第27話 隔絶した圧倒的なまでの差にドン引きなんだが
平然と佇むバーガンディー。
闇の結界に護られた橘刹那。
バーガンディーが橘刹那を護ったのか。
ここで橘刹那を倒しきれなかったのは痛い。
最上級魔神と言う存在がどれほどのものなのか知らない俺としては、今の状況がどれほど絶望的なのかは分からないが、俺を軽くあしらった魔人を眷属に持つ者だ。その強さは計り知れないだろう。
「もう終わりか? ではこちらも反撃しようか」
バーガンディーがにこやかな笑みを浮かべながら声高に宣言する。
そして絶望の詠唱が俺の耳に届いた。
天使たちは詠唱時の無防備な隙を狙ってバーガンディーに殺到する。
それと同時にバーミリオンは俺とセピアの下へ降り立った。
そして彼女はその金色の髪を振り乱して叫ぶ。
「そいつには手を出すなッ! 退けッ!」
その声は悲鳴に近かった。
そして無慈悲な言葉が
バーガンディーが
【
バーミリオンが詠む。
【星々の熱量と質量が生み出す力ここにあり、
セピアが詠む。
【
天使たちはバーミリオンの言葉に従わず、
しかし、相手はは最上級魔神である。
悉く攻撃が当たっているにもかかわらず、
圧倒的ッ!
まさに圧倒的ッ!
これでは相手にならない。
バーガンディーがゆらりと揺らめく。
その瞬間、2人の天使がその胸を手で貫かれていた。
ゆっくり落ちていく天使たち。
その体が
残りの3人もあまりにも隔絶した力の差を理解したらしい。
しかし遅かった。
あまりに遅すぎた。
詠唱を続けながら、その漆黒の
まるで群がる蠅を叩き落とすように。
そして――
バーガンディー、バーミリオン、セピア――
3人の術が完成した。
【
【
【
闇の六芒星がセピア色の空に出現した。
それが回転しながら闇の奔流を吐き出す。
漆黒の闇の奔流がまるでこの世の全てを飲み込んだかのように荒れ狂う。
しかし闇が全てを支配する事はなかった。
闇の中に仄かな光が種火のように灯った。
セピアとバーミリオンが使用した神術は攻撃用ではなかった。
大規模防御神術だったのだ。
俺は2人の伸ばす手から発生した
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
耳をつんざくような残響。
やがて闇は塵のように儚くも消えてゆく。
俺たちは凶悪なまでの
「なん……だと……?」
そこには驚愕の表情をしたバーガンディーが立っていた。
隣の橘刹那も信じられないものを見るかのような目で俺たちを見つめている。
一時は硬直したかのように動かなかったバーガンディーであったが、程なく正気を取り戻したのか両手を広げて大げさに哄笑する。
「ハハッ! フハハハハハハッ! やるなッ! 手加減しているとは言え、たかが
確かにそうだ。
しかし手加減か……あいつの目的は俺を喰うことだもんな。
バーガンディーは周囲に何も無くなったまっさらな大地に降り立つと、こちらに向かって静かに歩き出した。
セピアとバーミリオンの息は荒い。
動けない俺とセピアを
直接攻撃を仕掛けるつもりかッ!
「ハッハァッ! 破れかぶれと言うヤツか? 面白いッ!」
バーガンディーの馬鹿にしたような
そこにバーミリオンの
彼女は更にその武装化された凶悪なまでにメカメカしい腕で連続で殴り続ける。
「クハハハハハッ! 面白い! 面白いぞッ! 貴様!」
狂ってやがる……。
一方的に殴られながらも余裕の態度は全く崩れない。
その攻撃がどれほど続いただろうか?
不意にバーガンディーが握手を求めるかのようにそっと手をつきだした。
流石にバーミリオンも反応するが、その右手はあっさりとバーガンディーに捕えられていた。
「捕まえたな」
「くそがッ!」
バーミリオンが吠える。
【
かなりの
ガッキイイイイイイイイイイン!
