現代にダンジョンが現れたので、異世界人とパーティ組んでみた

立風館幻夢

第1章 世界の研究者、猪飼瑠璃

第1話 世界の研究者

「猪飼くん! この論文本気で発表するつもりなのかい?」

「はい、そうですけど……」

「またこの研究室が笑いものにされるじゃないか!」


 大学院の研究室……私こと「猪飼 瑠璃いかい るり」は教授に叱られていた。


「ですが……今回の論文には自信があります!」

「自信も何も……また『異世界が存在する』だの、『私たちの世界がどうのこうの』でしょ!?」

「……おかしいですか?」

「おかしいに決まっているだろう! そりゃね、何万光年離れている恒星の周りに地球のような星があって、そこに生命体がいるかもしれないのは分かるんだがね……世界そのものが存在しているなんて、非現実的じゃないか!」

「はぁ……そうですか……」


 非現実的……か。

 そうかなぁ?


「まぁいい、連日徹夜で疲れているんだろう? 今日は帰って寝ていなさい」

「はい……ありがとうございます」

「あと! 論文も書き直してくること! わかったかい!?」

「はい……」


 ……私は書き上げた論文こと紙屑を抱えて、自分の研究室へと入った。



「……ただいま、叔母さん」

「あら、おかえり、瑠璃ちゃん」


 荷物を抱え、私は下宿先である叔母さんの家へと帰ってきた。

 ちなみにここはただの家ではない。

 ここは何かというと……。


「あ、るり姉ちゃん!」

「るり姉さん! 大学院から戻ってきたの!?」

「るり姉! おかえり!」


 ……多くの子ども達が、私の帰りを出迎える。


「ただいま、みんな……今日は学校休み?」

「当たり前じゃん! 今日はシルバーウィークだよ?」

「あ、そうだった……」

「もぉー、るり姉ちゃんったら、研究で頭飛んじゃった? 『さっき買ったお菓子』あげる!」

「あ、ありがとう……」


 子どもの1人が、『さっきここで買ったお菓子』を私に差し出す……。

 そう、ここは子どもの憩いの場……駄菓子屋だ。

 私は親から離れ、叔母さんが経営している昔ながらの駄菓子屋に、下宿をしている。

 研究で疲れてここに戻ってくると、子ども達の笑顔も相まって心が安らぐんだ。


「ねぇねぇ、るり姉、また異世界のお話聞かせて?」

「わたしも聞きたい! この間の『アイスクリームの世界』の話の続き、聞きたいな!」

「ぼ、ぼくは『テレビの世界』の話をもう一度聞きたい!」


 ……異世界のお話、ここに来た子どもたちの為に披露した私の作り話だ。

 一応、ここに来ている子どもたちには、『私は大学院で異世界の研究をしていて、時折そこに旅に出ている』と話している。


「ごめんねー、ちょっと今日疲れてるから、また今度ね」

「えぇー……」

「聞きたかったなぁ……」

「ざんねんだなぁ……」


 子どもの表情が暗くなる……やめてくれ、今その表情は疲れている私に響く……。

 ここは……こう言うか。


「……我が儘言わないの、また今度絶対するから」

「……本当?」


 ……よし、効果あるな。


「うん、本当! 約束する!」

「やったぁ!」

「楽しみ!」

「今度、絶対だよ!!」


 ……私は子どもたちと指切りをして、次のお話の約束を照り付けた。

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