第17話、それ俺や!!!!

 前話のおさらい。

 素銅級(クプルム)に昇級した。


「ふむ」


 まずは腕慣らしだと簡単そうな依頼を受けようと思い、掲示板を長し見た。

 一応ランクごとに張り分けられているので見付けられはするのだが。

 簡単そうな依頼って、どれ?


「んー???」


 首を傾げながら依頼の紙を眺める。

 明らかに玉鋼級(フェルム)のと形式が変わっていた。

 玉鋼級(フェルム)なら、側のイラストだけでもある程度の予測が付いていたけど、素銅級(クプルム)の依頼ではワンポイントのイラストしか無い。

 文字ばかり。

 これは困った。どうしよう。


 なんとかなりそうと軽く考えて、全く勉強をしていなかったツケが返ってくるとは。


 さんざん考えた末、ネズミのような絵がある依頼を選んだ。

 ネズミ退治とか、そんな感じだろう。


「これお願いしまーす」

「こちらですね。読み上げますか?」

「助かりますー」


 というわけで読み上げて貰った。



 討伐依頼


 街の周囲に出没しているホビラットの群れを討伐、または撃退せよ。


 群れの規模は想定小規模

 討伐確認はホビラットの尻尾

 撃退確認は後日職員の確認で行います。




 ホビラット?

 ネズミじゃなくて??


 もう一度ネズミのイラストを見てみたら、ちょっと違うことに気が付いた。

 このネズミ、尻尾が猫みたい。


 とはいえ、この世界でははじめての生き物だ。

 しっかりと確認しないと誤討伐もあり得る。


「あのー、このホビラット?のイラストないですか?地図も」


 てっきり普通のネズミかと思ってたから、ちゃんと特徴を覚えなくては。


「ありますよ。少々お待ちください」


 机のしたから、この街の周辺の地図とホビラットのイラストが出された。


「二足歩行のネズミが槍もってますね」

「ホビラットですから」


 槍を持つ二足歩行のネズミということが判明した。

 個体によっては首飾りを付けてる。

 だいぶ予想と違うなとまじまじと眺め、頑張って脳みそに刻み付けた。

 スライムに脳みそがあるのかは知らないけど。

 その後はガンガン質問をぶつけて、イメージを構築した。

 ギルド職員は俺が知らないのを不思議そうにしていたのだが、有名なんだろうか?


「目撃情報はこちらです」


 そう言って、ギルド職員が目撃場所を指差した。

 俺の借宿じゃん(森)

 思い切り知っている場所だった。

 寝ても(文字通り)覚めても(依頼)居座っているマイホームだよ。

 そんなのいたっけ??


「全然気付かなかった」

「ああ、ラムスさんの採取場所は浅いところですからね。このホビラットはもっと奥です」


 指で示されたのは、俺がよく魚を食っている川近くだった。

 なんで遭遇しなかったんだろう。


「ここではホビラットの出没と同時に、岩の消失情報もありまして、もしかしたら岩を砕いて加工する種類の可能性もありますので」


 それ、俺や。


「それに魚の乱獲や、地面に穴を開けての罠を作る事のできる、知能が高い群れだと思われます」


 それも、俺や。


 やばい。俺の食事によって発生した痕跡が、ホビラットのせいになってる。

 申し訳ない気持ちが芽生えたけど、ここで弁明したら俺が疑われるので、ごめんなホビラット。


「十分にご注意ください」

「はーい」


 討伐する前に一応謝っておこう。ホビラットに。


「そういえば、パーティーはもう組まれたのですか?」


 突然話が変わった。


「? いいえ?ソロ活してます」

「ええ!?危ないですよ!」


 驚く職員。

 そんなに危険なの?

 チラリとホビラットのイラストを見る。

 確かに槍は危なさそうだけど、俺には斬撃無効が付いているから驚異にはなり得ない。


「んー、でも危なくなったら逃げますし、あとちょっと新技を使いたいから巻き込みたくないっていうか」


 巻き込みたくないっていうか、見られなくないっていうか。


「?」

「まぁ、とにかく!ちょっと様子見してこようかなーって思ってまして~」


 折れることのない俺にギルド職員は溜め息を付いた。


「分かりました。ダメそうならきちんと逃げてくること。こういうので死なれたら馬鹿馬鹿しいので」

「はーい!」


 受諾印を押されて、詳細な書類を貰って出発した。







「草探しかい?」


 途中、いつもの門番に止められた。


「今日は討伐依頼です!」

「え、素銅級(クプルム)にそんなのあったっけ?」


 だんだんフランクになってくるな、この人。


「ふふ、実は素銅級(クプルム)になったのですよ」


 誇らしげに胸で煌めくタグを見せ付けた。


「ああ本当だ。え、でもパーティーは組まなかったのですか?」

「基本ソロ活なので」

「そろか?…でも一人だと何かあった時に危険ですよ。囲まれたりなんかしたら…」

「あー……」


 脳裏によぎる牙に囲まれた記憶。

 あれは、怖かった。

 怖かったけど、今はあの頃とは持っているスキルが違う。


「でも、多分なんとかなりますよ」


 いざとなれば、地面に逃げ込めば良いし。


 納得していない門番だったが、俺は構わず「行ってきまーす!」と森へと向かった。




 慣れた足取りで森を突き進む。

 進みながら耳をすましてみるけれど、特に変な音とかはしない。

 それにしても本当にそんなのいたのだろうか?

 なら何故一度も遭遇しなかったのか。


「もしや魔物の感とかでうまーく住み分け出来ていた、とか??」


 魔物には縄張りがあるみたいだから、そういうこともあるんだろう。


 到着した。

 相変わらずいつもの川だ。

 違う点は、俺の修行の後で岩が犠牲になっていることくらいか?

 改めて川原を見渡せば、確かに酷い惨状だった。

 明らかに通常じゃない景色なのに、何故今まで気付かなかったのか。

 多分、見慣れすぎて、些細な変化に気付けなかったのだ。

 アハ動画と同じだ。


 とはいえ、さすがにダメだなこれは。


「……謂れの無い冤罪がこれ以上発生しないように、修行場所変えようかな…」


 この依頼が終わったら、次の修行場所を探そう。

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