電波ヒロインにはチュートリアルを②
(注)〈〉書きは日本語と思え
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それからミアはずっと図書室に入り浸っていた。
なんか、学力のすてーたすを上げるには、図書室が一番なんだと。
ということで、俺もミアの横でニホンゴを勉強していた。
が、これが中々に曲者な言語である。
この国の言葉とはまるで言語体系が違う。
語順が真逆だったり、語と語をつなげる言葉が存在していたり、何だこれってやつ。
なんかもう、疑いの余地なく、あぁ、この少女は何かしら特殊な境遇にあるという事をいやというほど実感する。
それを感じてじっとミアを見ていると、どうやら解けない問題で固まっている。
俺は問題を確認して手を伸ばす。
「……それは、こうやって——」
そうやって一週間、いや、二週間が過ぎた。
その間にも、学校では色々とあった。
ファムはまぁ、当然と言ったら当然だが、生徒会長になっていた。
ルーシルや俺は、生徒会には入らなかった。
ルーシルは王妃教育で、俺は生徒会外で動くため。
生徒会に入るメンバーは、ほぼ全員がファムの側近候補だった。
びっくりしたのは、そこにミアもちゃっかり入っていた事か。
丁度生徒会の余った一枠に入り込んだらしい。
本人は、〈逆ハールートは生徒会に入っておけば進めやすいから……〉とつぶやいていた。
……日本語をある程度分かるようになった人の目の前でぼやくな、と思った。
一応、日本語はある程度分かるようになった。
と言っても、読み書きはひらがなとカタカナが限界だし、漢字なんてまだまだ全然だ。
まぁでも、日本語でミアに話しかけると、少しだけ安心したような表情になる。
自身の故郷を思い返しているのだろうか。
まぁ、そんなことはいいだろう。
そんな彼女は今、俺の横で突っ伏している。
〈なんで、学力が上がってる気がしない~!〉
〈そりゃそうだろ、一週間で学力が上がるなら……えーと、だれも苦労してない〉
最近、俺とミアの会話は基本的に日本語だ。
その方が、俺の日本語力が上がるから。
〈でも、ゲームだと、これ位で、学力が星3行くんだよ?〉
〈そりゃ、ゲームではな。現実でそう上手くいくか!〉
〈いや、ここはゲームの世界だから、私のやることなすことはほぼうまくいくの!〉
彼女は、この1~2週間を通して、この世界が現実ではないと思い込むようになり始めていた。どうやら、ここ近辺で起こった出来事が、すべて、『ゲーム』と同じだったかららしい。
俺も、日本語を勉強しながら、ある程度、日本の文化をミアから聞き出せた。
『ゲーム』に関しても、なんとなくではあるが、理解できたと思っている。
〈きちんとセリフ通りに喋れば、皆思った通りに動いたんだよ?〉
〈……何と言うか、それはそれで恐ろしい〉
なんか、俺の方がここがゲームじゃないという自信が無くなってくるわ。
もうちょっと頑張ってくれ皆!
そんな彼女は、今日も本とにらめっこしていた。
〈でも、もう図書室で勉強を始めて結構経つぞ?もうそろそろ動き出さなきゃいけないんじゃないのか?〉
〈……確かにそれはそうだけど……〉
彼女は頭を抱え、うんうん唸りだす。
俺としては、ぜひとも攻略が可能かどうかを見てみたいので、さっさと動き出してほしいという思いはある。
そう思っていると、ミアは立ち上がる。
〈分かった!一旦保留にしよう!〉
〈保留?〉
〈そう!だって、学力のステータスを使う試験まではまだ日にちがあるし、また後で考えればいい!〉
〈そうか、てことは……〉
俺は頭の中で先送りにしてきた問題に直面するときが来たとため息をつく。
しかし、2週間前と今とでは、少しだけ状況が変わってきている。
〈そう、ローレル・ストラードを攻略する!〉
〈そうか、頑張ってくれ。何か俺にできることはあるか?〉
〈いや、特には無いかな〉
〈分かった。……どんな流れで攻略するのか、教えてもらってもいいか?〉
〈うん、いいけど〉
そう言ってミアは肌身離さず持っているノートを広げる。
——ここに書いてあることがだんだんわかるようになってきた。
そこには、確かに『ローレル・ストラード』の事が書いてあるし、どんな風にローレルを落とすのか、事細かに書いてある。
まぁ、『朝、中庭でローレルと邂逅。その時に持参した本の話題になるため、持ってくる本は——』とか、普通にありえないことが書いてあるんだが。
しかも、ミアは話していなかったが、この本、機密事項の宝庫じゃないか!
ローレルだけでなく、他複数名の過去や秘密がつらつらと書き連ねられている。
ファムと俺のもあるじゃないか!?
〈な、なぁ、ミア。これ、書き写していいか?〉
〈え?別にいいけど……〉
〈そ、そうか、ありがとう〉
いや、これ、ファムをからかう材料になるな。
ファムの驚く顔が楽しみだ。
それ以外にも、色々と使い道はあるが、まぁ、今はローレルの事に集中しよう。
でも、今、ローレル自体の評価が変化しているのは確かだ。
彼は、仕事をしない。
いや、というか、自分が働くことを全く考えていないのだ。
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