第5話 さらにぐいぐい
デート帰りのドライブ中に、予期せぬ佳奈の言葉。
佳奈「私、古都が帰るときに一緒に東京について行ってもいい?」
古都「え、どういうこと?」
佳奈「よ、良ければなんだけど、古都の部屋に泊まったり遊んだりしたいなって。私そんなに長く連休じゃないから、1泊とか2・・・いや、1泊できたらなって。ダメ?」
古都「だ、ダメとかじゃないけど、男の部屋に泊まるってことだぞ?佳奈はだ、大丈夫なのか?」
佳奈「う、うん。だって古都だし。それにそのっ、私は古都が、好きなんだからさ。もしそういうことがあったって・・・いいの。」
さすがに言葉を失い、気まずい沈黙を作ってしまった。自分が変な気を起こしさえしなければ、特に問題はないのだろうか。ポジティブな捉え方をしようとするが、深く考えないようにしている思考のどこかには、
(なしくずしに付き合うことになりはしないだろうか。)
思ったよりも佳奈と付き合うということが現実になることに不安を覚えていることにうっすらと気づく。同時に、この連休中に宝生紗良と二人きりで会う日付を決めることが難しくなるのではないかとも考えた。
古都「そんな、付き合う前に手を出したりなんてしないけど・・・。でも・・・。」
曖昧な返事しかできない。
佳奈「あのねっ、私は古都に選んでもらうために、自分と一緒に居る良さを古都に知ってもらいたい。だからお願い。一緒に居る時間を少しでも作ってみて、それでも古都が他の女性を忘れられないのなら・・・潔く諦める。だから・・・。」
古都「・・・・・・・・・わかった。」
話のわからない提案ではない。自分の気持ちに寄り添ってくれた言葉に、うなずくしかなかった。
佳奈の視点
古都と過ごした一日はとても楽しかった。告白の返事は保留になっていると頭ではわかっているのに、まるで恋人のようにふるまうことを押さえられなかった。
絶対、選ばれてみせる。なにせ古都には気になる女性がいるらしい。奥手でいて古都の気を変えさせるなんてできるわけがない。体だってなんだって好きにしてほしいと思う。一緒に住もうと言ってくれるなら、すぐにでも仕事を辞めて古都のそばに行く。
体の関係にさえなれば、古都だってきっと。私と一緒に居たいと、そう願ってくれるに違いない。
誘惑する。
運転する古都の横顔をバレないようにやや横目で見つめながら、私の古都に対する想いは止めどなく溢れていくのだった。
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古都「着いたよ。お疲れ。じゃあ、明後日ね。」
二人してただ楽しもうとしたデート中とは打って変わって、お互いに緊張を隠せなかったドライブを終えて佳奈の家の前に車を停める。古都の家がある東京へと二人で行くのは明後日になった。
佳奈「ありがとう。今日は古都といられて本当に楽しかった。」
古都「俺だってそうだよ。」
佳奈「最後に、キスはダメ?」
古都「え?」
ドアを開けて一度は車から完全に降りた佳奈が、そう言って上半身を運転席にいる俺のほうへと寄せてきた。
佳奈「断られたってする。」
俺がどう返事をすれば良いかと悩む間も与えられず、あっと言葉を発すると同時に、暗くてよく見えない佳奈の顔が近づき、俺の唇にそっとキスをした。
じゃ、明後日ねと足早にその場から逃げていく佳奈。なにも言えずされるがままの一貫して受け身だった自分にガクッと頭を垂れて、はぁっと深いため息をついた。
それだというのに俺は、早く宝生紗良に会える日を決めて連絡をしなくてはいけないと、すぐさま別の女性のことを考えながら自分の家へと車を走らせるのだった。
帰宅後。
風呂上がりの祖父が自分の部屋へと向かうところに出くわした。帰ってきてからまだ家族と過ごす時間をまともに作っていない。明日はゆっくり家族と過ごそう。祖父に裏山の祠は一体何の神様なのかと尋ねたところ、アレは山神だ、豊穣の神だ、とやや曖昧な答えが返ってきた。とにかく縁結びの神様と言うわけではなさそうだ。
時間が遅くなってはいけないと、俺は風呂に入り湯船につかったまま、スマホのチャットアプリを開く。紗良と日程を合わせなくてはいけないからだ。
『こんばんは。連絡遅くなってすみません。この日は空いてますか?』
と、佳奈との予定が終わる日の次の日を指定してみた。するとすぐに既読がつく。
『こんばんは。大丈夫です、楽しみにしてるね。』
なんとなく、このまま会話を終わらせたくなかった俺は、思いつくまま返信してみた。
古都『宝生さんは、なにして過ごしてたんですか?俺は今日、海の近くまで行ったのでお土産買ってきましたよ。』
紗良『特に遠出とかはしなかったよ。連休ってどこに行っても混んでいるし。』
『彼氏でもいたら混んでようがどこにでも行っちゃうんだろうけどねー』
古都『宝生さんと恋バナ的なこと話すの今までなかったっすね。そういう台詞聞くの新鮮です。』
紗良『じゃ、今度会うときに沢山恋バナしよっ!』
古都『えー、俺は宝生さんみたいにモテないので、話せることが少ないですよ。』
紗良『じゃあさ、どんな人がタイプ?』
古都『どういう人って・・・。うーん、一緒に居て落ち着いて明るい人とかですかね。』
紗良『私は一緒に居て落ち着く?』
古都『落ち着くと言うより、先輩ですし綺麗な女性なので多少緊張するかな。』
紗良『やーだー。先輩じゃないよ、同学年だってば!』
古都『わかってますけど、入社は先輩じゃないっすか。』
紗良『フラれたー』
うなだれているパンダのスタンプが3連打された
(可愛いなぁ、この人は。)
古都『あはは、今このやりとりは落ち着くし楽しいですけどね。』
紗良『それって口説いてる?』
古都『口説いてませんって。笑』
紗良『苗字呼びで敬語だから落ち着かないんだよ。オフでは同級生らしくもっと砕けて話してよ~!』
古都『いやそれは先輩方の目があるんでムリっす。』
紗良『だからー、オフの時だけ。仲良くなりたいの!』
古都『うーん、わかりました。では徐々にということで善処します。』
紗良『一つも変化ないじゃん。オール敬語じゃん。泣』
古都『あはは。ごめん。でももう少しなれるまで待ってよ。』
紗良『そんな感じが良い!うん。私、お姉さんぶるより古都君には頼ったり甘えたりしたいなーって。』
やばい。可愛い。やりとりが途切れるのが嫌ですっかり長風呂になって指先がふやけた。
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