第11章
第61話 新たなる道標①
大帝国を揺るがす大事件の兆しが現れようとしていた頃、リギセン地方は復興の真っ只中にあった。困窮者支援を掲げた冒険者ギルドの救助隊と、王都から派遣された王国騎士団が山頂近くに拠点を構えたため、村内もトルンデインの大通りかと
巨大ゴーレム騒動から1週間。あらゆる生活基盤を失った村人達は、本来なら途方に暮れ、失意の日々を送っていただろう。だというのに、再建作業に従事する彼らの顔には笑顔が絶えない。死者どころか怪我人すらおらず、衣食住にも困っていないからだ。
四魔導を含むデクシアの軍団を返り討ちにし、村の住民を守り切った3人組の冒険者。ギルドだけでなく王国騎士団も一目置く少女達は、今なおリギセンに滞在中である。
「ちょっと収穫しすぎたかなぁ……?」
カボチャやトマト、大根などの野菜を荷車に山積みし、村内の中央通りを進むレモティー。戦火に飲まれて焼野原となっていた農園は、彼女が一夜で復活させた。NeCOでは"農家"と冗談交じりに呼ばれていた
「まぁいっか! メルがいれば全部食べてくれるだろうし、腐らせる心配はないかな」
そう言って金髪碧眼の美女が見上げた先には、木造の大きな館が
建築学に覚えがあるレモティーが大まかな間取りを考え、ココノアが正確な図面を起こし、巨女になったメルが建築工事を担当した。内装は村人総出の突貫工事となったものの、風呂や食堂も備わっており、村が復興するまでの仮住まいとしては十分すぎる施設だ。帝国軍を追い払った夜から作業を始め、朝日が登る頃に完成したため、少女達はこれを一夜城ならぬ一夜アパートと呼ぶ。荷車をアパート前に停めたレモティーは、元気よく玄関扉を開けた。
「ただいま、今農園から戻ったよ!」
「あらレモティーちゃん、おかえりなさい!」
「ああ、メルの方が先に帰ってたんだね。今晩の夕食用に野菜を収穫してきたから、台所へ運んでくれないかな?」
「はい、お任せください!」
ポン、と笑顔で小さな胸を叩く猫耳の幼女。見た目こそ10歳前後の子供であるものの、彼女の身体には恐るべし怪力が宿っている。桃色のロングヘアを靡かせながら、荷車いっぱいにあった野菜をあっという間に運び終えてしまった。燃費がすこぶる悪いという欠点を除けば、どんな大型重機もメルには敵わない。そのため巨大化が解けた今もなお、村の再建作業で引く手数多であった。
実際、ここしばらくは冒険者らしい任務よりも、現場工事のような仕事を請け負う事が殆どである。破壊された街道の修繕を手伝って欲しいという依頼や、帝国軍の残置物撤去なんかがそうだ。過酷な肉体労働である反面、報酬がさほど高くないため、高レベル冒険者ほど渋い顔をして断るのだが、人の役に立つ事が好きなメルはむしろ喜んで駆けつける。
「メル、今日はどんな仕事をしてたんだい?」
「ええっとですね、北側にある用水路修繕の手伝いを頼まれまして……あ、お話する前にお茶を淹れましょうか。レモティーちゃんはいつもの席で待っててくださいな」
「助かるよ、ありがとう!」
メルに促され、レモティーは入口すぐの広間にある憩いスペースに腰かけた。元々は村人達が会話を楽しめるようにと設けたものだが、最近は3人の談笑としても活用されている。
少しして、リギセン産の暖かい緑茶をカップに入れたメルがやってきた。日本で馴染みのあるモナカや団子などの茶菓子も一緒だ。リギセンに和菓子職人はいないが、NeCOの料理スキルで生み出されたものであるため、味は申し分ない。
「レモティーちゃんが作ってくれたこの豆大福、凄く美味しいですっ♪」
「あははっ、喜んでもらえて何よりさ! NeCOをやってた時はバフ効果のある料理しか作ってなかったけど、異世界だとこういうお菓子系が大活躍するね」
「えへへ、美味しいスイーツは私達のエネルギー源ですから! あっ、そういえばリセちゃんもお菓子作りが趣味って言ってました。もしこっちの世界に来てたら、作って貰えるかもしれません♪」
2人がそんな会話を交わしていると、玄関扉が勢いよく開いた。入ってきたのはベージュに近い髪色を持つショートボブの美少女だ。上品な深紅のスカートをはためかせ、テーブルまで歩いてくる。
「メルもレモティーも早かったのね。うちはさっき仕事が終わったところよ」
