第18話 駄々をこね足掻く男
「彼女とは別れるから、俺と付き合って欲しい。」
佳奈の耳には確かにそう聞こえた。
は?え?
あれからどのくらい経ったろう・・・。2ヶ月、、2ヶ月半くらいか。古都に彼女ができたと聞いて、私のほうから連絡を遮断した。本当に私のことが必要になれば会いに来てくれると思っていた。そうでもしなければ古都はその女性のことを忘れないままだろうと思ったからだ。そしてその通りになった。だけど、、
「別れるってことは、まだ別れてないってことだよね?そんなんで信じられると思ってる?」
だって、私のことを少なからず好きだったはず。なのに別の女が好きだと言えば、そっちに気持ちがいったからこそその女と付き合ったんでしょう?
「仮にその人と別れて私と付き合ったとして、古都はその人のことなんとも思わなくなるの?」
そんなわけないじゃん。だって、
「その人、会社の人なんだよね?私と違って毎日のようにその人と会社で会うんでしょ?古都、ちょっと考えが浅すぎない?」
思ったまま伝えた。古都は考え込むように押し黙る。ああ、自分じゃ考えられなかったか。その女が好きなまま別れたって、毎日顔を合わすんだよ?もったいないことをしたって未練が残るんじゃないの?
私のこともそうだよ。自分に好意を寄せる女がいなくなるのが惜しいだけ。
それと、もう一つあるんだよ。古都と付き合えない理由。
「あのさ、私、つい3日前くらいに、慎也君からの告白受けちゃったんだよね。」
「え・・・?」
「だから、もう古都は私に会いに来ることも未練もないって思ったからさ。私、結構落ち込んだし荒れたの。好きな人に会えないように自分でして、後悔して、、ってぐちゃぐちゃだった。ずっと慎也君が励ましてくれていたの。」
「。。。」
「だからさ、何度目かな。付き合おうって言われて、彼なら私だけを見てくれているって。だからもう、私には彼氏がいるよ。」
苦痛に顔を歪ませる古都を見て、ああ、もう少し早かったらと自分のした決断に後悔した。でもこのまま古都の言うことを信じて付き合ったとしても、また古都の気持ちは揺らぐんじゃないかな。もう、いいよ。私は慎也君と付き合うって決めたんだから。。。
「い、嫌だ。それでも佳奈のことが好きだ。頼む、考え直してくれないか?」
古都がじりっと私に近寄ってそう詰め寄ってくる。
そんな風に古都が言い出すとは思っていなかった。
佳奈「は?なに言ってるの?古都が自分でその人と付き合うって決めたんじゃないの?ちょっと落ち着きなよ。」
古都「そうだけど、、でもっ、佳奈のことが頭から離れなかったんだ。佳奈が好きだ。失うのは嫌だ。」
佳奈「はぁ、、、じゃあ。私今すぐに慎也君に電話して別れるからさ。古都もその人とすぐに別れられる?」
古都「す、すぐにというわけにはいかないけど、ちゃんと別れる。」
佳奈「はぁ、、呆れた。私が今すぐ慎也君と別れても古都はできないんだ?自分勝手なこと言ってるってわからないの?」
古都「わかるっ、わかるけど、必ずちゃんとする。」
佳奈「ねぇ、わかってる?ここまで言って、二人とも恋人を捨ててさ、私たちが付き合うとするじゃん。それでまた古都が心変わりしたらもう、誰も古都のことを信用しないんだよ?私もきっと、古都になにも期待しなくなるし、会いたくもなくなる。嫌いになるよ?」
古都がうなだれて黙り込んでしまった。かわいそう、、私が本当に大好きな人。だけど、誰が悪いの?古都だよ?
数秒、いや、数分が経ったように感じられる沈黙。古都は頭の中でなにかを思い、そしてバッと顔を上げた。
「東京に戻ったら、彼女と別れる。それで、もう会わないようにするために仕事を辞める。転職するよ。だから、それまで待っていて欲しい。」
古都が諦め悪くそう足掻くような提案をしてきた。意外に思いつつも、私の心は古都が私を失わないためにそこまでいうことに歓喜していた。
古都の決意が強かろうが弱かろうが、本当にそれができるかというと頼りないとしても、私が願っていたことに近づいたのは変わりがない。古都が私を必要としてくれている。
「ちょっと待って。考えさせて。」
そう言って、追い払うように古都を一瞥すると、私は玄関の戸を閉めた。
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