許嫁はおキツネさま
天風 繋
序章 僕にしか懐かないおキツネさま
第1話 終業式に振る天気雨
その日は、朝から不思議な天気だった。
晴れているのに雨が降っている。
それが、1日中。
俗にいう『天気雨』『狐の嫁入り』というやつだ。
その日、僕は自分の教室である2年A組の自分の席・・・窓側一番後ろで頬杖を突きながら外を眺めていた。
終業式が終わった後、LHR中代わり映えしない教師の話にうんざりしていた。
まあ、明日からは春休みだ。
「はぁ」と溜息をつく。
長期休暇だというのに、僕の気分は上がらない。
なぜなら・・・僕は、終業式中に来ていたメッセージアプリに目を向ける。
『明日から春休みだろう。一度帰ってこい』とメッセージが入っている。
送り主は、親父だ。
僕は、いま実家を離れ暮らしをしている。
厳格な親父から離れたくて一人暮らしをしている節がある。
実家は、この街でも有名な神社だ。
「神藏大社」境内外合わせても38万平方メートルを優に越す大きな敷地がある割と由緒ある神社である。
よくいう『東京ドーム1個分』っていうのが約4万7千平方メートルだからおおよそ9個分くらいか・・・「はぁ」でかっ。
それで、親父はそこの宮司(神社を統括する唯一の代表者)を務めている。
「はぁ」ともう何度目かわからない溜息をついた。
ちょんちょんと僕の右肩に細身の指が当たる感触がした。
僕は、視線を窓の外から室内へと戻す。
「・・・大丈夫?」
「ドキッ」と胸が高鳴った。
そこには、うちのクラス・・・いや、この学園でも指折りの美少女・・・秋の小麦を思わせるような黄金色の腰先まであるんじゃないかという長い流し髪、寝ぐせなんじゃねってかんじにはねた髪、目は切りっと切れ長でエメラルドのような澄んだ緑の瞳、細くキリっとしているのにいつも困ったような垂れた眉毛、高校2年・・・いや、もうすぐ3年だというのに140cmととても同級生に見えないチビkk・・・げふんげふん。
彼女は、神楽宮 美咲(かぐらのみや みさき)
僕の幼馴染み。
そう、僕・・・神藏 幸多(かみくら こうた)の数少ない幼少期からの幼馴染みである。
「ああ、美咲。だ、だいじょうぶ・・・だよ」
美咲の目が、呆れ眼になる。
じと~と擬音が聞こえるような気さえする。
「はぁ、美咲には隠し事できないな」
「それはそう、何年付き合いだと思ってるの?」
美咲は、神藏家の巫女の家系だ。
僕が、神藏家の宮司の家系。
だから、自ずと幼馴染みになった。
まあ、血縁関係とかはない。
いや、遠い祖先とかならいるかもしれないけど。
それに、神藏家の巫女の家系はほかにもいる。
だが、同世代は美咲ただひとりである。
あとは、一回り上とか下とかにはいるけど。
うん、やっぱり同世代は美咲だけ。
「それで?」
美咲が、首を傾げる。
可愛い・・・あ、だめだだめだ。
ここ最近、どうも美咲のことを意識してしまう。
仕草が、可愛くて仕方ない。
単調なしゃべり方で、普段から怒っているように周りからは思われがちだけど、僕には美咲の感情の起伏はわかるし、なにより心根が優しいことも知ってる。
いまだって、隣のクラスからこうやって・・・・ん?
僕はあたりを見回す。
教室には、僕たち二人しかいなかった。
「あれ?LHRは?」
「終わってる・・・幸ちゃん、迎えに来ないから来たら溜息ついて外眺めてた」
「ごめんごめん、今日の天気が変わってて見てたら気づかなくて」
「それより、お腹すいた」
美咲が、両手でお腹を押さえている。
僕は、机に掛けてある鞄を左手で持って席を立つ。
美咲の頭を、空いてる右手で撫でる。
「ごめん、かえろっか」
「うん、帰る。ごはん」
「おう、なんか食べて帰るか」
「ハンバーガー・・・幸ちゃんのおごり」
「ん?まあ、いいけど」
美咲の寝ぐせのような2つのハネ毛がピョコピョコしている。
よっぽどうれしいようだ。
僕は、美咲の左肩に掛けられた鞄を持ち彼女の手を取って歩き出す。
これが、僕と美咲の日常。
幼い頃からどこにいくにも手を繋いできた。
高校になってからもそれは変わらない。
んだけど、なぜかすっごいドキドキする。
胸が早鐘を鳴らす。
どうしてなんだろう。
ここ最近の僕はおかしい。
理由はわかっている。
親父からのメッセージに続きがあった。
『美咲と一緒に来い。許嫁の件で話がある』と書かれていた。
「美咲」=「許嫁」の図式が頭に浮かぶ。
じゃないと「美咲と一緒」の意味が分からない。
「はぁ」とほんと何度目かわからない溜息を洩らした。
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