第26話 マラソン大会
*のみやくんの話
たっちゃんと遊ぶ時にたまに一緒に遊んでいた子がいて、それが違うクラスののみやくんだった。のみやくんは1、2年生でたっちゃんと同じクラスで、色が白くて鼻が高く、西洋風のカッコイイ顔立ちをしていた。
のみやくんと一緒に遊ぶ時には、だいたいレゴブロックをやっていたのだが、ぼくは内心これがあまり好きではなかった。3人で思い思いの作品を作って見せ合うのだが、のみやくんは凄く褒めるのが上手く、たっちゃんはそのたびに
「ふふ~ん。そうでしょう」
と言って喜んでいた。のみやくんはそんなつもりはなかったのだろうが、ぼくはなんだか“たっちゃんを取られてしまって、もう遊べなくなってしまうんじゃないか”というような不安にかられることがあった。
ある時、たっちゃんが熱を出して休んでしまったことがあり、休み時間にのみやくんが遊ぶ約束をしに、ぼくらのクラスにやって来たことがあった。
「あっ、おかもとくん。今日、遊ぼうかと思うんだけど、たっちゃんいる?」
「たっちゃんなら今日は休みだよ。風邪ひいちゃったんだって」
そう言うとのみやくんは少し残念そうな顔をした後、
「そうなんだ。ねえ今日遊ばない?」
「今日?」
友達の友達というのはなんだかちょっと気まずいものがあり、何回か会ってはいるものの、人見知りしにくいぼくでも、彼には少し抵抗があった。だが、こうやってせっかく誘ってくれているということもあり、
「いいよ。じゃあ放課後一緒に帰ろうよ」
「OK。それじゃ、授業が終わったらまた来るよ」
それから授業を終え、約束通りのみやくんが迎えに来てくれた。ぼくらは互いの家を知らなかったので、一緒に帰って学校に近いのみやくんの家で荷物を置いて、ぼくの家で遊ぶことにした。そして、ぼくの家に着いて中に入ろうとしていると、のみやくんが何かを見つめている。
「おかもとくん家も『かずさ牛乳』取ってるんだね」
「うん、そうだよ。もしかして、のみやくん家も?」
「そうだよ!これ凄い新鮮で美味しいよね」
「そうそう!それになんだか他の牛乳より濃くて、甘いんだよね」
千葉には上総と下総という地名があって、ぼくの住んでいた地域は、北側にある上総の方だった。そこでは地名にちなんで『かずさ牛乳』というものが売られていて、ぼくの家はこれを取っており、家の前に設置されている箱に、毎週2本のビン牛乳が置かれているのであった。
ビンを返却する時にはその箱に戻しておくと牛乳屋さんが新しい物を入れる時に回収してくれていた。そして、この『かずさ牛乳』の話をきっかけに、なぜだかすごく打ち解けることができ、急激に仲良くなることができた。
多分向こうにも少なからず同じような苦手意識があったのだろう、それがなくなってからというもの、たっちゃん家で3人で遊ぶ時にも、前のように嫌な気持ちで遊ばずに済むようになった。あまり知らない人と接する時には『共通点を見つけると良い』と言われるが、この体験は正にそういったものであった。
*マラソン大会の話
大葉小学校では毎年冬に『マラソン大会』が開催されていて、ぼくは毎年それを楽しみにしていた。1周約300mある学校の周りを10周するというルールで、男女別に走るのだが、60人ほどいる男子生徒の中で何位になるかというのが関心事であった。
ぼくは長距離よりも短距離の方が得意だったため、1年生の時には苦戦し、結果14位で終わってしまった。14位だったことに凄く悔しさを覚えたぼくは、次の2年生のマラソン大会に向けて対策を練ることにした。
そこで両親に相談してみると、マラソンのトップ選手は、鼻から吸って口から吐くという呼吸法で体力を温存しながら走っているという。これはいいことを聞いたと思ったぼくは、二人にお礼を言ってさっそく2年生のマラソン大会の練習の時に実践してみることにした。だが、この呼吸法は思いのほか苦しいもので、10回前後それで練習して本番を迎えたのだが、残念なことに16位まで順位が下がってしまった。
これに気を悪くしたぼくは、家に帰ってから両親に文句を言ったのだが、そんなことで順位が良くなるとはずもないので、早々に切り替えて、3年生のマラソン大会では、どうやって今より上の順位を目指すかということを考えた。そして1年後の冬、ぼくがたどり着いた結論は、『自分の信じたやり方で走る』ということだった。
結局頑張って走るのは自分であり、呼吸法など、小手先のことでどうこうしようというのが浅ましかったのだとも思った。当時ぼくはミニバスにプールに習字にといろいろ習い事をやっていてそれなりに忙しかったのだが、それがない日の放課後に友達とちょっとだけグラウンドを走って帰ったりしていた。
そして迎えたマラソン大会当日、ぼくは自分が信じた口だけで呼吸するというやり方で、見事12位まで順位を上げることができた。このことからぼくが学び取ったこととしては、正しいやり方というのは、人によって違っていて、結局は自分に合ったやり方というのを『自分で』探し出すしかないということだ。習う時、教える時には、人にはそれぞれ『タイプ』というものがあり、最適なやり方はその成果を見ながら考えるということが大切だ。
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