17

グレンside


「『蛍涙病』という言葉に聞き覚えは?」


 俺が発した単語を聞いて緑は首を傾げ、珈夜は記憶を辿り出した。


「ほたるいびょー?」

「……ああ、そういえば一ヶ月程前でしたか、生徒達の世間話の中にそんな単語があった気が……」


 そうか、知っていても名前程度。なら全てきちんと伝えなければならない、か。俺は一つ深呼吸し、それの詳細を言葉にする。


「最近やっと表に出てくるようになった病気……症状だ。それは『涙が蛍のような光の粒に変化する』症状であり、その原因は『過度なストレス』であると最近分かった。」


 この症状のメカニズムとしては、限界値を超えて溢れかえったストレスが適切に発散されずに溜まり、それの行き場が涙へと向かうしかなく、凝縮されたストレスが光として発散される、と言ったところだ。


「っ……!」

「もしかしてそれって……」


 二人とも察しがついたらしい。表情が一変した。珈夜に至ってはサァッと顔が青ざめたようだった。


「そう。停電の日、生徒会長サマが涙を流して明かりを灯しただろう? それがまさに蛍涙病の症状と合致する。」

「……それでは、シスイ様は……過度なストレスを……」


「ああ。で、あの日から俺は生徒会長サマのことを注意深く観察していたんだが、どうやら生徒会長サマは己のストレスを自覚していないらしい。」

「へ?」

「……」

「いや、ストレスを感じる器官がぶっ壊れている、という方が適切か。」

「……」


 二人とも絶句している。ウンウン分かる。そうなる気持ちは良く分かる。


 ストレスを感じる部分が壊れているだなんてどうなればそうなるのかと問いただしたくもなるよな。


「生徒会長サマはストレスが限界値を超えても自覚出来ていないから、自然と無理をしてしまう。そしてその無理すら自分で気付けない。また無理をする。負のループの完成。」

「……」


 ちなみに追加しておくが、その光は通常涙として零れ落ちてから数分で消える儚いものであるはずだ。しかし生徒会長サマは一週間は消えないと言っていた。


 どれくらいのストレスが溜まっているか、ハッキリ言って想像すら出来ない。


 まあ、俺は専門家ではないから断定は出来ないが、普通の人間ならストレス過多で死んでいる程なのではなかろうかと推測する。


「で、だ。二人とも。」

「……」


「さすがにこの状態を続けてはいけないことは分かるな? 見過ごして取り返しのつかないことにはしたくない。」


 さすがに放っておいて何かあったら寝覚めが悪いからな。断じて心配だからとかではない。ああ、絶対に。

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