イタイヨ?


 腹カラ血ガアフレダシテシミテツタッテコボレテタレテヌレテヒロガッテテテテ………








 キモチワルイナァ













□□□




「魔王、お前を倒す!!」




「!?」


 へ?

 いやいや何の………って


「あれ?」


 目の前には鎧を着た青年。

 何処かで見た気が。


「貴様によって奪われた多くの魂、今ここで弔わせてもらうッ!」


 こちらに剣の先端を向け、飛び出して来た。


 当然、俺は


「うわああああああっ!!」


 身体を捻って躱した。

 冷汗が穴という孔から溢れかえる。

 そして


 

 ズルッ



「……アレ?」


 身体が崩れ落ちる。


 横を見ると赤く染まった銀線と


 大きな染みのついたズボンが見えた。


 前のめりになって倒れる。


 刃を返して………斬られた?


 そう思ったとき


 ジワ……ジワジワ


 ジワリ


 変な感触がヘソから伝わった。

 何だろう、と思ったがすぐに理解できた。

 これが「イタミ」だ。

 どうすることもできず、このまま受け入れる。


 ジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワ………












 キモチワルイ











□□□


「魔王、お前を倒す!!」


「ハァ、どうぞ」


「!?」


 青年は驚く。


 何だ、今迄意識して見ていなかったが、イケメンじゃないか。

 幼さが残る顔立ちだ。きっと16~19歳ぐらいだろう。

 バレンタインにチョコ100個は貰ってそうだ。


 けど銀髪はいただけないな。

 不良みたいに染めてるのか、はたまた地毛なのか。

 アニメのキャラみたいに似合っているが、普段からその恰好は痛々しいと言われそうだ。


「貴様ぁ、何だその態度は!! お前のした数々の所業、忘れたとは…………!…………!」


 長々と説明しているが、聞き流そう。

 まずは俺の状況を考察しようか。

 唯のしがない高校生である俺は、昨夜に部活で疲れてすぐ寝てしまった。

 因みに水泳部である。まあ、そんなことはともかく。


 この格好は何なのだろう。

 紫がかった黒のローブに、中世の王族のように派手な服。

 襟は立っており、手脚には金色のゴツい防具を履いている。

 もちろん、俺にコスプレの趣味はなく、このような悪役っぽい格好に憧れたこともない。


 周りを見渡すとこの部屋は本当にラスボス部屋みたいだ。

 白く輝く天井と反射する石床。

 彫刻作品のような柱はパルテノン神殿を思い出す。

 部屋を二等分する真紅の絨毯はペルシャ製だろうか。

 その敷物の中心に俺、数メートル離れて彼。

 彼の背後をよく見ると後ろには三人の人間がいた。

 今迄はすぐ意識がなくなっちゃうから気づかなかった。

 全員、青年と同世代に見えるな。


 最初に目に入ったのは、金髪ツインテールの少女。

 吊り目を光らせながら、俺に向けて白い弓を引いている。


 その斜め前にはブロンズ短髪のメガネ男。

 一見すると優男に見えるが、厳つい槍が強者の品格を漂わせている。


 一番奥には虹色の髪を肩まで下げた少女。

 紅水晶がはめ込まれた杖を握って、こちらを睨んでいる。

 杖自体に危険が無さそうだが、実は魔法を使えたりするのだろうか。


 よし、ニックネームは髪から

「銀髪クン」「金髪ちゃん」「メガネ」「虹色ちゃん」としよう。

 ……一人は髪関係ないな。


「俺の話を無視するなッ!!」


 怒鳴られた。


「ふざけるな……この極悪人が! 今すぐ消えろおおおおおおおおおッ!!」


 突進して来た。

 しかしその動きは知っていたので、俺は思いっきり右に退いて躱す。


(避けきれたッ!!)

 

 今度はアイツの攻撃範囲から出た筈だ。

 このまま逃げきって……





 ヒュンッ


 ザクッ




 ……頭が揺れる。


 横を見るとツンちゃんの弓の弦が震えていた。

 ならば放たれた矢は……


 頭から生暖かい液体が噴き出す。


 ……俺の脳みそ直撃だろうな。



(死んだな…)



 頭の振動が小さくなっていくと共に、俺の意識も段々となくなっていった。

 脳内に矢が入ったせいなのか。





 キモチワルカッタ







□□□


「魔王、お前を倒す!!」



 ………これは、やはり。

 やはりそうなのか?


 ……今度こそ、俺は理解する。

 この訳も分からない状況で、唯一つ理解する。



 俺は、「死に戻り」をしている。



 そんな現実に、思わず呟いた。



「また、同じ光景かよ……」



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