第15話 嫌な予感

 美耶の結婚式はあっという間にやってきた。4月のGW(ゴールデンウィーク)の最初の土曜で、当日は雲一つない快晴で式を行うには絶好の天気だった。


 紅葉とは駅で待ち合わせて電車で一緒に行くということになり、楓子が駅の構内で待ち合わせの10分ほど前から待っていると、すぐに弟がやってきた。


「おはよう。今日はずいぶんと気合が入っているね」

「当たり前でしょ。今日は親友のハレの日なんだから。招待されたからには、恥をかかない程度に着飾るのは当然」


「そういうもんかね」

「紅葉だって髪型に気合が入っているでしょ。パーマなんて今までかけたことなんてなかったのに」


 楓子と紅葉は結婚式に参加するということで、化粧や髪型に気を遣っていた。二人は結婚式に招待されるのは今回が初めてだった。彼らの周りで結婚式を挙げる知り合いはまだいなかったので、結婚式のための準備を張り切っていた。


 楓子はこの日のために紺色のワンピースを購入し、靴もヒールのあるシルバーのパンプスをそろえた。首元には母親から借りた真珠のネックレスを付けていた。明るい茶髪に染めた髪はショートにしていたため、美容院には行かずに普段はしないアイロンをしてセットした。


 紅葉は黒のスーツをビシッと決めていた。靴も汚れのない革靴で、髪型は黒髪にパーマをかけていてオシャレにしていた。



 電車で式場の最寄り駅までは一時間ほどだった。GW中ということもあり、電車内は混みあっていたが、座席に座れないほどではなかった。楓子と紅葉が電車に乗った時にちょうど席がふたつ空いたので、二人横に並んで座ることができた。


 結婚式場までは、電車とバスに乗る必要がある。電車を降りて改札口を抜けて、駅の外にあるバス停まで歩いていると、声を掛けられた。


 二人はよく似ていたが、男女の姉弟のため、二人で一緒にいると恋人同士に間違えられることがあった。


「すいません。カップルの方を取材しているのですが」

「そこのお二人さん。カップル料金で料理を提供できるのでぜひ」


 今日は特に楓子と弟の紅葉が恋人同士だと間違えられ、声を掛けられることが多かった。しかし、親友の結婚式に向かう楓子たちは彼らの声に反応することなく、速足でバス停まで歩いていく。


 バスに乗ってようやく二人は安堵の溜息を吐く。バスの車内も混雑していたが、こちらも奇跡的に二人乗りの席が空いていたので、楓子と紅葉は並んで座った。


「なんか、やけに俺たちが恋人同士だと間違えられたね」

「この格好が目立つからかな」


(なんか嫌な予感がする)


 結婚式場が近づくにつれて、楓子は親友の結婚式に来たことを後悔し始めていた。そもそも、本当に親友は結婚するのだろうか。弟と二人で参加するから何も起こらないと安心していたが、それこそが美耶の罠なのかもしれない。


「これもまた、俺たちが先輩にやられるフラグだったらやばいよな」

「不吉なこと言わないで。GWで店も頑張ってお客さんを取り入れたいから、いつもよりたくさん客引きを増やしているかもしれないでしょ」


 ぼそりとつぶやいた紅葉の言葉に同意したくはない。同意したくはないので、明るい口調で弟の言葉を否定する。紅葉の顔は不安そうで、隣の席に座る楓子も不安になってくる。


「もしかして、俺と姉ちゃんの両方を……」


 せっかく楓子が場の空気を緩ませようとしたのに、弟はさらに深刻な表情でひとりごとをつぶやく。


 楓子は無視してバスから外の景色をぼうっと眺める。相変わらず雲一つない快晴で、天気予報でも伝えていたが、今日の降水確率はゼロで一日晴れという予報は当たっていた。しかし、楓子たち姉弟の心は晴れとは反対にどんよりと曇っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る