バーガンディーは己の右手であっさりとその一撃を弾き飛ばす。
恐らく
表情は見えないが、そこにあるのは絶望か。
「本物の拳を見せてやる」
バーガンディーがそう言い放つとのの右手が
【
グシャッと鈍い音が辺りに響く。
あまりに速い
彼女は地面に何度も叩きつけられてようやく止まった。
「脆いな」
そう言うと、こちらに顔を向ける。
その顔は柔和な笑みが張り付いていた。
一歩、また一歩と俺の方へ向かってくる。
そこへ、セピアの声が響いた。
「バーミリオン様!」
声につられて彼女の方に顔を向けると胸のプレートを完全に破壊されながらも何とか立ち上がろうとするバーミリオンの姿があった。
「驚いたな。
バーミリオンはよろよろと覚束ない足取りでこちらに向かって歩き出す。
だがバーガンディーは相手にしない。
彼女がもう何もできないと判断したのだろう。
こちらに向き直り再び歩き出した。
橘刹那の方はダメージで動けないようだが、一体どれほどの力を持つのか想像もできないバーガンディーが俺の
こんなヤツに勝てるか――
俺が死を覚悟したその時、地面に魔術陣が描かれ、その空間に闇が生まれた。
ここにきて新手の
横目で魔術陣を確認した俺は、バーガンディーたちに視線を戻す。
しかし何故か、橘刹那は悔しそうな表情でそれを見つめている。
そして肝心のバーガンディーはと言うと、その魔術を見て……動揺している?
その顔には焦りの色が見え隠れしていた。
そして、俺の方をギンと睨みつけると、俺に向かって飛びかかってきた。
その右手は暗黒に染まっている。
あんな攻撃じゃ俺の防御シールドなんて簡単にブチ抜かれてしまうだろう。
かわすしかねぇ!
勘でとっさに右側に体を投げ出す俺。
バーガンディーは凄まじい速度で向きを変えると俺に向かって右手を突き出す。
――避けきれない!
その時、俺の左手からセピアが飛び出した。
俺とバーガンディーとの間に割り込む形で。
金属がひしゃげたような不快な音が耳に届いた。
「ガハッ」
俺の目に飛び込んできたのは、腹の辺りをバーガンディーの右手に貫かれたセピアの姿だった。
「セピアアアアアアアア!」
俺は思わず大声で叫んでいた。
そこへバーミリオンが飛んできて一気に間合いを詰めると、その右ストレートが
もう大した力もないと思って油断していたのか、バーミリオンの一撃を彼は防がなかった。流石に無傷と言う訳にもいかなかったようで、たまらず
しかしバーガンディーは倒れない。
一歩足を引いただけでその場に踏みとどまる。
対して俺は、まるで力の抜けた人形のように膝から崩れ落ちるセピアをすんでのところで抱きとめる。
彼女の頬をペチペチと叩きながら俺は彼女の名前を叫び続けた。
彼女の腹に空いた穴からは
「バーミリオン! 超回復は間に合わないのかッ?」
「はぁ……はぁ……私の
俺は大人しく引き下がると、攻撃の手を止めた
そこには知らない人物、いや
バーガンディーと同じ背中に煌めく12枚の黒い翼。
それはバーガンディーと同格の存在であることを物語っている。
その
黒髪ロングの端整な顔には吸い込まれそうな深い漆黒の瞳が印象的だ。
「バーガンディー。
「……ふん。忘れてなどいない」
一瞬、悔しそうな表情がバーガンディーに浮かぶ。
「ならば、この件は私が預かるぞ?」
「チッ、遊び過ぎたか……勝手にしろ」
バーガンディーは橘刹那に目をやってコクリと頷くと、魔術陣を展開して虚空に消えた。それを見た橘刹那もコツコツと足音を残してどこかへと去って行った。
2人が退場したのを見届けて、その
「さて、阿久聖くん。スカーレットから報告は聞いているよ。そろそろ
「……セピアを傷つけたお前たちに加勢しろと言うのか」
思わず敵対的な目を向けると、いつの間にかスカーレットが近くへ来ていた。
傍にはルージュも一緒だ。
「ローシェンナ様……」
ローシェンナと呼ばれたその
「阿久聖くん。君の
「悪いが俺は
「そうか……。君の気が変わることを願っているよ」
もっとしつこく勧誘されるかと思っていたが、拍子抜けするほど簡単に彼女は諦めたようだ。彼女はスカーレットとルージュに何やら告げると魔術陣を展開していずこかへ消えた。
ようやく浴び続けていた
俺はバーミリオンにセピアの状況を確認するために彼女たちの方へ歩み寄った。
「セピアはどうですか?」
「
「じゃあ、無事なんですね!」
「ああ、少し回復までに時間がかかるだろうがね」
彼女はセピアをお姫様だっこすると、神術陣を展開して姿を消した。
後には
俺はぼんやりとそれを眺めていたが、ふと我に返ると大きなため息をついた。
セピアにはまた助けられてしまった。今は彼女の回復を祈ろう。
いつの間にか世界が色を取り戻している。
日常の喧騒もまた戻って来ていた。
「あーどこだここは」
俺は、自分の
多分、あっちの方だろう。
後ろからそろそろとルージュが着いてくる。
「な、なによ。あたしの部屋でもあるんだからね!」
ルージュはそう叫ぶと、俺の手を取ってふわりと空中に浮かぶ。
そしてさっさと
俺はルージュに手を握られながら
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