「おかえりなさい♪ すぐにココノアちゃんのお茶を用意してきます!」
「助かるわ。喉乾いてたから」
台所へ駆けていくメルとすれ違うようにして、ココノアは椅子の上へ瞬間移動した。彼女も幼い容貌ではあるが、絹のような白い肌と特徴的な長耳、そして底知れない魔力を有するエルフ族である。
「おまたせしました、ココノアちゃん!」
「ほいほい、ありがと」
湯気を立ち昇らせるカップをメルから受け取るなり、唇をつけるココノア。素朴で優しい味わいが彼女の喉を潤す。
「はぁ~やっぱり日本人には緑茶が一番沁みるわ……」
「ははは、見た目は可愛い幼女なのに歳がセリフに出ちゃってるよ、ココノア」
「うるさいわね。中身はそれなりに歳喰ってるんだから別にいいでしょうが」
頬を膨らませたココノアに、レモティーは「ごめんごめん」と苦笑いで返した。元々、オンラインゲームNeCOで巡り合った3人の実年齢はバラバラである。ゲーム中のアバターが容姿に反映されている関係でレモティーが年長者に見えるものの、実のところはそうでもない。見た目に反してパーティの実質的なリーダー役を担うココノアは、ふと窓から見える村の復興状況について言及した。
「今で3割くらい、ってところかしら。思った以上に順調ね」
「うん、ボクも少し驚いてる。冒険者ギルドとエリクシル王国の騎士団がこんなに早く対応してくれるなんてさ。ひょっとして、帝国軍の動きを前もって掴んでたのかな……?」
レモティーがそんな疑念を抱く程に、支援団の到着は早かった。冒険者ギルドから渡された通信用の魔道具でトルンデイン支部へ連絡を取った翌日には、冒険者と騎士団混成の第一陣が到着している。彼女達にしてみれば帝国軍捕虜の対応を全て丸投げできて助かったという面はあるものの、事前に帝国側の動きを把握済みだったのかと勘ぐってしまってもおかしくない状況だろう。エルフ少女は深く頷いて同意を示す。
「うちもそう感じたから、それとなく他の冒険者に話を聞いてみたの。どうやら、ケントが襲撃の数日前からギルド本部に連絡を入れてたみたいよ」
ココノアもレモティーと同じ考えを巡らせていたようだ。独自に聞き取り調査した結果を小声で話し始める。
「帝国軍がリギセン周辺にある遺跡を狙うかもしれない、ってね。うちらに通信機を渡したのだって、こうなるのが分かってたからじゃないの?」
「ほへぇ、そうなんですか。村の復興をお手伝いしてくれる人が大勢来てくれて助かりましたし、ケントさんには感謝しないといけませんね!」
「はぁ……メルは相変わらず能天気なんだから。厄介ごとを押し付けられたようなものだってのに」
屈託のない笑顔を浮かべるメルとは対照的に、ココノアは呆れ顔で溜息を吐き出した。ケント=レーンヴィストは、3人を冒険者として登録した若いギルド職員である。トルンデインが魔物の襲撃を受けた直後であるにもかかわらず、メル達のリギセン行きを快諾したのも、帝国軍の狙いに気付いていたのであれば頷ける。
ただ、彼が悪人でない事は少女達もよく知っていた。"厄介ごと"と辛辣な表現をする一方で、ココノアは穏やかな表情を見せる。
「でも、村の人達を助けることができたのはあの優男が機転を利かしたおかげでもあるわけだし……そこは感謝してあげてもいいかも」
「ケントさん自身もこっちに出向いて復興を手伝ってくれてるしね。今度、和菓子を差し入れておくよ」
手のひらに載せた粒あんモナカを見つめながらレモティーが呟いた。現在、山村の入口近くにある街道には冒険者ギルドの出張所が設けられている。テント式の簡易的な拠点だが、トルンデインのギルド支部と同じ機能を持っており、依頼や報酬のやり取りが可能だ。辺境の地で復興素材調達や資材輸送隊の護衛、害獣駆除などの任務に従事する冒険者にとって、この出張所が果たす役割は大きい。
「……あっ、そういえばすっかり忘れてました! コレ、どうしましょうか?」
会話が一区切りついたところで、メルが素っ頓狂な声をあげた。彼女が両手で掲げた黄色のポーチに、2人の視線が集まる。
「えっ、急に何よ。ポーチがどうかした?」
「ああ、ゴーレムから取り出した水晶玉の話かな? そういえば鑑定するって言ったまま忘れちゃってたね」
