第26話 愛情不足
あれから半年が過ぎた。佳奈は慎也と最近になって結婚したと地元仲間の噂話から聞いた。慎也はいつからか職場を退社していて、地元に戻って家業を手伝っているらしい。
ほら。これで良いんじゃないか。
強がるものの、胸が痛かった。慎也とも佳奈とも絶縁状態である。俺に残された、いや、俺が選んだのは紗良だからそれでいい。
今日は喜美と二人で酒を飲んでいる。慎也の話もあるし、佳奈と紗良に二股をかけていたことは黙っていたけれど、ずっと話を聞いてくれたのは喜美だった。
「ふぅん。慎也さんと佳奈さん、結婚したんですね。」
「本当かどうかは知らないけど、妊娠したような話もあったな。」
「それで?古都さんは紗良さんとうまくいってるんですか?」
「ああ。俺は馬鹿だったと気づいたよ。優柔不断で、誰に対しても良い顔ばかりしていた。これからはちゃんと紗良意外にそういうことはしないって決めた。」
それを聞いて、つまらなそうななんとも言えない顔をする喜美。
「へー、そうなんですね。ていうか、古都さん、私の前で良くそういうこと言えますよ。笑 私だって一応、古都さんの子と好きだったわけですから。」
「あ、いや。でも喜美は本気って感じでもなかったろ?」
「いえ。本気でしたよ?」
「は?ま、まぁ、そういうこと言うなよ。冗談に聞こえないし、過去形ならなおさら、、」
「過去形だと思います?」
飲んでいたグラスをテーブルに置いて、にこっと含みのある笑いをする喜美。
「まぁ、今更言っても仕方ないですしね。私はこうやって古都さんとたまに二人であってもらえるだけで十分です。」
正直、二人きりなのはあまり良くない。だけど俺には一切の悪気がない。
「喜美にはたくさん助けてもらったからね。いくらでもおごるさ。」
「やった。じゃあ、今日はこのままホテルに行ってくださいね。私と一緒に。」
「あはは、どうしてそうなるんだよ。」
「本気にされてないじゃないですか!もう!高いワイン飲んじゃいますよ?!」
なんて、言い合うのが楽しかった、、のは俺だけ?かもしれないけれど、でも楽しかった。
そんな感じで気分が良くなったことも合って、俺は紗良に会いたくなってしまった。自宅ではなく、紗良の家に帰ろうと思い連絡を入れた。
『友達と飲んでたんだけど、今からそっちに行きたい。』
向かう途中で、紗良から『いいよ。』とだけ返事が来た。
紗良の家に着くと、チャイムを鳴らしてすぐに紗良が玄関を開けてくれた。
「や。ごめんね急に来て。」
「お疲れ様。たくさん飲んだの?」
「いや、そんなでもないよ。」
すると、靴を脱いで玄関に上がったばかりの俺に、紗良は両手を俺の首に回してキスをした。酒で気分の良い俺は当然、喜んで迎え入れた。
リビングに座ると、俺はスーツとネクタイを外して一息ついた。紗良は「お水にする?熱いお茶とかが良い?」などと気にかけてくれた。
「じゃあ、水だけもらっていい?ありがと。」
俺は喜美に『俺は家に着いたぞ。お前も気をつけて帰れよ。』とメッセージを送った。
「お風呂入る?」
「うん。シャワーだけ浴びる。」
水を飲みながら、喜美と話していたことを思い出していた。俺はこれからはちゃんと、紗良の古都だけ考えて愛情を注いでいけば良いと。この二人でいる今を大事にしたいと考えていた。すると、
「ねぇ。古都って本当に私のこと好きなのかな?」
突然紗良にそんなことを言われて驚いた。
古都「え、好きに決まってるじゃないか。こうして今日だって会いたくて来てる。」
紗良「そうじゃないのよ。ずっと思ってたんだけど、古都は優しいよ。だけど、私がキスすればする。私が好きと言えば好きという。古都が私に向けてくれるのはいつも私が向けたからなんだよ。」
古都「そんなことは・・・。俺はちゃんと紗良とずっと一緒に居たいって今日も思っていて・・・。」
青ざめた。一体なにが悪かったんだ?
紗良「今だってそう。私が聞いて答えるだけ。スマホ見て機嫌良さそうにして。それに、」
「同棲だって、全く話が進まないじゃない。」
しまった。。俺は紗良と一緒に住むことを約束したのに、佳奈との別れに気が散ってちゃんとしていなかったんだ。そして気づいた。あれからもう半年が過ぎていた。
古都「ごめん!考えてないわけじゃない。今度一緒に部屋を探そう。」
紗良「ほら。また私からなんだよ。気づいてよ。」
「もう、ずっと一緒に居る自信がないの。ごめん。」
古都「い、いや。違う。俺は本当にちゃんと先のことを考えていて、、今日だってこれからずっと紗良のことだけ考えるって友達に言ってきたばかりだ。」
紗良「それが本当にそうだとしても、ごめん。愛情不足なの。耐えられない。」
古都「そ、そんなに? そんなに俺はお前を寂しがらせたか?」
紗良「一緒に居れば良いってもんじゃないよ?とりあえず、今日は帰ってくれない?」
古都「お、おい・・・」
紗良「ちょっと考えさせて。」
やっと色んなことに成長できたと思った矢先に、俺はまだ間違えていたことを知らされた。
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