第9話 劇場に憑りついているモノ

 話の通じない相手なので何が目的なのかわからないんですが、他の幽霊さん達に手を出させないようにしているというのは間違いなさそうですね。ただ、それも守りたいという感じではないような気もするんですよ。この女性を守るというよりも、一緒に連れて行こうとしているように見えたりもしているんです。

『この幽霊さん達は私と話す気が無いのか会話が成り立たないです。女性の幽霊同士で何か話してはいるんですけど、ちょっと私には何を言っているのか理解出来ないんです。人間の言葉とは違う別の言語みたいなんですけど、真白先生は何言っているかわかりますか?』

 真白先生は支配人さんとアイドルさんに気付かれないように首を横に振っていた。真白先生にも幽霊さん達が何か話しているという事は分かっているみたいなのだけど、その内容までは理解出来ていないようだ。

 それならばと、近くにいる会話が出来そうな幽霊さんに話しかけてみたのだけれど、ここに居る男性の幽霊さん達はここに居るアイドルの子たちに夢中で私の話なんて聞いてくれないようです。ちょっとくらい私に興味を持ってくれてもいいと思うんですが、私もこの幽霊さん達の立場だったらアイドルさんたちに釘付けになってるかもしれないですよね。

「鵜崎先生って最初は胡散臭いだけの人かと思ってたんですけど、本当の霊能力者なんですね。あの子が見守ってくれているってわかったら、今まで感じていたなんだか嫌だなって気持ちも無くなりました。幽霊騒動も解決しなくてもいいんじゃないかなって思ったりもしたんですけど、そう言うわけにもいかないですよね」

「そうよね。幽霊が出る劇場って呪われているみたいで良くないと思うわ。あの子には悪いけど、ちゃんと成仏出来るように真白先生にお願いしないとね」

 支配人さんは真白先生の事を鵜崎先生ではなく真白先生と呼んだのだが、アイドルさんはその事に少し引っかかっているようだ。

「楓さんって男性の事を名前で呼ぶことってなかったですよね。なんで鵜崎さんの事を名前で呼んでるんですか?」

「それはね、真白先生だけじゃなく他の鵜崎さんともやり取りをしているからなのよ。この劇場の事だって最初は紗雪さんにお願いするつもりだったんだけど、紗雪さんは忙しいという事で真白先生を紹介してもらったのよ。紗雪さんも真白さんも同じ鵜崎なんですから名字で呼ぶとどちらを読んでいるのかわからなくなると思って名前で呼んでるだけだからね。それに、呼び捨てにしてるわけじゃないから問題無いでしょ」

 まあ、そんな事で誤魔化せるとは思ってないよね。支配人さんもアイドルさんもちょっとだけ間を開けていたけれど、お互いに釈然としない感じで牽制しあっているようだ。

『真白先生真白先生。他の幽霊さんが教えてくれたんですけど、ホクロの子をけしかけている女性の幽霊って死神の出来損ないらしいです。他の幽霊さんを使って生きている人をあの世へ引っ張っていくと死神になれるみたいなんですけど、あと一人がどうしてもうまく行かないみたいです。そこで見つけたのがアイドルさんとホクロの人って感じみたいですよ』

「それって、明里さんをあっちの世界に連れて行くためにホクロの子をそそのかしているって事なのかな」

『そう言うことだと思いますよ。私は人に呪われたことはあっても呪ったことは無いので詳しくないですけど、ホクロの女性は一思いにイキそうもないんです』

「直接手を出したらダメっぽいし、間接的に明里さんを殺そうという事なのかもな。そう言うのも良くないと思うけど」

『直接殺すには幽霊としての経験も足りなさそうですしね。数多くの経験をしてきた幽霊は物の一つや二つは携帯したいと思いつつ、物を持てるようになるという事は見られてしまうというリスクもあるということに気付いて小物に触れたりなんかはしない。変に触れてしまって予想外の動きをすると見ている方が不審に思ってしまうそうですね』

「ところでさ、幽霊とは会話が成立しそうな感じかな?」

『さっぱりですね。最初こそ私を見ている幽霊さんも何人かいましたけど、アイドルさん達がいるとみんなそっちを向いてしまいますね。今のままじゃアイドルさんがいなくならないと幽霊さん達との会話も成り立たないみたいですね』

「じゃあ、アイドルが誰もいない状況になったらヒナミの力を借りて話を聞いてみないとな。そこで解決の糸口が見つかるといいんだけど」

 真白先生に期待されるというのはとても光栄なことではあるのだけれど、話を聞く対象である幽霊さん達が私の話を素直に聞いてくれるとは思わないのだ。だからと言ってゲストを呼ぶわけにもいかず、自力で頑張るしかない。

 だからと言って、ただ待っているだけというのも違う。あの女性の幽霊の事を何か知っている人がいないか探し回ってみたのだ。ずっと病室にいたのだとしたら接点のある幽霊さんなんてここにはいないと思う。

 接点なんてこの劇場のアイドルが好きだという事しかないのかもしれないけど、そう言うところから何か解決の糸口を見付けられるかもしれない。もしかしたら、死神の出来損ないさんは別の場所で生きているという可能性までありそうだな。

 そんな事を考えていると、ホクロの幽霊さんも死神の出来損ないさんも私の事を凄い形相で睨んできているのだ。アイドルさんだけではなく私達も連れて行こうとしている事だけは真白先生も理解しているようだ。

『真白先生、なんかすっごく良くない予感がするんですけど。それって、私の気のせいじゃないですよね?』

 ちょっと考えた後に真白先生は私のそばにきてとても小さい声で話しかけてきたのだ。

「俺も良くないことが起きるんじゃないかと思うんだけど、そうならないように頑張らないとな」

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