第42話 勇敢な戦士

そして迎えた本日11月17日は気迫のチーム、三島ソウルフラーズとの試合の日である。桃色のユニフォームが耽美な彼らは、決まった練習場が確保できておらず、ホームグラウンドと呼べるものがなかった。生憎の雨天でザーザー降りの中での対戦となる。友助の居ないバランサーズはやはり精彩を欠いており、保は昴に釘を刺す。


「分かってるよな、昴。お前もチームも、もう後がないんだぞ」

「ああ、分かってるって。勝つしかないよね」

「そうだ。チームを救えるのはエースのお前しか居ないんだ」


「保さんーーありがとう」

「礼は得点で返してくれ」

「うん。俺、やってみるよ!」

 そう言った昴の表情には久々に笑みが戻っていた。


 雨天のため、開始するかどうか少し審議がなされた後、予定より5分遅れで試合が始められると、凝はぬかるんだ地面を嘲笑うかのように大きく両手を広げ、勢いよくオフェンスに転じてきた。


この日アラができるプレーヤーが少ないからとマッチアップしていた蓮を抜き去り、先制点を決めたかに思えた。だが、放たれたシュートはぬかるんだ地面との間で威力が出ておらず、味蕾はこのイージーシュートをいとも簡単に止めてしまった。


それからバランサーズの攻撃に移り、保、蓮の連携でオフェンスを進め、蓮が昴が蹴りやすいように大きくループしたアシストを蹴りだした。これを昴が綺麗に合わせ、先制点とした。


ソウルフラーズに攻撃が移ると、凝がフェイントを掛け一気に蓮を抜き去り、もう一人のアラ凌駕に強めのフィードを出した。凝のこの『スクープターン』はボールを足で引っ掛けて反転し一気に相手の前に出るという技である。だがこれは保のカバーに阻まれ、シュートまで行くことができなかった。


「う~ん、噛み合わないな~」

「悪い、ニコラス」

「いいっていいって。また撃てばいいだろ?」


凝はその実力から、他のチームにスカウトされたことが何度もあったのだが、そのソウルフラーズ愛から打診されたものを全て断っていた。自分の好きな仲間と好きなチームで勝つ。それが凝の信条であり、彼はそのことにプライドを持っていた。


それからバランサーズの攻めを受けたソウルフラーズは2点の追加点を許し、試合は3対0と一方的な展開となる。だが、ソウルフラーズは、凛藤のフィードから凝がボールを受け、再度スクープターンで蓮を抜き去ったところ保がフォローに入る。


デジャヴかと思われたが降りしきる雨の中でピッチが滑りやすくなっており、これに足を取られた保は大きく転んでしまうと、凝がその隙を見逃すはずもなく、強烈なシュートを放った。これが見事バランサーズゴールに突き刺さり得点となる。そしてここで3対1となったところで前半が終了した。


後半が開始されると、桃色のオシャレなボウシが特徴的なゴレイロ凍郷が出す合図に対し、他の選手たちが濡らした唇を開いて独特の音を出して呼応していた。

「ア・オー、ア・オー」

「ポクポク、ポクポク」


“なんかのサインだな。雨用に声が通りにくいことを想定してたのか”

 昴は、その用意周到な作戦に感心していた。それからソウルフラーズは執拗にシュートを連発して来たのだが、どうも似たようなパターンが増えたように感じられた。


『冴木、凌駕、凛藤。凝にボール集めるぞ』というのがこのサインの内容であり、実践した結果シュートまでの形は作れていたのだが、単調な攻撃になりつつあった。ソウルフラーズは果敢にゴールに挑んではいるのだが、その実力差からバランサーズの攻撃を止めることがことができず、5対1まで点差を広げられていた。


 その後、昴のジンガからの得点で6対1とされたソウルフラーズは、ピヴォの冴気のヘディングでのピヴォ当てで押し返したボールから、凝が渾身のスクープターンでシュートまで持って行こうと試みた。だが、これは後ろから追いついた昴に阻まれ、惜しくも倒されてしまった。


 このプレーでソウルフラーズ側のPKとなり、凝が蹴ることとなったのだが、凝はボールを置いてから3.5秒間、時間目一杯蹴ろうとしなかった。この『ジラース』と呼ばれる戦術は、PKの際に戦況を有利にするための遅延行為である。雨天のためぬかるんだ地面からでは動きが読みやすいため、凝はタイミングをズラして蹴ることにしたようだ。放たれたシュートは、見事ゴールに吸い込まれて行った。


残り時間はあと僅か。誰の目から見ても勝敗は決していた。だがそんな中で、一際大きな声を上げている人物がいた。

「諦めるな、絶対に勝負を投げるんじゃねえ!!」

「凝さん――」


6対2。到底敵うような点差ではなかった。

だが、彼は決して諦めなかった。チームを、勝ちを、疑うことなく挑み続けて来た。その不屈の闘志を見て、昴は自らの在り方に疑念を覚えたのであった。

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