「そうなんです。ここで出すと邪魔になっちゃいますし、一旦外へ行きませんか?」
帝国軍が遺跡から発掘した古代兵器には、動力源となる巨大な球体が組み込まれていた。ゴーレムを機能停止へ追い込んだ際にそれを戦利品として回収したものの、まだ詳しく調べてはいない。メルの提案に2人はコクリと頷いた。まだ日暮れまで時間はあるので、少々遠出しても問題なさそうだ。
「あのガラクタを再び動かそうとする輩がいないとも限らないし、人目に付かない場所を選んだ方が良さそうね」
「少し距離があるけど、西の採掘場跡へ行こうか。王国騎士団の調査はもう終わってるはずだから、今は誰もいないと思うよ」
「はーい! それでは早速出発しましょう!」
メルの掛け声と同時に席を立つ少女達。疲れ知らずの冒険者3人組は、意気揚々と出発したのだった。
§
岩盤が剥き出しとなった露天式の採掘場に足を踏み入れるメルとココノア、レモティー。見渡せる範囲内に彼女達以外の人影は見当たらない。ここで帝国軍による巨大ゴーレムの起動作業が行われていたとは思えない静けさである。猫耳を澄ませて近隣に誰もいないのを再確認したメルは、ポーチもとい魔法の肩掛け鞄へ両手を突っ込んだ。
「ええっと、確かこの辺に入れておいたはず……あっ、これです!」
ゴトン、と重そうな音を立てて地面に置かれる水晶球。表面の輝きが無ければそこに存在するとも分からない程の透明度を誇る球体は、レモティーの背丈よりも大きかった。しかも一切の歪み無く造られた真球である。とても人の手で作られた物とは思えない。撫でるようにして球へ触れたレモティーは、感慨深そうに言葉を漏らす。
「ゴーレムから取り出す前は光ってたから輪郭が分かりやすかったけど、今は見失いそうになるくらい透き通ってるね。古代ドワーフ族の技術力は今よりも優れてたって聞くし、こういうのも簡単に作れたのかなぁ……?」
「とりあえずスキルで鑑定してみたら? とんでもない掘り出しモノだったりするかもしれないし」
「ははっ、そう思うとなんだかワクワクしてきたよ! よーし、"鑑定"!」
期待感に満ちた声が青空に響いた。NeCO由来のスキルによって得られた情報が、文字の羅列となってレモティーの脳内へ流れ込んでいく。
「……ふむふむ。この球体、正式には"次元結晶"って呼ばれるアイテムみたいだ」
「次元結晶……? その次元って言葉、三次元とか二次元の"次元"と同じ意味で合ってる?」
「うん、それで間違いないと思う。まずはこのアイテムの説明文を一通り読み上げてみようか」
頭に浮かんできた文章に意識を集中させるべく、レモティーは
「次元結晶、それは創生の女神から零れた一滴の涙。異なる次元から
「ちょっと待ちなさいよ。NeCOのアイテムじゃあるまいし、そんなふんわりした説明だけなんて事ある……?」
「鑑定結果は何度も確認してみたけど、これ以外に記述はなかったんだ。ボクにも何が何やら……」
レモティーが
オンラインゲームのアイテムには、後のアップデートで別の使い道ができるものも存在する。そのため、用途が限定される書き方をわざと避ける事が多い。しかし次元結晶に関しては別だ。ゴーレムの動力源として使われていた以上、明確な役割が与えられたはずである。
「……文章の意味を素直に解釈すると、巨大ゴーレムはこの水晶を介して別次元のエネルギーを取り出してた事になるのかなぁ。あれだけの巨体を動かしたり、飛ばしたりする程の魔力なんて、魔鉱石だけじゃ補いきれないだろうしさ」
「それって、うちらもコレを使って力を引き出せるってこと? ちょっと試してみるわよ」
エルフ少女は有無を言わさず、次元結晶へ両手を添えた。使い方が分からないので、軽く叩いたり魔力を流し込んだりしてみたものの、青い空を映した水晶球は沈黙を守り続ける。いつまで経っても、ゴーレムの体内に組み込まれていた時のように、青白い光を纏う気配はなかった。
「全然反応しないんだけど! 魔道具みたいに魔力を与えれば動くってわけでもなさそうだし……そうだ、試しに攻撃魔法をぶつけてもいい?」
「そ、それはやめておこう。粉々に砕けそうな気がするからね……」
「魔法もダメなら、うちはお手上げ。今度はレモティーの番、ほらほら!」
