第20話 二人とも好きなのは仕方のないこと?
佳奈が慎也と付き合い始めて数ヶ月が過ぎた。
俺は紗良と順調に付き合い続けている。
そして俺と佳奈は、「会うのは月に一度、誰かが結婚するまで」という約束で付き合っている。つまりは浮気である。
以前の自分なら、そのような倫理観のない選択はしなかったはずだが、佳奈を失いかけて冷静さを失った。
佳奈の言うとおり、この関係性なら誰も傷つかないとまで思った。俺と佳奈さえ黙っていれば、誰も傷つかない。
そうだ。俺は紗良も佳奈も本当に好きなんだ。自分の気持ちに正直になって考えれば、この関係が何より心地よい。紗良といれば、佳奈とはたまにしか会えなくても気が紛れる。
なんだかんだ、佳奈は慎也に会うために東京へ来ると、俺に会う時間もうまく作ってくれた。月に2度、つまり2週間に一度は会えることもあった。とにかく俺にとってはこの結果が最高に感じた。俺は恋人も大好きな幼なじみも、そして親友である慎也も失わずに済んだ。
慎也とはしばらく疎遠になりかけたが、慎也が佳奈と、俺が紗良と恋人でいるという終着になったことで、以前のままの友人関係に戻れた。
「これが最善に違いない。」
そう、麻痺してしまっていた。
これで円満じゃないかというおかしな安心感を抱いてしまったのである。この関係図がいつか終わりが来ることを頭の中から追い出していた。
ある日、俺は仕事帰りに紗良を連れて、慎也の働く居酒屋に来ていた。慎也が紗良に会わせろと言うので連れてきた。思えば自分の浮気相手である佳奈の彼氏に紗良を紹介するなんて軽率であるが、そんなことすら気付けなくなっていた。
慎也「やぁやぁ、初めまして。古都から聞いていたけど、本当に綺麗な人だな。」
紗良「あはは、ありがとうございます。慎也さんもかっこいいですよ。」
そんな風に、和気あいあいとやりとりをする二人を見て、俺も気分が良かった。すっかり気持ちの良い酒が飲めると思い始めていた矢先に、
ガラガラ。戸の開く音。そして、「いらっしゃいませーぃ」の声。聞こえていたが、BGMのように聞き流していた。
「あ、」
聞き慣れた綺麗な声。それは佳奈だった。
振り返り、佳奈の顔を認識する俺。
あまりのタイミングの悪さに声が出なかった。
「久しぶり。」とにっこり俺に向かって微笑む佳奈。そうだ、俺と佳奈は会うのが久しぶりでなければいけないんだ。慎也の建前がある。
「ああ、久しぶり。」と声を絞り出すように返事をした。
紗良「え、お知り合い?」
古都「あ、ああ。この子は、、慎也の彼女で、、俺も同級生なんだ。。」
変な汗が出る。慎也は?どういうつもりで?佳奈が来るのを知っていたんじゃないのか?そう思い、ちらっと慎也の顔を見ると、同じく慎也も古都の顔色を伺っていた。
(確信犯か。)
慎也にとって、古都と佳奈はもう何ヶ月も連絡を取っていない会ってはならない関係なはずだった。恋人ができた古都への想いを断ち切るために、佳奈が絶縁したままのはずなのである。
俺へのけん制、、、あるいは、俺と佳奈を引き合わせ、俺の彼女にも会わせることで、佳奈にきっぱりと結果を受け止めさせたいのか、、。含み笑いをしているようにも見える慎也。そして、佳奈は少し俯いてから、ふぅっと息を吐いたかと思うと、
佳奈「はじめましてー。古都の彼女さんですか?すっごい可愛い人じゃん、古都~!どうも、慎也と付き合ってます、佳奈です。」
紗良「初めまして、こんばんは。あ、良かったらご一緒に、、ね、古都。」
佳奈「あ、いいですよいいですよ。ちょっと離れて座ります。お邪魔したら悪いんで。」
慎也「なに言ってんだよ、それじゃ俺が話しづらいだろ。この辺に座ってくれよ。」
佳奈「・・・。ん、じゃあ、とりあえず座るね。」
そう言って佳奈は空席を見定めると、俺の隣には座らず、紗良の隣を一つあけた席に腰を下ろした。慎也への気遣いだろう。
紗良「古都とも同級生なんですね?高校の?」
佳奈「ううん、高校は別で、小中が同じなんですよ。」
なんて会話を、俺の視覚に二人同時に入る形でしている。
俺の恋人と浮気相手が・・・。
やっとここに紗良と来たことが軽率であったことに気づいた。
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