第16話 はないちもんめ
*はないちもんめの話
2年生の時に、休み時間に『はないちもんめ』をやるのが流行ったことがある。もんめとは、重さの単位のことで、花が一匁あるという意味の言葉である。
これはわりと女の子がやるイメージがある遊びだが、大葉小ではそういうのは全然気にせず、男子も混ざって遊んでいた。まず横一列になって手を繋ぎ、歌っている方が前に進んで歌詞の最後で足を空中に蹴り上げ、その後、交互に歌って進めていく。
「勝~って嬉しい、はないちもんめ」
「負け~て悔しい、はないちもんめ」
「あの子がほしい」
「あの子じゃ分からん」
「相談しよう」
「そうしよう」
と言って、相手チームの中でほしい人を決め、代表者がジャンケンして、勝った方がその子をチームに入れることができるというルールの下に行われていた。その中でジャンケンすると、よくぼくを選んで来る子がいて、その子がリサだった。
リサはお父さんがアメリカ人でお母さんが日本人のハーフの女の子で、家が近かったこともあってよく話していた。かなり話しやすい感じの子で、ぼくは女の子の中で、なぜだかこの子だけ呼び捨てで呼んでいた。向こうもたぶんぼくのことを好意的に捉えてくれていたと思う。友達の家に行く時にリサの家の前を通ると
「けんたろう~」
と言ってよく手を振ってくれていた。日本人はあまりこういうことをしないのだが、お父さんの影響なのかアメリカンな雰囲気のある子だった。特になにかあったわけではないのだが、なんだかリサは異性だけど安心して話せる感じのする明るくて元気な子だった。
*習い事(習字)の話
ぼくはとにかくじっとしているのが嫌いで、座って字を書くというのが大嫌いだった。日本ではこういった習字教室をおばあさんがやっていることが多いのだが、ここもご多分に漏れずそうであった。
『習字教室』は家から3本隣に行った通りにあって、そこでは同じクラスのさくらちゃんとゆうまくんも通っていた。さくらちゃんは長い髪をいつもくくっていて、痩せていてかわいい子だった。ゆうまくんはだいぶ太っていて、運動ができなくて鈍い子だった。良くないことだが、ぼくはそんなゆうまくんを内心少しバカにしていた。
当時流行っていたるろうに剣心の主人公のまねをして、頬に十字を書いたり、知らない子と喧嘩になったりもしていた。
けど、そんなぼくが『習字教室』に通い続けられたのには理由があって、それは綺麗な字が書けて先生にOKがもらえると、帰りに一つ好きなお菓子がもらえたからだ。『ハッピーターン』や『ルマンド』当時でたばかりの『アルフォート』など、いいお菓子がそろっていて、このお菓子ほしさに週一の習字に通っていたのであった。やはり、人間は食い気には弱く、何か目標やご褒美があった方が頑張れるということだと思う。
やる気を表す『モチベーション』という言葉を聞いたことがある人は多いと思うが、目の前にニンジンをつるされた方が馬は速く走れるというものだろう。ぼくはこのご褒美方式が好きで、ほとんど休まずにこの『習字教室』に通い続けることができたのであった。
*うさぎ小屋の裏での話
2年生の中頃、亀山くんと鶴川くんという二人と仲良くなった。かめちゃんは丸顔で鼻がツンと高くてしゃべり方がゆっくりで、つるちゃんは面長の顔で目がつり目で早口な子だった。
だいたい3人でかめちゃんの家で『ストリートファイター2』という格闘ゲームをやることが多く、負けた方が交代するというルールでやっていた。この『スト2』では壁際に追い込まれることで攻撃を回避できなくなる、いわゆる『嵌め技』の状態になることが多々あった。なので当時は、ボタンを連打しまくって『とにかく追い詰められないように攻めまくる』という戦略が主流で、3人で楽しくプレーしていた。
そんなある時、給食を食べ終わってからやる掃除をちょっとだけ休んで3人で話をしていた。
「次の授業、体育だよね」
「うん、いつも思うんだけど、女子と一緒に着替えるのってなんか気まずいよね」
そんなたわいもない話をしていると、かめちゃんが急に真剣な顔になって話し始めた。
「けんちゃんって好きな子いるの?」
「えっ」
ぼくはかめちゃんから意外な質問を受けたので少し戸惑ってしまった。
「いるよ」
「そうなんだ、ぼくも教えるから、けんちゃんも教えてよ。つるちゃんも」
「うん、いいよ」
「わかった。じゃあいつものとこ行こうよ」
当時ぼくらは、3人で内緒話をする時に、人目につきにくいう理由でうさぎ小屋の裏に行くことが多かった。
「つるちゃん早く言ってよ」
「かめちゃんこそ」
そんな感じでしばらく最初に言う人を押し付け合っていたのだが、このままでは埒が明かないと思い、
「う~ん、じゃあぼくから言うね。ぼくはさくらちゃんが好き」
「「え~っ、そうなんだ~」」
かめちゃんとつるちゃんはタイプが違うが、この時は珍しく声をハモらせていた。
「じゃあこれで解散」
「え~。それはズルいよ。勇気出して言ったんだから、二人も教えないとダメだろ」
「冗談だよ、僕はともみちゃんが好きなんだ」
かめちゃんがちょっと照れながら好きだと言った友美ちゃんは、髪の毛をいつも横に二つくくりにしていて、明るくて可愛らしい感じの子だった。
「「そうなんだ~」」
ぼくとつるちゃんは、さっきと同じように声をハモらせていた。
「なんか最後だとインパクトが薄れるかな。ぼくはけいこちゃんが好き」
恵子ちゃんは細くて色白で背が高くて、ちょっと大人な雰囲気のある子だった。
“みんな好きな子って違うんだ”
ぼくはまだ幼かったので、これが女の子だと一人の子に集中したりすることはまだ知らなかったが、この経験はこの年頃の僕にとってかなり衝撃的なものであった。
日本には十人十色という言葉があるが、この頃はまだ曖昧であった、『自分と他人とは違う』ということが認識できた体験であった。秘密を共有すると仲良くなると言うが、このことがあってからその言葉の通り、ぼくら3人の結束はより一層強くなったように感じる。
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