ココノアはレモティーの背中側に回り込み、水晶球の前へグイグイと押す。鑑定した本人といえ、レモティーにも次元結晶の使い方はさっぱり分からない。とりあえず手をかざして「動け」と強く念じてみたが、結果はココノアの時と同様だった。
「うーん……ボクにも使えないみたいだ。そもそも、これが魔道具みたいな原理で動くものなら、一番魔力の高いココノアで動かせないはずがないと思うんだけどな」
「何言ってんのよ。魔力の波長的なモノが嚙み合って動く可能性もあるかもしれないじゃない。最後はメルだけど、勢い余って割ったりしないでね」
「ええっ、いくら私でもそんな乱暴には扱いませんけど!? まあもしアイテムとして使えなかったとしても、こんなに綺麗な形をしてるんですから、村のシンボルとして飾っておく使い道もあると思います。それはそれで素敵じゃないですか♪」
そんな事を喋りながら猫耳少女が水晶の表面を撫でた瞬間、水晶の中心に青白い光が灯った。レモティーとココノアは目を丸くして驚く。
「……なんか光ってない、これ?」
「めちゃくちゃ反応してるね……ボク達じゃ何ともなかったのにさぁ。でもまだ完全に動いてるわけじゃなさそうだ。メル、もっと撫でてみてくれないかな?」
「ナデナデしてあげればいいんですね! お安い御用です!」
友人から言われた通りに、メルは透き通った球面をしばらく撫で続けた。つるつるとした表面はひんやりとしており、触り心地が良い。腕の動きに合わせ、桃色の尻尾もリズミカルに揺れる。
――パァァッ……!――
レモティーの読みは正しかったようだ。水晶はついに起動を果たした。中心に灯った青い光は消えることなく、一定の周期で明滅を繰り返す。
「ココノアが言うように魔力の波長が合ったのかな……いや、それとは別に種族が関係してたりとか……?」
「動いたんだし、そんなの後で考えりゃいいでしょ。次は使い方よ、使い方! これ以上撫でても変化は無さそうだけど……あっ!」
不意にココノアが声をあげた。覗き込むように眺めていた水晶の表面に、見慣れた文字が浮かんできたのだ。異世界には存在しないはずの無属性魔法――その名前がいくつも連なっている。
「これ、うちのスキルツリーじゃない……?」
「ほんとだ……!
「どうしてこっちの世界にコレがあるのよ……」
思わず目を見開くココノア。彼女が驚くのも無理はない。球面に描かれたのは、紛れもなくNeCOにおける"ココノア"のスキルツリーだった。
個々のキャラクターが取得できるスキルを枝状に繋げた図――それがスキルツリーである。プレイヤーの選択やアクションによってスキルが伸びていく様子が一目で分かるため、MMORPGとの親和性が高い。もちろん、異世界で見るのは今回が初めてとなるが、自分のものかどうかは見ればすぐに分かる。
「本人が自分のだって言うんだから、これはココノアのスキルツリーで間違いなさそうだね。でも新たに取得できるスキルがあります、って書いてあるのは何故だろう。いくつもの前提スキルを取らないと最強魔法が覚えられない
「スキルポイントに余裕なんて無いっての! ただでさえメルに合わせて余計なスキル覚えてたんだから。でも新規スキルの取得選択肢は出てるわね……しかも別
ココノアは戸惑い気味に答えた。NeCOでは職業ごとに覚えられるスキルが定められており、それ以外は絶対に取得できない。いくら剣術や弓術を使いたいと思っても、フォースマスターでは武器を握る事すら叶わないのだ。他のジョブで習得できるスキルを扱えるのは、チート行為に手を染めたプレイヤーくらいなものである。
しかし水晶球が取得可能と示したスキル名の羅列は、ゲーム内の制限など一切無視したものだった。エルフ少女は取得可能スキルを順番に読み上げていく。
「刀剣マスタリー、弓マスタリー、槍マスタリー……どうなってんのよ、これ。よく見たら回復魔法や製造系スキルまで並んでるし」
「このスキルツリーが本物なら、本来覚えられないはずのスキルを獲得できるかもしれないね。あっ、もしかして異なる次元から新たな力を得るっていうのは、そういう意味だったのか……!」
「ちょっとレモティー、自分だけで納得してないで説明してってば。メルなんてさっきからポカンとした顔になってるじゃないの」
