第68話 秋の章(24)

「白野。これでも飲んで落ち着いて」


 言われるがままにミルクティーを口に含む。ミルクティーの甘さがごちゃごちゃに絡まった頭の中をほぐしてくれるような気がして、さらにもう一口飲んだ。


 私が少し落ち着いたのを見計らうようにして、青島くんが口を開いた。


「白野はさ、パラレルワールドって聞いたことある?」

「パラレルワールド?」


 聞いたことのない言葉に首を傾げる。


「知らないか。パラレルワールドっていうのは、小説とかフィクションの中では、もう一つの現実世界だって言われているんだ」

「もう一つの現実世界? やっぱり、どっちも現実ってこと?」

「そう。でも、それはあくまでフィクション、作り物の中で言われていることであって、実際にはパラレルワールドがあるのかないのかなんて、知りようがないんだ」


 いつもは端的に話をしてくれる青島くんの言葉が、今日はなんだかまだるっこしい。


「つまり、どういうこと?」

「つまり、どっちが現実かなんて俺たちには分かりようがないってこと」

「そんな……」


 青島くんの答えに愕然としていると、青島くんは、仕方がないというように眉尻を下げた。


「だってそうだろ。現実だと思っているからこそ、ここは現実なわけで、もしかしたら、本当は仮の世界かもしれないし、もう一つの、いわゆるパラレルワールドなのかもしれない。でもそれはどんなに考えたって分かりようがないんだ。まぁ、仮想世界に関してはログアウトができるから、仮の世界だったって分かるけどな」


 ポカンと口を開けて青島くんの推論を聞いていた私に、彼は曖昧に笑って見せる。


「もしパラレルワールドがあって、向こうが現実だったとしても、俺には向こうに行く術はないし、ここの世界が俺にとっての全てだから、俺にはここが現実なんだ」


 青島くんの話を聞いていたら、本当に途方もないことで私は悩んでいたのだと気が付いた。私に庭園ガーデンでの記憶があるから混乱したけれど、確かに、ここが現実かどうかなんて私には分かりようもない。


 私に分かることは、雲の上からいつも下界を見ていたことと、フリューゲルがいつもそばに居てくれたこと。それから、今は白野つばさとして、下界で勉強中であること。それが、今の私の全てだ。


 そうだ。私は大樹と司祭様の御意思でこの世界で学ぶことになったのだ。ならば、学びが終わって庭園ガーデンに戻った時に司祭様に伺えば、全ての混乱は解けるはずだ。私とフリューゲルの関係も。私たちのあの記憶も。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る