第62話 秋の章(18)

「僕はあの時、神様に僕だけ一緒に来るようにと言われたんだ。手を離すようにって。僕が手を離すと、あの子は必死で僕を探していた。だから、もう一度あの子の手を握って、そう言ったんだ。そして、あの子がうまく光の海流に乗れるように、あの子の背中を力いっぱい押した」


 フリューゲルの言葉をどこか遠くに聞きながら、私は目の前のフリューゲルに手を伸ばした。フリューゲルは、さっきまでのお母さんのように寂し気な笑みを張り付けている。


 私の目からは、いつの間にか雫が零れ落ちていた。いくつもいくつも雫が零れ落ち、私の頬を濡らしていく。


「あなたと離れてしまって、私、泣いてた。私の涙が海流を漂って……その私の涙をあなたが掬ったのを見たわ」


 私の言葉にフリューゲルは小さく頷いた。


「そばにいると思っていたあなたの姿が離れて行ってしまって、私、大きな声で泣いたの。泣きながら神様にお願いしたの。私たちを引き離さないでって。たくさん泣いて、たくさん神様にお願いしていたら、神様が許して下さったの。仕方がないな。お前にチャンスをやろうって。もう少しの間だけ、一緒にいるがいいって」


 フリューゲルの目にも雫が溜まっていた。Noelノエルであるはずの彼の目に。


「フリューゲル。あなたは、私の弟なの? 私の片割れなの?」


 私の言葉にフリューゲルは、口元を少し緩めた。彼の頬を雫が伝い、ポトリとシーツの上に落ちた。


「アーラは僕の片割れだ。僕たちは、一緒にいた」


 互いに涙に濡れた瞳で見つめ合う。私たちは同じ母親のおなかに宿った双子。いつの間にかそれは確信となって、私の胸に宿っていた。


 私たちが双子Noelノエルとして庭園ガーデンに生まれ落ちたのは、神様に一緒にいたいと願ったからだ。


 そう思ったところで、ふと疑問が頭をよぎった。


 私とフリューゲルが元々双子だったとして、じゃあ、あの写真は? あれは、本当に私たち?


 先程見たばかりのエコー写真が脳裏に蘇る。


 お母さんは、あの写真を私と双子の弟だと言っていた。そんなまさか。そんな事があるだろうか。


「フリューゲル。あの写真はどう言う事なのかしら? ここは、この家は、私が下界で生活が出来るようにと、神様か司祭様のお力によって作られた家族のはずよね?」


 私の疑問にフリューゲルは答える事なく、眉を寄せて口元を少し歪めた。何かを言いたげなのに、何も言わない。そんなフリューゲルを不思議に思いながらも、もう少し現状を理解しようと、私は頭を捻る。

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