「ごめん、ボクの悪い癖が出ちゃった。推測でよければ、今から話すよ」
レモティーは眼鏡の位置を正しつつ、自分の考えを述べた。情報の断片から立てた仮説を元にして、論理的に解を求めるのは彼女が得意とする分野でもある。
「ここがボク達にとっての異世界であるように、この世界から見た異なる次元っていうのは地球の事なんじゃないかな。ただし、ボク達が肉体として使ってるのは、NeCOに居た自キャラだ。だから異次元から力を引き出すとなった時に、その対象がNeCOになっててもおかしくないわけさ」
「あー……だから、ゲーム中の全スキルから好きに選んで取得できるようになったって言いたいの? 確かに一理あるけど、ちょっと強引な気もするわね」
「確固たる証拠はないよ。でも、次元結晶の効果が使用者によって変化するのは間違いないと思う。機械人形が最期に放った電撃……あれが地球の機械やロボットから取り込んだ電気エネルギーだとすれば、理屈が通るだろ? とりあえず興味のあるスキルを選んでみたらどうだい。それで本当に取得できたなら、この仮定が正しいって事が証明されるわけだしさ」
「それもそうね。試してみる価値はあるかも」
水晶の表面を人差し指でなぞるようにして、スキルの取得候補を選び始めるココノア。風や氷を操る属性魔法、一定時間だけ姿を見えなくする秘技、自由にアイテムを作成できる製造技能などを一通りチェックした後、少女は仲間を振り返った。
「よし、決めた。うちは弓マスタリーを取得するわ」
「ええっ、弓マスタリーを取っちゃうんですか!? 確かにエルフさんは弓使いのイメージもありますけど、ココノアちゃんって確か、筋力のステータスが凄く低かったような……」
弓マスタリーはあらゆる弓術の基礎となるスキルだ。取得するだけで弓の扱いが格段に上手くなるという効果を持つので、マスタリーがあればフォースマスターであっても弓を武器として使えるようになる。ただ、ココノアは魔力を示すMAGにポイントをつぎ込んでおり、筋力に該当するSTR値はほぼ初期値に等しい。下手すれば
片や、レモティーは大丈夫とばかりに微笑んでいた。NeCOの仕様を知り尽くす彼女には、友人の意図が分かったようだ。ゲームシステムに
「NeCOで使われる弓の技量は器用さと知性、つまりDEXとINTに依存するんだ。その両方が高いココノアなら、プロ並みに扱えるんじゃないかな」
「あら、そうだったんですね……! 武器はどれも筋力が高くないと使えないとばかり思ってました」
「メルは自キャラの事以外を知らなさすぎるのよ。ま、事前に情報をしっかり吟味するような性分なら、殴りヒーラーなんて茨の道をわざわざ選ばなかったと思うけど」
ココノアはわざとらしく肩を
しかしそんな利点を踏まえても、突拍子の無い選択ではある。魔法と違って弓は消耗品である矢が攻撃の要となるため、本格的に運用するならいくつもの矢束を持ち歩かなければならない。ココノアの華奢な身体で大量の荷物を運ぶのは現実的でなく、やはり魔法の方が圧倒的に便利なのだ。レモティーは素直な感想を口にした。
「あはは……ボクもココノアが弓マスタリーを選ぶなんて想像して無かったなぁ。ココノアのステータスなら、回復魔法や属性魔法だって十分使いこなせるだろうしさ」
「うちはMAG特化型だから、それが一番自然かもね。でも回復はメルに任せてるし、それ以外の魔法もあんまりメリットを感じなかったの。だってほら、あのゴーレムみたいに魔法反射してくる相手だと攻撃手段がなくなるわけじゃない? それを避けたかったわけ」
ココノアが明かした理由に、レモティーとメルは「なるほど」と相槌を打つ。ゲームなら相性の悪い相手を避ければ済む話だが、この世界ではそういうわけにもいかなかった。大切な人を守りたいと願うなら、どんな状況にも対応できる能力を身に付ける必要がある。ココノアはちらりとメルの顔を見てから、"弓マスタリー"の文字に指先を重ねた。
「それじゃ、決定っと」
波打ったように球面が揺れた後、ふわりと浮かび上がる"スキル取得完了"の文字。それを見て、エルフ少女は満面の笑みを浮かべた。
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