雲の上は、いつも晴れだった。

田古みゆう

雲の上は、いつも晴れだった。~prequel・プリクエル~

第1話 ヒカリサスホウヘ

 ぷかぷかと浮かぶ。


 私は一人、暗い水の中を漂う。


 私が手をしっかりと繋いでいなかったばかりに、私は君とはぐれてしまった。


 暗闇の中、私は必死で手を伸ばし君の手を探したけれど、どんなに手を伸ばしても、君に触れることができない。


 どうして……


 今までずっと一緒にいたのに。これからもずっと一緒にいると思っていたのに。


 並んでぷかぷかと浮いていた時は、ここは狭いと思っていた。だけど、私一人には広すぎる。


 戻っておいでよ。また一緒に過ごそうよ。


 一人は寂しい。


 声を上げて泣きそうになった時、暗い水の中に一筋の光が差した。光の向こうから、呼ばれたような気がした。


 早く、出ておいでと。


 私と君に、いつも語り掛けてくれていた優しい声が、私のことを呼んでいる。私は、あの声の元へ行ってもいいだろうか。


 行きたい。会いたい。


 でも、君と離れるなんて、できるわけがない。だって、私と君は一心同体なのだから。


 ねぇ、どこへ行ってしまったの? あの光の先へ、一緒に行こうよ?


 私はもう一度手を伸ばして、君の手を探す。


 今度は、君の手に触れた気がした。君の声が聞こえた気がした。


 大丈夫。心配しないで。僕はいつだって君のそばにいるよと。


 いつものように、私の手をしっかりと握り返してくれた。そんな気がした。


 これで一緒に、光の向こう側へ行けるね。


 喜ぶ私の手を放し、君は私の背中を力いっぱい押す。


 私は一人、光の海流に乗った。


 私は君に手を伸ばすけれど、君は笑顔で手を振った。


 また君の声が聞こえた気がした。


 僕は、神様に呼ばれたんだ。だから、君とは一緒に行けないと。


 でも、大丈夫。僕はいつだって君のそばにいるからと。


 光の海流は、私だけを乗せて流れていく。


 どんなに手を伸ばしても、もう君の手を掴むことができない。


 私の流した涙がいくつもの泡沫となり、暗い水中をぷかぷかと漂う。


 君はそのうちの一つを両手で掬って、大切そうに胸に抱いた。


 君の姿が離れていく。


 そんな物を大切にするくらいなら、私と一緒に居ればいいのに。


 力の限り叫ぼうとしたその時、私の周りがとても眩しく輝いた。


 眩しくて眩しくて、目をギュッと瞑ったまま、私は両手を固く握り、大きな声で泣いた。


 君が私のそばに居られないなら、私が君のそばに行くよ。


 神様、お願い。私たちを引き離さないで。


 私は大きな声で泣きながら、大粒の涙を流した。


 涙は、スッと胸へ流れて消えていく。


 私の小さなハートが涙でいっぱいになった時、初めての声を聞いた気がした。


 仕方がないな。お前にチャンスをやろうと。


 もう少しの間だけ、一緒にいるがいいと。


 私のハートに溜まった涙は、キラキラとした塊となり暗い水中へと戻っていった。


 私は泣くのをやめた。耳元であの優しい声がする。


 泣き止んだのね。少し眠りなさい。次に目を覚ましたときには、笑顔を見せてね。


 その声の温かさに包まれながら、私は眠りについた。


 もう、ぷかぷかと浮かんではいなかった。

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