29. 戻り始めたもの
あの後、私達はお付き合いを始めることをお互いの両親に報告した。
私の両親もアルト様のご両親も、好意的に受け止めてくれた。
けれども、正式な婚約は一年後に結ぶことになった。
私が浮気をされた側とはいえ、今すぐに婚約を発表してしまえば社交界から勘繰りを受けてしまうことを避けるために。
そんな事情だから、公の場ではある程度距離を置くことになった。
寂しいけれど、私達の将来のためだから仕方ないわよね……。
でも、学院内では今までと変わらない。
学院内での噂は社交界で信用されていないから。
「ところで、ソフィアは俺のどこが良いと思ってくれたんだ?」
「ずっと私のことを大切にしてくれると感じたからですわ。それに、私の努力にも気付いてくださりました」
「お互いに内面を気に入ったということか」
穏やかな雰囲気の中、そんな言葉を交わす私達。
今の私は、すごく幸せな気分だった。
☆
翌朝、私はアルト様の馬車で一緒に学院に向かっていた。
「セレスティアの件だが、1週間後に断罪することに決まったそうだ」
「バルケーヌ公爵家のことは抑えられますの?」
「ああ。パールレス家のケヴィン殿が不正やら犯罪やらの証拠を馬車1台分も持ってきたそうでな、陛下が爵位剥奪を決められた」
どうしてここでケヴィンが出てくるのかしら?
少し疑問に思ったけれど、セレスティア様が断罪されれば平穏が戻ってくるから、今まで張り詰めていた何かが緩むような気がした。
「聞くまでもありませんけど、セレスティア様に与えられる罰はどのようになりますの?」
「国家反逆罪だから処刑が妥当だろうな。だが、彼女の力は利用価値があるから、隷属の契りを結ばせて利用することも考えているようだ。
レオンが言っていたのは、ダンガラス鉱山の男達を大人しくさせるために利用するとか」
ダンガラス鉱山。
罪人が集められて奴隷のように働かされている有名な場所だけれど、その実態は無法地帯。殺し合いなんて日常茶飯事だけれど監視役は罪人を働かせる以外に何もしていない。
衛生状態はひどいもので、常に悪臭が漂っているらしい。
そんな荒れている場所に送られるとなると、処刑されるよりも辛いかもしれない。
もし私が選択を迫られたら、処刑を選ぶ。
それくらい酷い場所なのよね。
「確かに、利用価値はありますものね。妥当な判断だと思いますわ」
「そうだな。隷属の契りを結んでいれば、反逆されることもないし、王国の利益にもなりうる」
少し話が重くなってしまったけれど、ようやく嫌がらせから解放されると思うと身体が軽くなるような気がした。
けれども、現実はそう上手くいかなかった。
確かにセレスティア様がいなくなって、私達は平穏に過ごすことが出来ていた。
けれども、セレスティア様の取り巻きになっていた人達が嫌がらせを受けるようになっていた。
私達以外にも嫌われるようなことをしていたから、自業自得だとは思うけれど……。
「勝手に俺達を悪者にしないでくれないか。自業自得だろ」
「ソフィア嬢が嫌がらせするように仕向けたんだ!」
「証拠はあるのか?」
元セレスティア様の取り巻きに難癖をつけられる私達。
怒りのこもった視線は私に向けられているけれど、アルト様が立ち塞がって制してくれている。
「俺の友人は嫌がらせなどという低俗な行為を嫌う人だと思っている。
君は俺の目が曇っていると言いたいのか?」
そんな質問を投げかけるアルト様。
彼を馬鹿にするか、自らの過ちを認めるかの究極の選択ね……。
「そ、それは……」
「答えられないなら、勘違いだったということだな。
一つ忠告しておくと、証拠もなしに他人を悪人にするのは恨まれるからやめた方が良い」
「はい……」
言いがかりをつけてきた人は、それ以上は何も言わずに私達から離れていった。
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